2025/06/02
【NEW】真夜中のガンロッカー 467 シリアルナンバー
普段あまり気に留めることがないのが銃のシリアルナンバーだ。製造上の連続番号ではあるが、それだけに留まらず、個体識別や製品品質管理、運用状態の把握など、様々な目的に使用されている。これを紐解いていくと、かなり奥が深いものだということに気づくのだ。
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ユーザー登録
シリアルナンバー。元は英語だが、もはやそのまま日本語化しているような気がする。あえて和訳すれば連続番号が直訳というか、言葉どおりの訳だと思うが、たいていは製造番号とされることが多い。
比較的複雑な構造を持つものや、高価なものに付けられていることが多い。それは1つ1つの製品に固有の番号で、製造時に連続したものが順番に割り振られている。
具体的には、電子機器や家電製品、機械や工具類、車両や輸送機器、宝飾品、高級バッグや高級腕時計、楽器に付いていることもある。さらにはパスポートや運転免許証、マイナンバーカードなどの身分証明書にもシリアルナンバーがある。この場合は製造番号というより、まさに連続番号というほうがピッタリだろう。
パソコンのソフトウェアにもシリアルナンバーが付くようになったが、これは複数台にインストールしたりコピーしたりという不正使用を防止するための対策だったらしい。
普段はあまりシリアルナンバーを意識することはないが、購入時のユーザー登録や、故障した際の修理保証、盗難や紛失で見つかった時の同定などに必要になってくる。
買ってすぐは問題ないものの、しばらくしてから必要になると、ボクなどはシリアルナンバーが記された保証書や登録カードなどをどこに仕舞ったかわからなくなって、あたふたするということが良くある。取説などに「本体のここに記されている」と書かれていても、こすれて判読が難しくなっていたり、シールが剥がれていたり、本体の裏側にあって設置後の確認がむずかしかったり、何かとトラブルが発生する。
そんなわけで、ボクはシリアルナンバーを確認しやすいように、取説の目立つ位置に転記するようにしている。それと、暗号のような製品型番も。
シリアルナンバーはシリアル番号とも言ったりするが、連続番号とは呼ばれない。この辺が日本語の面白いところで、シリアルという英語と、番号という日本語を合体させて新しい言葉にしている。しかも連続ナンバーとも呼ばれず、前述のように対応する日本語としては、製造番号のほうがポピュラーだ。
そして面白いのは、ナンバー、番号と言いながら、アルファベットなどの文字が組み合わされていることも多いということ。
数字はアラビア数字が使われることが多く、まれにローマ数字が使われることもあるそう。
ちなみに、日本の紙幣に印刷されているアルファベットと数字は「記番号」というらしい。頭1~2文字のアルファベットと6桁のアラビア数字、末尾1~2文字のアルファベットという組み合わせになっているそうで、それらは連続して使われているから、立派なシリアルナンバーと呼んで良いのではないだろうか。


大量生産
シリアルナンバーの目的は、個体識別、品質管理、保証対応、盗難防止、追跡などがあるという。ほかに高級品などでは模造防止になり、真贋確認にも使われることがあるそうで、特に中古市場では重要なものになっているらしい。
シリアルナンバーが使い始められたのは、18世紀半ばから19世紀に掛けて起こった産業革命により、大量生産が可能になってからだとされる。大量に作られた製品の1つ1つを識別、管理するには、連続する番号付けが有効だったというわけだ。
大量生産というと、ボクなどはすぐにアメリカの自動車、T型フォードを思い浮かべてしまうが、T型フォードが発売されたのは1908年のこと。もちろんシリアルナンバーが導入され、個々の車両に識別番号が付けられていたそう。これが後に国際的なVINコード(Vehicle Identification Number)に発展する。それはアルファベットと数字の組み合わせで、単なる製造番号だけでなく、製造国、製造年、メーカー、車のタイプやグレードなどまでが含まれていて、17桁からなるという。が、話はそこではなく、その以前のことになる。
20世紀になる前の大量生産品の急先鋒といえば、戦争で大量に必要になる銃だ。この辺の話は2016年7月号のエッセイ『大量生産と互換性』で書かせてもらった。互換性技術に基づいた大量生産方式は、銃からミシン、ミシンから自転車、自転車から自動車へと広がり、さらに多くの分野へと広まっていったのだ。
ボクがザッと調べたところでは、銃器に最初にシリアルナンバーが導入されたのは、アメリカのサミュエル・コルトが作った最初の実用的リボルバー、パターソンモデルだったようだ。
実際には、1835年に作られたパターソンのプロトタイプからシリアルナンバーが打たれていたとされる。シリンダー直前のバレル上面、シリンダーピンに打たれていたらしい。おそらく、1挺しか作られていないとすればシリアルナンバーは必要ないと思われるので、何挺か作られたのだろう。貸し出すこともあったのかもしれない。それを管理するために番号が必要だったとすれば納得できる。あるいは、量産までその番号が続いていたとか‥‥。
ちゃんと調べるには、現地アメリカで、現存する古い銃器の現物に当たって確かめるとか、銃器界の権威に直接話を聞くとか、一次資料もしくは信頼できる資料で確認する必要があると思う。しかしそれをやるのは、コネクションがあったとしても時間的制約、予算的制約などがあってなかなか難しい。日本人には言葉の問題もあるし。でも、できればやってみたいところだが。
参考までに、アメリカの国立公園を紹介しているアメリカ政府の公式サイトによると、現在、国の歴史的遺構となっているスプリングフィールドアーモリーは、1865年以降に製造された火器からシリアルナンバーを付けるようになったが、それ以前に作られたものには付けていなかったという。
ついでに言えば、アメリカで銃器にシリアルナンバーを刻印することが義務づけられたのは意外と遅く、1968年に施行された銃器管理法(Gun Control Act)以降だそう。それまでは各メーカーなどが自主的に行っていたに過ぎなかったわけだ。
ちなみに、アメリカでは私製銃にはシリアルナンバーの刻印が義務づけられていないものの、それに相当する識別マークの刻印が推奨されているのだそう。ということは、規制対象となっていない銃なら作ってもいいということか!?
ヨーロッパでは、ドイツが早くからシリアルナンバーを取り入れていたらしい。残念ながらドイツが最初だったかどうかはわからない。
ネットをいろいろ漁ってみたところ、どうもドイツでは1841年に軍が制式採用したドライゼ ライフル(ツンドナーデルゲヴェア)からシリアルナンバーが付けられていたらしい。ドライゼといえば、現代ボルトアクションの元祖ともされる銃で、これが最初と言われればそうなのだろうという気がする。
シリアルナンバーの採用は、軍用銃として大量に運用するための必要な措置だったようだ。部隊単位だけでなく兵士単位でも識別、管理していたという。さすがドイツという感じ。
それがパーツにまで及ぶのが、1888年に制式採用されたゲヴェア88で、有名なKar98kの前進である1898年に制式採用されたゲヴェア98(マウザーモデル1898)から完全なシリアルナンバー制が導入されたらしい。シリアルナンバーと共に製造工場、年式、ロット番号、製造数などが明確に記録されるようになったという。
日本では、最初のオリジナル軍用小銃とされる村田銃(十三年式村田銃)からシリアルナンバーがあった。制式採用年が明治13年だから、西暦では1880年のことになる。ドイツからは40年遅れくらいになるが、アメリカのスプリングフィールドアーモリーからは15年遅れくらいなので、それほど遅れていたということはないだろう。
拳銃では、最初の国産リボルバー、明治27(1894)年に制式採用された二十六年式拳銃からシリアルナンバーは打たれていた。
パターン
シリアルナンバーがあると、製品に何か不具合が生じた場合、その原因を探るのに役に立つ。いつ作られたものか、どこで作られたものか、工場の記録をたどればわかるので、その時、製造ラインで何か起きていないか、原材料の仕入れで何かトラブルはなかったかなどを調べて行けば、不具合の原因がわかることがある。
一方、ちょっとした変更などが行なわれた場合、シリアルナンバーがあれば、その区分けが明確に行なえる。そして必要なら、特定の番号以前のものはリコールとか、無償または有償で交換修理などということもできる。
銃では、S&Wのリボルバーなどのように、ちょっとした変更はモデルナンバーの後のダッシュナンバーで表すこともあるが、たいていはシリアルナンバーでわかるようになっているようだ。
もちろん大きな変更ならモデル名に何かが付け加えられたり、モデル名自体が変わったりする。そしてモデル名が変わるとシリアルナンバーも新たなものに変わるのが普通だが、同じシリーズとされた場合は続けられることもあるようだ。
銃の場合、自動車のVINコードのようなグローバルなシリアルナンバーというものはなく、市販モデルでは、メーカーそれぞれが独自のシリアルナンバー体系を使っているようだ。
ベレッタのモデル92では、92S、92SB、92F、92FSなどと改良されるごとにシリアルナンバーは変わっていたようだし、同じモデルでもイタリア国内向けとアメリカ市場向けでは違ったシリアルナンバー体系が使われていたという。契約ごとにも違ったシリアルナンバーが割り当てられるらしい。
こうなってくると数字だけではシリアルナンバーの管理が難しくなってくることは容易に想像できる。そこで使われるのがアルファベットなどの文字。単純にシリアルナンバーの割り当てを増やすためと、モデルごとに区別するためとがあり、多くの場合、数字の先頭に付けるか、末尾に付ける。
先頭に付けられるのが接頭辞(プリフィックス、prefix)で、末尾に付けられるのが接尾辞。接尾辞はポストフィックスと言うのかと思ったら、正解はサフィックス(suffix)だった。我ながらお恥ずかしい。
たとえばコルト1911オートのシリーズ70などは、70G01001から始まったようだが1976年にはいっぱいになり、01001G70からあらためて始めている。これもいっぱいになると接尾辞がB70になり、さらに70Bの接頭辞も使われた。
軍用の1911オートでは、1912年に納入された最初のシリアルナンバーは1から始まっていたとされるが、第二次世界大戦中のドイツ軍は、a01のように0を使っていたという。この辺はお国柄だろうか。
ただコルトSAAの戦後生産型(セカンドジェネレーション)は例外的に0001SAと0付きで始まっているのだが。
モデルガンの場合、量産モデルではシリアルナンバーが付けられていないことが多い。多くはコストの問題のようだが、付けられている場合、ライバル社などに製造数を知られないようにするため、特定の数字からスタートすることもあったと聞いた。
たいていは、最初からシリアルナンバーのスペースを確保し、キレイに配置するため(?)もあったのか、5桁設定なら5桁(つまり00001など)でスタートするパターンが多かった気はする。限定モデルなど製造数が少ない場合は、桁合わせの0を使わず1桁からスタートしていたのではなかったか。ただ、あくまでも傾向の話であって、決まったパターンなどはなく、実際はメーカーごと、モデルごと、それぞれ違っていてケースバイケースではあったようなのだが。
MGCでは、試作モデルにEXの接頭辞がついたシリアルナンバーが刻まれていて、ときどき最初のカタログや広告で使われることがあり、トリビアとして一部のマニアックなファンには知られていた。



識別子
銃は、もともとは1点ものとして職人が作っていた。ベースとなるパターンはありながらも、1つ1つ手作業で作り上げていた。日本刀と同じようなものだったのだろう。おそらくはほぼオーダー品。
しかし戦争などで銃が大量に必要になってくると事情が変わってくる。1人の職人が1挺ずつ加工し組み立てていくのではなく、熟練工ではない人の手も借りて、分業で流れ作業をしなければならなくなる。
それでも第二次世界大戦くらいまでは、製作過程において、まだ職人に頼る部分が大きかったとされる。図面どおりに機械加工されたパーツであっても、組み立ての際、熟練工が微妙なフィッティングと調整を行なわないとスムーズに動かなかったり、命中精度が低下したりすることもあったという。そこで、次の作業を行なう前に、フィッティングしたパーツにシリアルナンバーの下2桁とか3桁を刻んで、その個体専用のパーツであることを表した。これにより最終組立で異なる個体のパーツが混入することを防いだ。
このパーツに刻まれた数字はシリアルナンバーとかシリアルナンバーの一部などと呼ばれることが多いが、厳密に言えば完全なシリアルナンバーではなく、識別のために付けられた数字なのだから、識別子(identifier)と呼ぶのが正解らしい。


パーツにまで数字が刻まれている銃と言えば、古いものだとコルトのSAAが有名で、コレクターの多いワルサーP38やルガーP08などのドイツの銃も良く知られている。第二次世界大戦中の軍用銃には良く見られ、もちろん日本の軍用銃にも見られる。
コレクター的には1挺の銃の中ですべての数字が合っていれば、マッチナンバーなどと呼ばれて価値が高くなるという。つまりパーツ交換がなされていない、おそらく修理もされていないオリジナルのものだという証明になるわけだ。
モデルガンでも、1960年代から1970年代にかけて六研が作った高級カスタムモデルガンには、多くのパーツに識別子が打たれていたことが知られている。
この識別子はほかにも、軍や警察などで部品交換の記録に使われたり、犯罪捜査でもパーツ寄せ集め銃の追跡調査に使われたりすることもあるという。
さらに、パーツ交換を前提としない時代の自動拳銃では、予備マガジンと共に破損しやすいパーツの予備をあらかじめセットして売られることもあった。それらには本体と同じ数字の識別子が刻まれていたという。これはマッチドスペアなどと呼ばれるらしい。

一方で、M1ガーランドに識別子はない。というか、シリアルナンバー由来の識別子はない。識別のために刻まれている文字列はいくつかあるのだが、個別なものではなく、ロットごとに共通していた。メーカーコードや製造年、熱処理ロットだったりするが、ボク的に最も興味深いのは図面番号(Drawing Number)と呼ばれるもの。主要パーツに刻まれていて、承認された図面に基づいて作られ品質基準を満たすことを保証するものだという。これが基になって連邦在庫番号システムになり、さらには現在のナショナルストックナンバー(National Stock Number)システムになったとされる。
この方式が実現できたのは、製造技術の進歩により部品精度が向上したことで、部品の完全な互換性を実現できたからだという。どのパーツの組み合わせでも調整不要で完全に作動し、プルーフテストで問題が起きれば出荷されなかった。はじかれた銃のシリアルナンバーは欠番となる。


現代銃ではシリアルナンバーが1つしかないものも多い。一方、伝統的なこだわりか、法的な規定があるのか、自動拳銃ではスライド、バレル、フレームなど複数箇所に完全なシリアルナンバーを入れているモデルもある。
原理的には、シリアルナンバーは1つあれば充分なはず。現在アメリカでは、2002年に制定された連邦法により、1つのシリアルナンバーを規定のサイズ、深さで、銃本体と認定される部分(フレームまたはレシーバー、モジュラー方式のものではファイアーコントロールユニット)に、容易に消去、変更、または取り外しできない方法で彫刻、鋳造または打刻しなければならないことになっているという。
Photo by Hisanori Tamai
Photo by Hisanori Tamai
シリアルナンバーは、ただの数字の羅列に見えて、実は奥が深い。銃のシリアルナンバーだけでも掘り下げていけば1冊の専門書ができそうだ。そういう本がもし発売されたらボクは買うけど、あまり売れないのかなぁ。
Text by くろがね ゆう
Gun Pro Web 2025年7月号
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