2025/05/24
Saga of Patents パテント探究 1 FNブラウニング モデル1910パテント
Text by 床井雅美 Masami Tokoi
2025年5月 Gun Pro Web Editorによる一部加筆修正があります
2012年 Gun Professionals Vol.1(2012年4月号)掲載
FN Browning Model 1910
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リポーターは、長年の間、現実の銃砲を探し出して研究することを優先し、活動してきた。
その一方で、銃砲に関するパテントに対しても、大きな関心を持っていた。多くの銃器開発者にとって、自身が生み出した銃器に関する最初の公式な証明書でもあるパテントは、まさに銃砲研究の原点とも言えるものだ。しかし、各国で発行されたパテントの総数は余りにも膨大で、個人の力ではとてもリサーチしきれない。そのため最初から諦め、パテント資料の収集は、必要なものだけに留めていた。
それでも最近、いくつかの理由から、ヨーロッパ各国のパテントについて重点的にリサーチを始めた。その結果、そこには、銃砲の現物を見たり、そのオリジナルドキュメントを探し出して研究するのとはまた別の、じつに興味深い世界が広がっていることに気付いた。
現在までにできたリサーチはまったく不完全なものだが、それでもいくつもの埋もれていたパテントを“発見”することができている。
そこでこれまでに発見した、パテントのいくつかを順次ご紹介していきたいと思う。
第一回目となる今回は、アメリカの天才銃器デザイナー、ジョン・M・ブラウニングが開発したFNブラウニング モデル1910セミオートマチックピストルのパテントだ。
ジョン・M・ブラウニングの考案した銃器については、そのパテント図面を多くの銃器関連書籍や雑誌、あるいはネット情報として目にする機会がある。ところが、彼の設計したピストルの中で、FNブラウニング モデル1910に関するパテントの図面は一度も目にしたことがなかった。
アメリカには、ジョン・M・ブラウニングのパテントをリサーチする研究者が多い。しかし、彼らの研究成果のどれにも、モデル1910に関するパテントの図面が含まれていなかった。彼らが調査するものは主にU.S.パテントであるため、どうやらアメリカではモデル1910についてのパテント申請がおこなわれなかったようだ。だから、モデル1910のパテント図がないのだろう。
確かにFNモデル1910は第二次大戦終結まで、アメリカでは市販されなかった。これはFNとコルトによる製品販売エリアの棲み分け協定が影響している。しかし、販売しないまでも、パテントは取得しておくべきものだろう。ましてブラウニングはアメリカ人だ。アメリカ ユタ州のオグデンはブラウニングの故郷であり、この地にあるブラウニング博物館には、手作りのFNモデル1910セミオートマチックピストルのプロトタイプが現存している。にもかかわらず、自分の住む国でパテントを取得しなかったのには、何か理由があるはずだ。
U,S,パテントは申請取得されなかったとしても、ヨーロッパで取得されたパテントは存在するはずだ。しかし、それすらも目にする機会は、リポーターがおこなってきた長い銃器研究において一度も無かった。
ヨーロッパでパテントのリサーチをおこなっていたある日、リポーターは遂にモデル1910ピストルのパテントを発見した。正直な話、この時は少なからず興奮した。
やはり、FNモデル1910ピストルのパテントは存在していたのだ。
最初に発見したモデル1910のパテントは、帝政オーストリアで受理され発行されたパテントだった。1911年5月26日付けの帝政オーストリア パテント48071には、モデル1910の全体側面の図面がそえられており、これがモデル1910に関するパテントであることは間違いようがない。
パテントの申請内容は、スライド内部のバレル周囲に、リコイルスプリングを設定した事に関するものだった。しかも驚いたことに、パテント申請者がジョン・M・ブラウニングではなく、ファブリク・ナショナーレ・ダルメー・デ・ゲール、つまりFN社となっていた。このことから、モデル1910の開発は、ジョン・M・ブラウニング一人でおこなったものではなく、彼がアメリカから足繁く通っていたベルギーのFN社の技術者たちが、開発に深く関係していたと推測される。そのため、彼はアメリカではパテントを申請しなかったのかもしれない。
さらに、FN社は、1911年4月10日付けの帝政オーストリア パテント47297で、モデル1910のグリップセイフティに関してもパテントを取得している。
その後、まったく同じリコイルスプリングに関するパテントが、フランスでも申請されて取得されていることがわかった。フランスでのパテント取得は、オーストリアよりも早く、1909年8月6日付けのフランス パテント400713として発行されていた。このパテントも申請者は、FN社だった。
また、同じ日付でフランス パテント400714として、モデル1910のマニュアルセイフティに関するパテントが、さらにフランス パテント400715ではグリップセイフティに関するパテントが、FN社に発行されている。
残念ながら、FN社の本国であるベルギーのパテントに関しては、2012年現在、リポーターはまだ発見していない。これについても、いずれ見つけ出したいと思っている。




Text by 床井雅美 Masami Tokoi
2012年 Gun Professionals Vol.1(2012年4月号)掲載
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