2025/07/08
EnforceTac 2025 Selection by Masami Tokoi
エンフォースタック2025 床井雅美セレクション
はじめに
EnforceTac 2025は2月24日から26日まで、例年と同じドイツ ニュルンベルグで開催された。あれから既に4ヵ月以上が経過している。例年であれば、とっくにその紹介リポートをお届けしているはずだ。しかし、今年はその時期をだいぶ送らせている。
リポーターはもう半世紀以上に亘って、銃のリポートを旧Gun誌、およびGun Professionals誌に書いてきた。ガンショーやディフェンスショーのリポートを始めてからも、かなりの時間が経っている。最初にIWAに参加したのが1975年で、それはIWA の第2回目だった。そこから数えても今年でちょうど50年となる。
通常のショーリポートはその年に初めて公開された新製品を中心に紹介する形で展開してきた。しかし、時代が変化し、個性的な新製品はあまり登場しなくなってしまった。もちろん、新型は製品版であれ、試作品であれ、毎年いくつも発表されてはいる。
しかし、その多くは他社から既に発表されているものの焼き直しのような製品がほとんどだ。既存の銃と同じような形状で、特別な機能も追加されていなければ、当然興味を引かない。そのメーカーにとっては新型かもしれないが、面白味がないのだ。ある意味で、銃の世界も行きつくところまで行ってしまったのかもしれない。
但し、銃の世界も少しずつ、変化は起こっている。それは驚くような変化ではないが、長期的に見れば、新しい方向に向かって動いているのだ。新製品ばかり追いかけていると、そのメーカーのラインナップ全体に目がいかなくなり、時には大事な変化を見落とすことにもつながりかねない。
そこで今回は目先を変え、リポーターが興味を持った数社をピックアップし、そこではどのような製品を展開しているのかを紹介する形で、EnforceTac2025のリポートとすることにした。EnforceTac全体の様子を伝えることにはならなくなってしまうが、こうすることで、それぞれのガンメーカーの現在を違う視点から見られるのではないかと考えている。
また今回はいつもと異なり、メーカーからのオフィシャル写真を多く使用していることを予めお断りしておきたい。
Beretta
ベレッタはイタリア北部中央の都市ブレッシアの郊外のガルドーネ・バル・トロンピアに本拠を置く民間ガンメーカーだ。その創業が何年のことかは正確にはわからない。
しかし、1981年に発見された古文書に、“1526年10月3日、ブレシア地区ガルドーネに住むマイスター・バルトロメオ・ベレッタは、ヴェネチア兵器廠に対し、185本の大型マッチロック銃の銃身を製造し、ヴェネチア兵器廠は、銃身代金として、296デゥカッチを支払った”と書かれていることから、1526年には、銃身製造をおこなっていたことが判明、そこから数えると今年は499年目となる。これにより、ベレッタは現存する世界最古の銃器メーカーとされるようになった。
第二次大戦後のベレッタは、ショットガンを製造するメーカーであると同時に、イタリア軍や警察に向けて、セミオートマチックピストルやサブマシンガンをほとんど独占的に生産供給しているメーカーとなった。近年になると、それにアサルトライフル等の生産と供給が加わっている。
同社が大きく飛躍したのは、1985年にアメリカ軍が制式ピストルM9として、ベレッタ92SB-F(92F)ことが転機となったことは間違いないだろう。ベレッタの知名度は飛躍的に高まり、その売り上げもそれに連動した。競技用ショットガンの分野でも目立つ存在になったのは、1980年代以降だ。
ともすればベレッタが昔から一流メーカーであったという印象を持たれる場合があるが、それは主にイタリア国内においての話であり、実際には1980年代以降に大きく躍進したといえる。1526年から続く世界最古の銃器メーカーだと言われ出したのも、この時代だ。
事業規模を拡大していったベレッタは、フィンランドのサコーやイタリアのショットガンメーカー、ベネリやフランキ、レプリカアンティークガンメーカーのウベルティなどを傘下に収める総合銃器メーカーに発展、ベルギーのFN、ドイツのヘッケラー&コッホと並んで、ヨーロッパNATO軍の最も重要な小火器供給源の一つとなっている。
ベレッタは現在も、意欲的に新型の軍用銃や民間向け銃器の新規開発を継続しており、新製品を次々と発表、イタリアやNATO軍だけでなく世界に向けて、銃器輸出をおこなっている。
Beretta APX A1
ベレッタは軍用警察向け官需ピストルの最終型としてベレッタ・モデルAPX A1 ピストルを供給している。アメリカ軍の制式ピストルM9を供給していたベレッタは、アメリカ軍が新型ピストルの採用に動き出したことを受けて、M9の改良型M9A3を提案した。しかし、これが却下されたことを受け、M9の継続採用を諦め、新型のストライカーファイアードポリマーフレームピストルを開発、2015年にAdvanced Pistol X、略してAPXを発表した。これを持ってアメリカ軍のMHSコンペティションに臨んだものの、途中で敗退している。そのため、2016年からAPXの市販を開始した。
ベレッタとしては92Fと同様、APXが幅広く軍および警察での採用を勝ち取りたいと考えたのだろうが、思うような成果は上がらなかった。2019年には、日本の自衛隊の新拳銃トライアルの候補にも選ばれたが、ここでも敗退している。但し、イタリア軍はAPXを92Fの後継として採用した。他にも軍および警察が採用した実績はあるが、大きな広がりにはなっていない。
民間市場向けでの販売促進にため、APXはセンチュリオン、コンパクト、コンバット、ターゲット、キャリーといったバリエーションを展開、さらには価格ダウンという販促活動をおこなったが、あまり効果はなかった。
そのため、2022年にベレッタが改良型のAPX A1を発表、APXの後継に位置付けた。APX A1の内部構造はAPXと基本的に変わらず、主に使いやすさを目指して、外観のアップグレードをおこなっている。APX A1の登場により、民間市場でもAPXの販売は終了したが、軍および警察との納入契約があるため、ベレッタは従来型APXのフルサイズのみ官需向けとして製造供給を続けているのが現状だ。
APX A1はフルサイズモデルの他、フルサイズタクティカル、コンパクト、コンパクトタクティカル、キャリーといったバリエーションを展開している。
APX A1が登場して既に3年が経過したが、市場の反応はそれほど良いとは言えない。この銃を手にして思うことは、ダメな理由は全くないということだ。現代のポリマーフレームを持つストライカーファイアードピストルとして求められる機能はすべて備えている。握りやすいグリップを含め、人間工学的な問題はほぼなく、オプティックレディーで、スライドストップは左右にある。トリガーセイフティを有し、トリガープルも感触は良好だ。しいて言うなら、せっかくのモジュラーフレーム機能を生かしていないという問題はあるが、これはベレッタに限った話ではない。価格だって、アメリカ市場ではフルサイズのスタンダードモデルは$519と安価だ。
そんなAPX A1に注目が集まらない理由はただ一つ、他社製品との差別化ができていないということだ。ほとんどのメーカーが似た機能の製品を出しており、APX A1は目立たないのだ。これはベレッタにとってジレンマであろう。

口径:9mm×19
全長:190mm
銃身長:108mm
重量:822g
マガジン装弾数:10/15/17発
作動方式:ショートリコイル, シングルアクション
Beretta 92X
M9(92FS)がアメリカ軍制式拳銃の座をSIG SAUERに譲ったのが2017年だ。新たなM17とM18が同年11月から配備開始となったが、M9は当面、平行して使用されるといわれていた。しかし、かなり急速に置き換えが進んでいる。
ベレッタは92FSに代わってAPXを全面に推してセールス活動をしていくつもりだったようだが、思ったほどAPXが普及していかなかったこともあり、90シリーズ(92系全般は90シリーズと呼ばれる)をアップデートし始めた。
M1911A1がM9に切り替わった後も、コルトは一連のガバメントモデルを果敢に民間市場に売り込み、“1911”を一つのハンドガンカテゴリーとして確立させた。実際のところ、これによって潤ったのはコルトよりも1911クローンのメーカーだったが、ベレッタも90シリーズをずっと定着させていこうと考えているのだろう。
写真はベレッタ92Xで2019年にリリースされたものだ。従来の92FSと比べてこのモデルの特徴は、バレルを0.2インチ短縮して4.7インチとし、トリガーガードをラウンド形状に変更、ダストカバー部にピカティニーレイルを配置し、グリップフレームをストレートなVertecタイプにしていることだ。これはもっとも従来の92FSに近いモデルだが、その後、92Xのバリエーションがどんどんと増殖していく。
92Xをベースに競技用とした92X Performanceが登場、これは強化スライドのBrigadierタイプが装着されたものだ。デコッキングレバーなしのコック&ロックセイフティがついている。これのオプティックレディ仕様が92X Defensiveだ。なぜこの銃がDefensiveという名前なのかと思っていたら、オプティックレディ仕様にRDO(Red Dot Optic)と名付けたモデルも登場した。しかし、オプティックレディはその後に当たり前となると、新しいモデル名にはRDOの文字は付けなくなった。
そしてシングルアクショントリガーを装備した92XIが登場する。これはスライド上のデコッキングレバーを無くし、フレームの左右にコック&ロックタイプのマニュアルセイフティを設けている。ならばXIはシングルアクションオンリーモデルを意味するのかと思いきや、92XI SAOとわざわざSingle Action Onlyと謳ったモデルもある。そしてこのX1のバリエーションがやたら多いのだ。
そして2024年には92GTSが登場した。これは92XIの派生型らしく、シングルアクションにダブルアクション機能を追加しつつ、フレームにあるセイフティレバーにデコッカー機能を追加、内部のシアは新開発のツインシアと呼ばれるものとなっている。GTSの名前は、デコッカーオンリーのGシリーズで、Twin Sear装備から来ているそうだ。
こうやって書いているだけで非常に混乱する。これらに加え、昔からの92FSやM9もそのまま販売継続中だし、一時期アメリカ軍に提案したM9A3と、そのオプティックレディ仕様のM9A4も供給中だ。
とにかくベレッタの90シリーズは増殖に次ぐ増殖を繰り返している。その時々で思いつきで製品名を決めているとしか思えない、名称の不統一ぶりは甚だしく、ベレッタのセールス担当ですら、自社製品をすべて把握しているとは思えない。
とにかくベレッタの9mm×19ピストルは種類が多い。本来主力であるはずのAPX A1を90シリーズは完全に喰っているほどだ。

口径:9mm×19
全長:217mm
銃身長:119mm
重量:808g
マガジン装弾数:15発
作動方式:ショートリコイル, DA/SAハンマー
Beretta NARP
NARP(New Assault Rifle Platform)は、ベレッタによって2018年から開発が始まったとされている。2023年9月のDSEIで発表されたものの、まだその詳細は公開されていない。2022年よりイタリア軍でのテストが開始されており、ベレッタ関係者は、遠からずイタリア軍に採用される見込みだと言っていた。第二次大戦以降のベレッタとイタリア軍の関係を考えると、よほどのことがない限り、そうなるだろう。
イタリア軍は2008年よりARX160の配備を始めた。今年で17年目だが、まだ完全にAR70/90から切り替えを完了していない。とはいえ、AR70/90は1990年の採用だったので、そのサイクルでいえば、AR160後継ライフルの登場時期としては妥当なタイミングかもしれない。
NARPの詳細は明らかになっていないので、その機能は推測するしかないが、外観的にはM4カービンに似ている。それによりNARPはベレッタが製造するM4クローンだと言われたこともあったが、NARPはM4とは全く違う内部構造のアサルトライフルだ。
内部構造は現在まだ公開されていないが、M4カービンとは違い、もっとずっとシンプルで、洗練されたものだと言われている。
また外観はM4カービンに似ているが、NARPはバッファーチューブを使っていない。写真はテレスコピックストック仕様だが、これとは別にコラプシブルストック(折りたたみストック)仕様もある。必要に応じて、これらのストックを交換することも可能らしい。テレスコピックストック仕様のストックもM4より角ばったデザインだ。
作動方式は、ショートストロークガスピストンで、ボルトヘッド先端にはマイクロロッキングラグがある。
グリップはM4互換だ。エジェクションポートやフォワードアシストなどもほぼ同じ形状をしている。またチャージングハンドルの位置もM4と同じだ。これは世界で最も普及しているAR, M4プラットフォームをそのまま踏襲することで、だれもがNARPをすぐに使いこなせるようにするためだということだ
アッパー、ロアレシーバーは共に7075エアクラフトグレードのアルミ合金で、少なくともアッパーはM4より角ばっている。
NARPはモジュラーデザインで、11.5インチ、14.5インチ、16インチのバレルとハンドガードは、必要に応じて速やかに交換が可能らしい。
全貌が明らかになるのはいつなのかは不明だが、ベレッタはNARPの完成度にかなり自信を持っているようだ。

口径:5.56mm×45
全長::806-888m
銃身長:368mm
重量::未公開
装弾数::30発(STANAG 4179)
作動方式:ガスオペレーテッド、ロテイティングボルト
Beretta ARX160
2007年のDSEIで初公開されたARX160は、翌2008年にイタリア軍へ限定採用され、アフガニスタンにおける国際治安支援部隊に真っ先に配備された。実際に紛争地域で使用することで不具合点が見つかり、それを改良したARX160A2が2012年に完成、これによりイタリア軍への納入が本格化した。翌年にはさらに改良を加えたARX160A3が登場している。現行モデルはさらに修正を加えたARX160A4だ。
ARX160はアルバニア軍も採用した他、カザフスタンが7.62mm×39口径に変更したARX160を配備、他にもトルクメニスタン軍、カタール軍、アルゼンチン軍などが採用した。
このライフルは、ポリマーを多用して製作され、外観上、バレル先端部以外はほぼポリマー樹脂となっている。最大の特徴は、バレルのクイックチェンジ機能と、ほぼ完全に近い、アンビデクストラウス機能だ。コッキングハンドルの方向は瞬時に変更でき、また排莢方向も簡単に左右切り替えができる。
ARX160はアサルトライフルとして、大きな成功を収めとは言い難いが、機能的に著しい欠点があるわけではない。にもかかわらず、イタリア軍は早くも次のライフルに移行しようとしているわけだ。強いていえば、丸みを帯びたその外観から、やや嵩張ることぐらいしか、欠点は思いつかない。

口径:5.56mm×45
全長:680/840-900mm
銃身長:406mm
重量:3,410g
マガジン装弾数:30発
作動方式:ガスオペレーテッド、ロテイティングボルト
Beretta ARX200
7.62mm×51弾を使用できるコンバットライフル(マークスマンライフル)がARX200だ。2015年にMilipolで発表された。
これは国際治安支援部隊としてアフガニスタンへ派兵をおこなったイタリア軍が、現地での戦闘経験から5.56mm×45より有効射程の長い7.62×51mmライフルが必要と判断し、ベレッタへ開発を要請したことで開発された。
このとき、ベレッタがARX160を拡大するのではなく、新規に設計をおこなっている。但し、ARX160で訓練を受けてきた兵士が速やかにARX200を活用できるよう、外観や操作性は可能な限り、ARX160に似せている。
ARX160にあったクイックバレル交換機能はない。また排莢方向の左右切り替え機能もない。但し、ボルトハンドルの左右切り替えは可能だ。ストックは写真のコラプシブルストック仕様と簡易スナイパーライフルとしての使用を想定した固定ストック仕様とがある。
ARX160がNARPに切り替えられても、ARX200はそのまま継続使用されるだろう。少なくともベレッタは7.62mm×51の新たなバトルライフルの開発計画は発表していない。

口径:7.62mm×51
全長:715mm/874mm/940mm
銃身長:406mm
重量:3,900g
マガジン装弾数:20発
作動方式:ガスオペレーテッド、ロテイティングボルト
Beretta PMXs
2017年のMilipolでベレッタはそれまでのモデル12の後継機として新型サブマシンガンPMXを発表した。1959年に開発されたモデル12はその後、改良が加えられ、最終型がモデル12S2となっていたが、2008年に製造が終了していた。PMXは9年間のブランクを経て登場したサブマシンガンというわけだ。
軍用兵器としてのサブマシンガンはその重要性を失いつつあるものの、依然としてヨーロッパの法執行機関では活用され続けている。特にイタリアでは国家憲兵隊(Carabinieri:カラビニエリ)をはじめとする法執行機関で多数のサブマシンガンが使用されてきた。PMXはカラビニエリの要請で開発がおこなわれ、真っ先に納入されている。
PMXの開発当初はフルオートのみの純然たるサブマシンガンであったが、それではほとんどの国で軍や法執行機関に対してのみの販売となるが、フルオート機能をオミットしてセミオート仕様とすれば、民間市場に向けても販売できる可能性が高まる。またストックを外せばアメリカ市場でピストルとして販売ができる。そんなセミオートピストル化したモデルがPMXsだ。作動メカニズムはシンプルなブローバック方式で、ロッキングメカニズムは組み込まれていない。

口径:9mm×19
全長:417mm
銃身長:175mm
重量:2,495g
装弾数:30発
作動方式:ブローバックオペレーテッド
Beretta 1301 Tactical
ベレッタの銃器製造事業は、ピストル、アサルトライフル、サブマシンガンの他にショットガンが重要な柱としてあることは本章の冒頭でも述べた。2024年のパリオリンピックではクレー射撃競技では15個のメダルがアスリートに送られたが、そのうち14個はベレッタショットガンを使用するアスリートが獲得した。それほどまでにベレッタは、ショットガン市場を大きな力を持っている。
スポーツ用ショットガンとタクティカルショットガンは、異なるカテゴリーだが、ベレッタはセミオートマチックショットガンの分野でも高い技術を誇る。ベレッタ1300はスポーツ用ガスオペレーションショットガンだが、これをベースとした、軍/警察用ショットガンが1301タクティカルだ。
基本的なメカニズムは全く同じで、外観上、短い銃身と独立型ピストルグリップストックを装備したもので、それ以外にはゴーストリングサイトとレシーバー上に短いピカティニーレイルを載せている。銃身の短さを除けば、同じようなショットガンもスポーツ用として市販されていて、多くの一般市民が使用している。

口径:12GA 3inch
全長:960mm
銃身長:475mm
重量:3,084g
装弾数:5発+1
作動方式:B-Linkガスオペレーテッド