2025/07/03
【NEW】ちょっとヘンな銃器たち18 謎の大型多連装大型リボルバー
長年に亘り、コレクターや銃砲研究者の間で謎の大型リボルバーとして、その使用目的が議論の的となっていた多連装ダブルアクションリボルバーがある。 あまりにも異様な形をしており、手に持って撃つことも困難なものだ。しかし、ある時、その謎が一気に解けた。
*それぞれの画像をクリックするとその画像だけを全画面表示に切り替えることができます。画面からはみ出して全体を見ることができない場合に、この機能をご利用ください。
謎のリボルバー
長い間、その用途や使用法が不明とされていた銃器が存在する。今回取り上げる大型多連装リボルバーもそのひとつだ。少なくない人々が、このリボルバーの存在を紹介してきたが、だれもその正確な使用法や用途を説明できず、正体不明の大型多連装リボルバーとしていた。
この大型多連装リボルバーには、19世紀末から20世紀初頭にかけて、主にベルギーで盛んに製造されたリボルバーよく似た構造のダブルアクション撃発メカニズムが組み込まれている。
だが、撃発メカニズムこそ似ているものの、この大型多連装リボルバーは全体のシルエットが他のリボルバーからかけ離れた形状をしており、片手で握って射撃する一般的なリボルバーとは異なる使用目的で製作されたことは明らかだった。
第一にこのリボルバーは大きすぎて重く、しかもグリップ部分が特殊な形をしており、通常の人間には手で握って照準し射撃することがほとんど不可能だ。では何の目的のために製作され、使用されたのか、このことは多くの研究者が突き当たる壁だった。
ヨーロッパには珍銃のコレクターや研究者が何人もいる。もちろん一般の銃砲コレクターと比べればごくわずかだ。彼らにとって、大型多連装リボルバーはよく知られた存在だった。しかし、その現物はきわめて残存数が少なく、だれもそれが何のために作られ、どのように使用するのかを説明できなかった。
リポーター自身、長いリサーチ期間でその現物を実際に見たのは2度だけだ。謎が深まるばかりの正体不明のリボルバーだが、リポーターにとってはリサーチのし甲斐のある対象でもあった。
この大型リボルバーは既に説明した通り、ダブルアクションの撃発メカニズムが組み込まれており、フレームの下方に大きく長いトリガーが装備されている。トリガーにはその下方に大きな穴が開けられており、トリガーガードを備えていない。このことから、このトリガーはその穴にコードなどを取り付けて引っ張り、リモート射撃をする目的を持つことが想像できる。

“理由は不明だが”、と最初に断わった上で、このリボルバーに関して“ボートリボルバー”という名前だと解説している記事を見たことがある。その解説では“ボートリボルバー”の名前の由来は明らかにしていない。しかし、この“ボートリボルバー”という名前はまさにビンゴだった。
リボルバーの構造
答えを書く前にこの大型多連装リボルバーのメカニズムの解説を続けよう。
このリボルバーの回転するシリンダーには、20発の弾薬が装填できる。口径は11mmと大きく、20個のチャンバーを備えるため、シリンダーの直径はかなり大きい。そのため、多数の弾薬を装填するシリンダーを通常のリボルバーのシリンダーのようにレンコン状にしたのでは、シリンダーが極めて重くなってしまう。重量のあるシリンダーを回転させようとすると、シリンダーハンドには大きな負荷が掛かり、これが破損や磨耗の原因となる。また、重いシリンダーはダブルアクションのトリガープルを重くしてしまう。
この欠点を克服するため、このリボルバーのシリンダーは回転軸の周囲とチャンバーの周囲、そしてシリンダー後端を残して、シリンダーの前方中心部分を大きくえぐり取ってシリンダー重量を軽量化している。同じようなシリンダーの軽量化は、ベルギーで製作された通常の多連装リボルバーでも見られる手法だ。

弾薬の装填は中折れ式。フレーム上部後端に設定されている固定ラッチを押して、フレームの後方を下に折るとシリンダー後面が露出し、チャンバーが露出する。ここに20発の弾薬を装填するわけだ。
この大型多連装リボルバーで使用された口径11mmの弾薬は、今のところ確定されていない。この事もこのリボルバーの正体を知る上での大きな謎となっていた。
リボルバーに備えられたバレルはシリンダー状だ。すなわちその銃腔(ボア)にはライフリングが切られていない。そしてバレルの基部は不必要なまでに強化されて太くなっている。
1909年の雑誌記事
このリボルバーの正体は、突然判明した。ある日、リポーターは仕事場に積んであった古雑誌を何気なくめくっていると、そこにはまさにこの大型リボルバーそのものに関する記事が掲載されているではないか。長年この大型多連装リボルバーに関する情報を探し続けていたのに、実はごく身近にそのすべての情報があったのだ。長年の疑問は一瞬にして氷解し、この大型リボルバーの正体が明らかになった。
その記事は、ドイツの最有力銃砲雑誌DWJ(ドイツ・バッフェン・ジャーナル:ドイツ銃砲ジャーナル)2011年8月号に掲載された小さなものだった。その記事はドイツのコレクターの間でも議論の的になっていたこの大型多連装リボルバーの謎を解明するというタイトルだった。

記事には、20世紀初頭にドイツで発行されていたドイツの銃砲雑誌シュス・ウント・バッフェン(Schuss und Waffen:射撃と銃砲)1909年第15 号に載っていた内容が転載されていた。ドイツだけでなく世界的にも謎の大型リボルバーとされていた正体は十中八九、これで間違いなく確定されたと思われる記事だった。
この1909年の記事は、雑誌DWJの読者の一人が発見し、編集部に送られてきた古いその記事の転載を中心に構成されていた。オリジナルの雑誌シュス・ウント・バッフェン誌は今から100年以上も前に発行されていたもので、当時の印刷部数は少ないうえ、2度の世界大戦を経ていることで、現存部数は極めて少ない。この雑誌自体が今ではコレクターズアイテムとなっている。
転載されたシュス・ウント・バッフェンの記事は、このリボルバーが作られていた時期にきわめて近くのもので、当時リボルバーのコレクターとしても有名だった研究者のベンノ・ワンドレック博士(Dr. Benno Wandolleck)が執筆したものだった。このオリジナル記事には、今回採り上げた大型リボルバーのイラストが掲載されている。
それほど長い記事でないので翻訳全文を掲載する。
”銃弾を見て、このリボルバーは実弾を射撃する武器ではなく、空包射撃用ではないかと考えました。イラストで見る通り、トリガーはコードで引いて撃発するように設計されています。ダブルアクション機能で、コードを緩めて再び引くことで、次々と連射することが可能です。その際には弾丸を発射するのではなく、射撃音だけを発生させます(つまり空砲射撃リボルバー)。その時、このリボルバーの用途として思い浮かべたのは、一昔前に盛んに行われていた人気の海軍ショー向けに作られたものだろうということでした。
このリボルバーはミニチュア戦艦で使われた大砲の1つにすぎません。ミニチュア戦艦内に横たわっている人物がリボルバーにつながるコードを引くだけで、連続速射が可能でした。いちいち再装填するためにミニチュア戦艦を舞台裏に戻さなくても、ミニチュア戦艦の中に横たわっている人物は戦艦に装備された各銃で 20発ずつの発砲が可能でした。”
海軍ショーの疑似砲塔
この古い記事は実に多くのことを後世の我々に伝えてくれている。記事を読むと、謎の大型リボルバーの作られた理由、そしてそのシルエットやメカニズムにいちいち符合するのだ。
不必要なまでに強化されたバレルは、そのシルエットが砲塔から突き出した戦艦の火砲のシルエットに似せるためであり、バレルにライフリングがないのも実弾ではなく空砲(ブランクカートリッジ)を射撃するだけだったせいだ。
トリガーが異様に長く、その末端に穴があけられているのはここにコードを通してミニチュア戦艦の中に横たわっている人物がリモート射撃するためだ。トリガーが異様に長いのも、トリガープルを軽くして素早い連射をするためだ。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ列強国の海軍は、巨艦巨砲主義に狂奔し、次々と大型軍艦を建造して覇を競った。
この風潮を反映し、各国はミニチュア戦艦を製作し、これを巨大水槽や池などに浮かべ、海戦の様子を再現する海軍ショーが盛んにおこなっている。そしてこれが一時期人気を博していた。ミニチュア戦艦といっても中に人間が横になることができる大きさで、現在の手漕ぎボートとほどの大きさがあった。ようするに、人間が中に入ったミニチュア戦艦が水槽の中を移動しながら、空砲を撃って、海戦の様子を再現するというショーだ。現代の我々から見れば、なんとも子供騙しのようなショーに感じてしまうが、娯楽の少ない当時にあっては、それなりに迫力のあるものだったかもしれない。
一時期ヨーロッパを中心に人気を博した海軍ショーだったが、その後に飽きられてしまったのか、人気がなくなり、実施されなくなった。やがてそのようなショーがおこなわれていたことも、人々の記憶から消えていった。ミニチュア戦艦の多くは解体されてスクラップとなったが、その際に火砲として備え付けられていたこの大型リボルバーが取り外されて中古の銃砲市場に姿を現わす。
その特異なシルエットは後年多くのリボルバーコレクターの関心を集め、長年謎のリボルバーとされることとなった。
一般市販された銃砲ではなく、特殊な用途のために製作された銃砲だったため、生産数はきわめて限定的であり、現存数がきわめて少ないことにも符合する。
謎というものは、解けてしまえばその多くは、“なーんだ”となる。まさにコロンブスの卵だ。今回の謎のリボルバーも、たった一つの小さな記事から一瞬で謎が解けた。
リポーター自身すっきりすると共に、ちょっとさびしい気持ちもある。ああでもない、こうでもない、という銃砲談義のテーマがこれでまたひとつ失われてしまったからだ。
Text by Masami Tokoi 床井雅美
Photos by Terushi Jimbo 神保照史
Gun Pro Web 2025年8月号
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。