2025/06/25
P38のメカニズム
Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
1970年代から80年代にかけて開発されたトラディショナルダブルアクション オートピストルのセイフティメカニズムは、ワルサーP38をルーツとしているものが多い。
コルト.45ガバメントは後世に大きな影響を与えたといわれている。しかし、その安全性はじゅうぶんなものであるとはいえなかった。セミオートピストルの安全性について大幅に改善したのが、1930年代生まれのワルサーP38だ。セミオートピストルのセイフティメカニズムに関する限り、P38はその後のベンチマークとなった。
P38はチェンバーにカートリッジを装填しておいても、マニュアルセイフティをオン・ポジションにしておく限り、トリガーとシアの連動は遮断され、例えピストルを放り投げ、何か硬いものに当たっても発射は機構上あり得ない。ファイアリングピンはマニュアルセイフティで前進をブロックされると同時に、それとは別のファイアリングピンロックも機能しているからだ。これにハンマーのデコッキング機能を加えた結果、P38はもっとも安全なセミオートピストルとなった。
その後、マニュアルセイフティを無しとする流れが生まれたが、セイフティに関係なく、トリガーが引かれるまでファイアリングピンをロックしておく手法は、ワルサーがP38で最初に実用化させたものだ。
P38がマガジンキャッチをグリップ下部としたことは、考え方によってはネガテイヴな要素と受け取られている。しかし、トリガーガード付け根のボタンではマガジン脱落の可能性があり、ドイツ軍部はこれを嫌がったことから、このようなデザインになったと推測できる。P-08はボタンだったし、ワルサー製品のPP、PPKもボタンだった。この部分も一種の安全性に関わる要素だ。もっとも、今日のセミオートピストルは、トリガーガード付け根のボタン、もしくはレバー式がほとんどとなった。
何はともあれ、誕生から80年以上が経過した今日でも、P38はじゅうぶん通用する実用性能を持っている。これは驚異的な事だといえるだろう。



上下の動きをコントロールするのがロッキングブロック・オぺレーティングピンだ。これについては別な写真で説明したい。

P38の非凡さは、カートリッジ・ローディングインディケーター、スライドにクロスするマニュアルセイフティ(セイフティレバー)、トリガーを引いたときの最終過程で作動するファイアリングピンロックを備えたことにある。ミリタリーサイドアームはこの時からメカの歴史が変わったといっても過言ではない。





ブレットの移動に伴いバレル、スライドはリコイルにより一体となって後退を開始する。ロッキングブロックがフレーム内の台座に乗ったこのポジションでバレル、スライドはアンロックしない。ブレットがマズルから出た時、バレル/スライドは若干、後退しつつある。ブレットがマズルから出た直後、リコイルは最大に達する。





P38関しては悪い噂もある。もっとも知られているのは射撃時、カバーが吹っ飛ぶという話だ。これは事実で筆者も昔、所有していた1944年製P38で経験している。それはもう手元にない。現在、P38は戦前、戦後モデルといろいろ所持しているが、それらではカバーが吹っ飛んだ経験はない。戦時生産されたものの中には、そのような出来の製品もあったのではないかと思うが、世間でささやかれているほど頻繁に起こっているわけではない。
P38のスライドの亀裂の有無についてよく質問を受ける。ベレッタ92系がP38のショートリコイル作動方式をそのまま真似して、スライドの亀裂が起こったことは読者も知る通りだ。それもあってか“オリジナルのP38でも同じようなことが起こったのではないか?”という疑問だろう。写真からも判るように、リセスの部分は大きくえぐられ、細いというか薄くなっている。しかしP38スライド亀裂の話は聞いたことがない。
P38のショートリコイルはそのままワルサーP5にも受け継がれた。しかし市場での人気はイマイチで、ワルサーにおけるプロップアップ方式はこれが最後になり、その後に開発市販したP88は作動方式にブラウニングタイプを採用した。なぜ、P38のショートリコイルが流行らなかったのか?機構上、幅の問題があり、これ以上、薄く出来ずコンパクト化に問題があったからだ。縦には余裕があっても幅に限界を見たということか? P5がそのよい例である。.40S&Wが流行する中、P38の作動方式では9mmが限界だったのではないかと思う。そしてまた構造が複雑となることからくる製造コストが高くなる。しかしプロップアップ方式は、ベレッタが現在も製造しており、決して過去のものではない。
Text&Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
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