2025/07/09
真夜中のガンロッカー 468 “老舗”
今回のテーマは老舗。銃器業界にも数々の老舗メーカーが存在する。最古の記録から数えて今年499年となるベレッタは、その中でも突出しているが、その他にも長い歴史を持つメーカーは多い。思いつくまま、歴史あるメーカーについてのあれこれを綴ってみた。
伝統と格式
古くからあるお店や、何代も続く旅館などがあると、ついつい目が留まってしまう。今どきのオシャレなデザインで、きれいなお店やゴージャスなホテルも素晴らしいけれど、長い歴史、伝統といったものも多くの人を惹き付ける。
ただ、一般的にはそういったお店や旅館などは、格式が高く、気安く利用できなかったり、料金が高めで特別なことがあったときでもないと使えなかったり、ということはある。近くのコンビニのように、大して用もないのに入って、何も買わずに出てくるなんていうことはできそうもない雰囲気が漂っていたりする。仮にお金があったとしても、ボクなどには近寄ることもできない気品のようなものがある気がする。
入ったら入ったで萎縮してしまい、落ち着いて商品選びができなかったり、リラックスできなかったり。結局、自分の小ささを痛感することに。
もちろん、そういうところばかりではなく、気軽に入って、気軽に使えるところもある。それぞれ、いろいろではあるが。
そういったところを老舗(しにせ)と呼ぶと知ったのは、高校を卒業したくらいだったろうか。田舎の小さな町には、古いお店はたくさんあったが、みな庶民的なところばかりで「創業○○年」とか前面に出してやっているところはなかった気がする。小さいとは言え城下町だったので、呉服屋さんとか古い名店もあったはず。縁がなかったから知らなかっただけかもしれない。
それが、ド田舎を出てちょっと大きな都市、都会で暮らすようになったら、よく老舗を目にするようになった。そして手土産で持って行くお菓子なども、その辺のお店ではなく、名店や老舗で買っていくとより喜ばれたり、「知っているな」と見直されたりすることも知った。違いがわかるヤツ? おそらく父や母もそうしていたのだろうが、気付かなかった。一人暮らしをして初めて知った。
しにせ
あらためて老舗を調べてみると、『角川国語辞典』(角川書店)には「(1)先祖伝来の業を守り継ぐこと。(2)代々続いて繁盛している店」とあった。古くからあるお店のことだけではなく、守り継ぐという行為も老舗とは知らなかった。基本的にはお店のことだが、老舗企業などとも言うから、応用的には会社のこともいうようだ。
ではなぜ「老舗」が「しにせ」なのか。ネット検索してみると、もともとは真似てするとか、先代の業を守り継ぐという意味の「為似す(しにす)」や「仕似す(しにす)」という言葉があり、それが名詞化して「しにせ」になったらしい。そして後にそこに、年を経ているという意味の「老」と、お店を意味する「舗」が当てられて「老舗」となったという。だから「ろうほ」と読んでも間違いではないのだとか。
企業の信用調査などを行なう1892年創業の老舗、東京商工リサーチの公式サイト(https://www.tsr-net.co.jp/)では、東京商工リサーチの老舗企業調査において、創業100年以上の企業を老舗企業と定義している。そして2023年の時点で、日本の老舗企業は42,966社で、これは日本の企業全体の1.2%に相当するそう。
宗教法人を除いて最も古い企業は、ギネスブックにも認定された世界最古の企業、寺社建築の「金剛組」(大阪)で、創業は何と578年。ついで生け花の池坊華道会(京都)の587年。どちらも飛鳥時代より古い!
業種としては、お酒関連が、製造(4位)と卸売り(12位)と小売り(5位)を合わせるともっとも多く、ついで貸事務所業、土木、建築と続くらしい。6位には旅館・ホテルが入り、世界最古の宿としてギネスブックにも認定された西山温泉慶雲館(山梨)は、創業705年だそう。もはや歴史の教科書の世界。
同じく企業の信用調査などで知られる老舗、1900年創業の帝国データバンク(https://www.tdb.co.jp)でも業歴100年以上の企業を老舗としていて、公式サイトの「100年経営「老舗企業」の倒産動向調査(2024年)」によると、老舗企業の倒産は前年の1.5倍に達しているそうで、リーマン・ショックが起きた2008年を大幅に上回るレベルなのだと。その一方で「日本の老舗企業は世界の約半数、業歴200年以上では3分の2を占めるとの調査もあり、世界に誇る魅力の一つである」ともしている。もともと老舗が多いから、その倒産も目立つのかもしれない。
フリー百科事典『ウィキペディア』(https://ja.wikipedia.org/wiki/)によれば、世界の老舗上位20社は日本とヨーロッパにしかないそうだ。
日本の古都、京都では老舗が多く、1000年以上でないと老舗と呼ばないなどと極端なことをいう人もいるようだが、実際のところ200年以上の老舗もざらなんだとか。
ただ、老舗が創業何年かは業界によっても違うということはあるよう。できて間もない若い業界なら、創業30年でも老舗かもしれない。
新しい業界で、業界と共にスタートする新しい企業もあるだろうし、他業界から参入する老舗もあるだろう。どちらも新業界での実績は同じでも、業歴は大きく異なる。この場合、新業界でも老舗と呼んで良いのだろうか。さらには、他業界でもそれまでの経験が多少なりとも活かせる場合はどうなのかなど、細かく考えてくるとむずかしいところ。その業界での実績あってこその老舗ということになるのだろうか。
付け加えると、老舗企業でも一旦倒産したものの新しい企業として復活したとか、経営母体が替わって創業家は全く関わっていないとか、他の会社の傘下でブランド的に残っているなどということもよくあるよう。長い時間が経てば、そりゃ色々あるだろう。とはいえ、個人商店のような企業だと、創業家がずっと経営に携わっているということもあるようだ。
もう1つついでに、企業の寿命30年説というのがあるらしい。だいたい創業から30年前後で倒産する企業が多いのだという。東京商工リサーチの2021年のデータでは、日本企業の平均年齢は34.1年で、倒産企業の平均寿命は23.8年だったという。企業が終わってしまう理由はいろいろあるのだろうが、商品のライフサイクルも30年という説があり、起業して後継者がいないと30年くらいで終わってしまうのかなという気はする。
イタリア界隈
銃の歴史は、中国における火薬の発明から始まって、それを武器化した突火槍や手銃(ハンド・キャノン)が中近東、ヨーロッパへと伝わっていって、銃器として発展していく。だいたい14世紀ころのこと。
そのルートは東ロシアからドイツをたどり、南下してイタリアへと至る。だからドイツとイタリアにガンメーカーが多く、老舗も多いらしい。
ヨーロッパでは戦火が絶えなかったことから、銃もたちまち進化を遂げ、火縄銃が生まれることになる。
日本にも、1274年と1281年(鎌倉時代)の二度にわたる元寇(蒙古襲来)によって火薬を使う武器「てつはう」が伝わっていたはずだが、それが進化して銃になることはなかった。歴史の教科書では、1543年(室町時代)の鉄砲伝来まで日本には銃はなかったとされる。
そのイタリアで生まれたのがベレッタ社だ。世界最古のガンメーカーかどうかはわからないが、現存するガンメーカーで最も古いものの1つとされる。公式サイト(https://www.beretta.com/)には、創立は1526年で、イタリア初のガンメーカーだとある。床井雅美さんの『ベレッタ・ストーリー』(徳間文庫)でも、1526年10月3日の日付があるバレル製造受注の記録が残っていると書かれている。つまり今年で499年の超老舗ということになる。
驚くべきはそれだけではなく、これまで倒産したり、買収されたりということもなく、現在も創業家が経営を続けているということだ。
ウィキペティアによれば「家業歴200年以上の企業のみ加盟を許される老舗企業の国際組織、エノキアン協会の加盟企業」だという。

Image Courtesy of Fabbrica d'Armi Pietro Beretta S.p.A.
イタリアには他にも銃器メーカーだと、ペラッツィやマロッキなどの会社もあるが、ボク的にはやはりミリタリー系やLE/タクティカル系も手がけるベネリ社が気になる。
ベネリ社のイタリアの公式サイト(https://www.benelliusa.com/)を見てみると、思った以上に若い会社で、第二次世界大戦後の、それも1967年の創業だった。
もともとオートバイ工場の創設者だったベネリ兄弟(サイトの写真では4人写っている)が、イタリア人エンジニアのブルーノ・チヴォラーニが発明したイナーシャ・ドリヴン・システム(慣性作動方式)に可能性を見出し、それを製品化するために設立した会社だという。この方式は1976年に発売されたセミオートハンドガンのB76でも応用され、今でもベネリ セミオートショットガンのトレード
マークになっている。
1983年、設立16年目にしてベネリ社はベレッタ社に買収されているものの、会社としては存続している。業歴58年。経営危機があったのか、なかったのか。いずれにしても会社は残っている。銃器業界ではよくあることのよう。

ベネリはタクティカルモデルを製造しているが、基本的にはスポーツ用ショットガンメーカーだ。そのデザインはイタリアらしさに満ちたエレガントなものが多い。イナーシャドリブンが基本だがM4はガスオペレーションのARGO Systemで作動する。また上下二連銃やボルトアクションライフルも製造している。 Caption by GP Web Editor
Photos from Guns & Shooting
調べてみれば、1921年創業のフィンランドのサコー社、1835年創業の高級猟銃で知られるイギリスのホーランド&ホーランド社、1902年創業のスウェーデンの世界的弾薬メーカーであるノルマ社、1921年創業のフィンランドのライフルメーカー サコー社、1971年創業のアメリカの光学機器メーカー バリス社など、そうそうたるメーカーがベレッタ社の傘下となっている。やっぱり業歴499年は伊達じゃない。

ドイツ界隈
ドイツといえば、ボク的には未だに好きな銃のトップグループに入るP.38を作ったワルサー社だ。床井雅美さんの『ワルサー・ストーリー』(徳間文庫)によれば、創業は1886年。ベレッタ社とは比ぶべくもないが、それでも業歴139年。立派な老舗だ。
ただ、第二次世界大戦後はパッとしない感じで、P5もP99もPPQも、悪くはないのにどこかボクにはピンとこなかった。それが最新のPDPは評判が良いようで、ようやくワルサーが戻ってきた感じがしている。
ご多分に漏れず、ワルサー社も、1993年に同じドイツのエアガンやエアソフトガンを手がけるウマレックス社の傘下となったが、社名は残っている。ワルサーの名に魅力を感じる人はまだまだ多いはず。そしてウマレックス社は2006年に、1863年スイスで創業したヘンメリー社も傘下に収めている。

Photo by 床井雅美/神保照史
もう1つのドイツの老舗、マウザー社はパウル・マウザーが開発したボルトアクションライフルを製造するため、1872年に兄のウイルヘルムと共に設立したとされる。ただ、現在のブランドホルダーである1957年創業のスイスのブレイザーグループ公式サイト(https://www.blaser-group.com/)によると、マウザー社は140年以上の経験という表記があるので、兄のウイルヘルムが亡くなって株式会社として再出発したという1882年を公式には起点としているのかもしれない。
マウザー社は第二次世界大戦後解体され、その後復活。そして1990年代にあちこち買収され一旦は消滅したものの、現在はまた復活している。

Photo by 床井雅美/神保照史
そのブレイザーグループと同じ世界的な企業ネットワーク、L&Oグループに属するスイス発祥のSIGザウアー社は、公式サイト(https://www.sigsauer.com/)によると、1853年、フリードリッヒ・パイヤー・イム・ホーフ、ハインリッヒ・モーザー、コンラッド・ネーハーの3人によって、荷馬車や鉄道用の車両を作る会社としてスタートしたという。そして1つの挑戦として次期スイス軍用小銃のコンペティションに参加し、1864年みごとに採用が決まったことから、社名をスイス工業会社(Schweizerische Industrie-Gesellschaft、SIG)に変更した。
SIGは1980年に、1751年創業のドイツのザウアー&ゾーン社を傘下に収めると、ハンドガンのラインナップを充実させていく。
『[図説]世界の銃パーフェクトバイブル』(学習研究社)の記事『銃の製造現場密着取材』(文・監修/床井雅美)によると、SIGは2000年、ドイツ人投資家がSIGの商標を獲得したためスイスアームズに改称。SIG社の傘下を離れたザウアー&ゾーン社は、この投資家がSIGザウアーの商標も獲得したことで「SIGザウアー」ブランドの拳銃と、「ザウアー」ブランドのライフルの製造を続けることになったという。
となると、SIGザウアー社はSIG社の創業をスタートとすべきか、ザウアー&ゾーン社の創業をスタートとすべきか。172年か、274年か。
名銃MP5を生み出したヘッケラー・アンド・コック(ドイツ語読みはヘックラー・ウント・コッホ、H&K)社は、第二次世界大戦後、解体されたマウザー社の社員だった工場マネージャー、エドムント・ヘックラー、同じくマネージャーのテオドール・コッホ、設計技師のアレックス・ザイデルの3人の技術者によって1949年、旧マウザー社のあったオベルンドルフで設立された。有名なガン・メーカーとしては若い部類に入るだろう。とはいえ、創業76年は30年説を軽くクリアしていて、老舗と呼んでも差し支えない長さだろう。

ただ最初はミシンのパーツや工業用ゲージを作っていて、1952年スペインのセトメ社と共同開発していたセトメ・ライフルのパーツ製造を請け負ってから、銃器製造へと舵を切っていく。その会社がMP5シリーズを作り、世界を席巻した。
それが、1991年、イギリスのブリティッシュ・エアロスペース社の傘下となってしまう。ドイツの会社というイメージが強かっただけに、どうなるのか思っていたら、2002年にはドイツの企業グループに買いもどされているという。そしていま自衛隊の制式拳銃SFP9を作っている。やはり老舗には買収が付きものなのだろうか。
ベルキーのガンメーカー、FN社はどうだろう。公式サイト(https://fnbrowninggroup.com)によれば、現在はFN、ブラウニング、ウインチェスター、ノプテルといった世界的なブランドを統括するFNブラウニング・グループの一員ということになっているらしい。そしてそのFN社は3つの拠点、ベルギーのFNハースタル(フランス語読みはエルスタル)、イギリスのFN UK、アメリカのFNアメリカからなるという。
『[図説]世界の銃パーフェクトバイブル3【メカニズム&射撃編】』(学習研究社)の記事『FN社の栄光と憂鬱』(文/野木恵一)によると、もともとは1889年、ベルギー陸軍が制式採用したマウザー・モデル1889をライセンス生産するため、ベルギーの工業都市リエージュ一帯の武器製造業者が資金と人材を出し合い、エルスタルに設立したエルスタル国営兵器製造所(Fabrique Nationale d’Armes de Guerre de Herstal、ファブリーク・ナシオナール・ダルム・ドゥ・ゲール・ドゥ・エルスタル)が始まりだという。つまり今年で創業136年。
ブラウニングM1910やハイパワー、FALなど、日本でもファンの多い名銃を世に出してきた。最近だとアメリカ軍に採用されているマシンガンの多くがFN製だ。次期分隊支援火器はSIGザウアーに奪われてしまったが。
FN社も経営がずっと安定していたわけではなく、M&Aを繰り返し規模を拡大した結果、逆に経営が悪化して、1991年にフランスのGIAT社の傘下となってしまう。その時FNエルスタルと改称した。しかし1997年にベルギーの資金を得てGIAT社の傘下を離れ、現在はFNブラウニングループの一員となり、シンプルなFN社という社名になったらしい。昔からグリップなどにFNの文字はロゴとして使われていて、わかりやすいといえばわかりやすいし、老舗として原点からのつながりも感じられる。

と、ここまで見てきたところで長くなりすぎてしまったため、アメリカや日本の老舗は次回また取り上げたいと思う。取り上げる基準は全くボクの独断と偏見なので、こっちのほうが老舗だろうというメーカーが取り上げられていないことはあると思う。研究論文的な話ではなく、あくまでもエッセイ、茶飲み話の話題にというレベルなので、どうぞご容赦いただきたい。
Text by くろがね ゆう
Gun Pro Web 2025年8月号
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