2025/06/11
骨董銃砲店で見た マウザーC96 & 日本海軍四式小銃
Gun Professionals 2015年3月号に掲載
これまで本誌で何回か紹介したダラスの骨董古銃器販売店ジャクション アーモリーから電話があった。
“日本軍の四式ライフルがあるんだ。数日間はここに留まっているので、時間があったら見に来ないかね…それとブルームハンドルのオリジナルストック付きも数挺あるよ“
四式小銃は幻といわれるだけあって、三八式、四四式のようにしばしば御目に掛かれるような存在ではない。
以前のリポートでも述べたが、現在はヴィンテージガン所有者の世代交代の時期で、これまで幻であったものが、それほど幻でなくなっている。ようするに、貴重な銃を収集していたコレクターが高齢になって他界し、遺族がその膨大なコレクションを持て余して売却処分するという状況が起こり、ほとんど表に出てこなかったレアな銃が市場に出回るようになったというわけだ。。
戦前、戦中製造のルガー、ワルサー、ブルームハンドルなどもずらりと並んでいる。米軍初期トライアル用のイーグル・ルガー口径7.65mm(米国シンボルのイーグル刻印入り)も先日目撃した。
そんな大量生産された銃とは異なり、四式小銃は本当のレア物だ。第二次大戦末期、日本海軍が試作開発し、昭和20年5月から量産を開始したものの、3カ月後に終戦を迎え、その製造数は約250挺だといわれている。
第二次大戦終結後、何百万人の米兵士がヨーロッパ戦線や太平洋戦線から帰還し、その時に戦利品として戦場から持ち帰った鹵獲銃器の数は半端じゃない。もちろん戦後に、工廠や倉庫のクリーニングアップで正式に業者経由で輸入されたものもあり、現在市場のあるものすべてが兵士によって持ち込まれた戦利品というわけでないことは言うまでもない。しかし、データはないものの、かなりの数が戦利品として持ち込まれ個人所有となったことは確かだ。
第二次大戦での戦利品持込みはかなり大目に見られていたが、朝鮮戦争、ベトナム戦争では規制され、湾岸戦争以降、それは更に強化された。銃に限らず第二次大戦に従軍した前線兵士の中には、敵地でその国の芸術品を略奪し、密かに持ち帰った者がおり、最近になってその品物が発見されたということも報告されている。
クリント・イーストウッド主演の映画 “Kelly’s Heroes『戦略大作戦』1970)”は、ヨーロッパ戦線で米軍兵士がドイツ軍の金塊を略奪する話だ。これはフィクションだったが、似たような話は当時、当然あっただろう。前線では時として臨機応変が求められ、“法と秩序”が守られないことも少なくなかったはずだ。




マウザーブルームハンドル
余計な話はこのぐらいにし、筆者がジャクション・アーモリーで何を見たか報告したい。ブルームハンドルはルガー同様米国コレクターに人気がある。19世紀末にデザインされたモデルが今もってコレクターにもてはやされる理由はなんだろう。
そこそこの信頼性を持ち、分解に特殊工具を必要とせずパズルのように組み合わさった内部メカは圧巻だ。一度分解したらブルームハンドルのファンになること間違いない。
これまでブルームハンドル(C96)については、旧Gun誌時代からクドイほど語ってきた。2015年現在、ここにあるレベルのものが3,000~4,000ドルの範囲で売られている。善良な市民なら誰にでも購入できるのだ。画像はカメラの色温度の設定を間違えて…というより複雑な照明(蛍光灯、タングステン、窓からの自然光)のせいか妙な色となってしまったので、いっそセピアカラーに変換してみた。このモデルが始めて市場に登場したのは1890年代末期なので、考え方によってはセピアカラーが似合っているかもしれない。




四式ライフル
今回、ジャクソン・アーモリー訪問のメインオブジェはこれだ。四式はガーランドのコピーだ、という評価もある。しかしガーランドを超えた改良点も見られる。5発のクリップ装弾は勿論、バラでも簡単に内蔵マガジンに補弾できることはガーランドに勝るスペックだ。ご承知のように米軍の場合、これはM14になって採用された機能だ。
マガジンが着脱式でなかったことを欠点とする意見もあるが、5発クリップからの装弾は的を得ていると思う。理由はこうだ。当時のマガジンはスチール製で5,6個持てばかなりの重量となる。BAR マガジンがその良い例だ。それよりも5発クリップの方が携帯しやすく重量軽減に大きく寄与する。四式とその後に開発されたFN49とには共通点も多い。
値段を聞いたらジャクソン・アーモリーのランデイいわく“この四式は当店のものではなく、ダラス在住のコレクターが他州から四式を送って貰うために我々のライセンス(FFL)を貸しただけだよ。推測だが25,000-30,000ドルじゃないかと思う”




クラシックな貴重品を手にするときは、細心の注意が必要となる。
勿論、外見を撮るだけという条件だったが、見たところトリガーガードがロウ付けになっていたりして、いわゆる絆創膏?の後もあり、たとえOKでもフィールドストリッピングする気にはなれなかった。あけてビックリしたくないからだ。パーツがポッキリなんてことがあるとお互い気まずい。戦争末期の日本は、材料不足などもあり満足いくものをつくれる環境ではなかったはずだ。今ある銃と比較しても始まらない。現在の工作技術で四式のレプリカを作ったら面白いだろう。
価格を聞いて誇らしくも思った。日本軍モノも、今やモノによってはこういう高値が付いたか!ということだ。
年末であり、お客も多く撮影も思うようにはいかず、ついつい撮り忘れたものがあった。日本軍の程度良好四四式騎銃だ。手にして数秒見ただけだったが、値段は895ドルだったと記憶している。日本軍物も価格上昇機運だ。今は“高い”と思ったとしても10年後には“いやあの時、買っておけばよかった…”となる。これはコレクターの口癖だ。
話は遡るが古い読者なら1980年代初めに国際出版がGun誌別冊でリポートしたスイス・ソロサーン製S18/1000 20mmを憶えておられるだろうか?ドイツ軍、イタリア軍が主に北アフリカで使った対戦車ライフルのことだ。あのときの所有者X氏の近況が話題になった。1960年代の初め500ドルで購入したというS18/1000をX氏は今も所持しているということだ。車輪付き、車で牽引できる。X氏は当時、若く、多くの財産と決断力があった。1962年の500ドルは今日に換算すれば約4,000ドルだ。米市場には何十、何百挺かあるのだが所有者がなかなか手放さない。現在もしも中古市場にS18/1000が現れれば10~15万ドルの値が付くのではないかということだ。
参考までに述べればソロサーン社はドイツ・ラインメタル社の子会社だった。しかし第二次大戦前から既に20mmは新型戦車に効かなくなっていた。最高の仕上げを持つ対戦車ライフルだったが、高価格でコストパフォーマンスが悪く、軍用としては廃ってしまった。しかしコレクションの世界はこれまた別な話である。
Text &Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2015年3月号に掲載
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