2025/07/07
FN Browning M1910/1922のメカニズム
Text & Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
ジョン・ブラウニングのデザインしたピストルで、マスターピースといえるものは、モデル1911、モデル1906、モデル1910/1922、FNハイパワーの4種だと筆者は考える。ここでいうマスターピースとは、軍および法執行機関用として、または商業的に成功し、後世に少なからず影響を与えたモデルを意味する。
モデル1911と前後してデザインされたモデル1906(.25ACP)はブローバックオートピストルのマスターピースだった。
ショートリコイルのモデル1911と異なり、シンプルな小型ピストルとなったモデル1906はコマーシャル市場で成功した。モデル1910(.32ACP)はモデル1906のスケールアップ仕様だ。そしてモデル1922は、モデル1910の改良大型化モデルという存在だ。
今回カッタウェイしたのはモデル1922である。口径は.32ACP、登場当時、最新のポリス、シビリアンの護身用モデルだった。モデル1910を選ぶミリタリーオフィサーも存在しただろう。日本軍将校にも私物ピストルとしてブラウニングは人気があった。日本でも戦前は善良な市民ならピストルが所持できたので、FNブラウニングに限らずコルト、H&R、モーゼル(マウザー)、アストラなどが輸入されていた。
ブラウニングデザインのブローバックは、使用目的に合わせて、ポケットから出しやすいようにスナッグプルーフ(引っかからない)を重視してハンマーがなく、ストライカーを採用したものが多い。それに合わせて、当時、考え得る最大限の安全機能を組み込んでいる。
モデル1910/1922の安全機能を列挙すると
1)マニュアルセイフティ(スライド&グリップセイフティをブロック)
2)グリップセイフティ(シアの下降をブロック)
3)マガジンセイフティ(グリップセイフティをブロック)
かなり重装備だ。
カッタウェイ写真でデザイン&ファンクションを説明したい。



その一方、フレームの内部はこんな具合だ。セイフティレバーの内側のパーツがグリップセイフティのマズル方向(前方)への動きをブロックしている。


ディスコネクターはオートピストルがどれも備えているメカなのだが、このパーツの働きでスライドが閉鎖位置にないとシア、トリガーが連動しない。これは同時にセミオートと関係したメカでもある。



ブローバックは発射時、スライド、バレルがロッキングしているわけではない。発射時、ブレットをマズル方向に押す力はそのままケース(薬莢)を介してブリーチフェイスにも掛かる。
しかしながらスライドの質量はブレットの質量の何倍もあり、さらにリコイルスプリングの力が加わって、ブレットの動くスピードに比べてスライドの開放は遅い。ブレットがマズルから飛び出した瞬間、スライドは若干後退しつつある。ケースはこの時、ピストンのような役目をする。
ブローバックの限界は一応、.380ACPまでとされる。しかし.380ACPのビシッと来る独特のリコイルはいただけない。射撃しやすいとなると. 25ACP、そして.32ACPにかなり分がある。ブローバックとはこのクラス用に考えられた作動方式なのだ。
モデル1922に限らず.32ACPはこれまで多くの種類を撃った。ベレッタ、PPKなども含まれる。しかし撃ち易さとなるとモデル1910/1922には敵わない。何故、モデル1910に人気があったのか理解できる。
スライドが後退開始直後、スライド下面のディスコネクターカムはトリガーバーの盛り上がった部分を押し下げる。
トリガーで押されているトリガーバーはシアの下側に入り込む。シアはトリガーバーと関係なく時計方向に回転、スライドが後退から前進するときストライカーをコッキングポジションでホールドする。スライドはマガジンから第2弾を押し抜き、チェンバーに押し込む。
トリガーを一度、元の位置に戻せば前の関係に戻る。これがモデル1910/1922のセミオートメカだ。

FN モデル1910/1922はカッタウェイは所持しているものの、実際に射撃できるモデルは所持していない。いずれ程度の良いものをと狙っているのだが、なかなか見つからない。P-38 、P-08ならいくらでもある…、もっとも財布との相談だが。カッタウェイのM1922は16年ほど前に購入したモデルだ。ドイツ軍占領下のFN工場製でナチスのマークが入っている。痛みが激しくコレクションとしての価値が薄いこともありカッタウェイにした。
モデル名からも察せられるようにモデル1910の登場は1910年である。そしてまた日本にも軍人、シビリアン用として輸入されていた。優れたピストルだったので当然ではあるが…。ここで思うのは、日本は自国デザインにこだわらず、FNと契約してこれをライセンス生産したほうが良かったのではないだろうか、ということだ。それが出来なかったら亜流を製造する事だって出来たはずだ。ブローバックでしかも.32ACPじゃ威力不足、例え.380ACPでも同じことと考えたのか?それが理由の一つだとは思いたくない。いくら威力があっても作動不良じゃ糞の役にも立たないからだ。
戦争も最後になって浜田式、杉浦式などブラウニングに近いものが登場した。もっともそれらの性能に関しては未知数だが…、日本の場合、8mm南部カートリッジの設定がボタンの掛け違いだった。自衛隊が1960年代初めに設定した7.62mm減装弾も同じこと。NATO弾との互換性に大問題あり、有事の際にはたいへんなことになっただろう。
5.56mmの時代になって5.56mmNATOのスタンダードであるSS109と同規格でスタート。これなら互換性がある。ようやくまともになってきた。昨年末(2013年)に某国が南スーダンでその恩恵にあずかるところだったが…、ご承知のようにいろいろあった(笑)。話が横道にそれてしまった。
日本軍は独自規格にこだわった結果、奇妙な弾と信頼性に問題のある銃を作ってしまったが、当時、世界的に人気を集めていた.32ACPを使えば良かったのだ。こだわることは時として大切だが、こだわり過ぎると不幸な結果が待っている場合がある。
Text & Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
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