2025/05/27
【NEW】無可動実銃に見る20世紀の小火器 197 三十年式歩兵銃
実戦投入
日露戦争は、満洲(中国北東部)と朝鮮半島の支配権を巡って大日本帝国とロシア帝国との間に行なわれた。ロシアは南下政策を進めその勢力圏の拡大を目論み、日本にとっては安全保障上看過できない問題である上に、日本もまた中国大陸や朝鮮半島への勢力拡大を目指しており、その利害がぶつかり合って戦争に発展した。
この戦争は明治37(1904)年2月6日に始まり、翌明治38年9月5日の日露講和条約(ポーツマス条約)締結で終わっている。日本は終始優勢を保っていたものの、これ以上戦争継続は国力的に困難と判断、アメリカのルーズベルト大統領に講和の斡旋を依頼した。ロシアは戦争継続を主張し、講和は不可能と思われたが、最終的にロシアが満洲と朝鮮半島からの撤兵、樺太南部を割譲するものの、戦争賠償金を一切支払わないことで交渉が締結した。
当時、歩兵銃は陸戦兵器の花形であり、この戦争の陸戦で三十年式はその優秀な性能により、戦力に勝るロシア軍に大きな打撃を与えている。
三十年式の開発、並びに制式制定がもっと遅れていたり、あるいは性能的に劣る小銃を選定していたとしたら、日露戦争の結果は違ったものとなっていたかもしれない。特に6.5×50mm弾ではなく、弾道性能が異なる30口径級の弾薬を採用していたら、遼東半島や奉天で繰り広げられた陸戦で苦戦を強いられていた可能性もあるだろう。
またそれ以前の問題として、三十年式にはいくつかの初期不良があった。新小銃として配備が始まった明治32(1899)年頃より、チェンバーへの薬莢張り付きによる排莢不良、ファイアリングピンがプライマーを突き破る雷管突破とこれに伴う高圧ガス噴出、ストックのグリップ部分の折損といった問題だ。
これに対し、明治30(1897)年8月に東京砲兵工廠に着任したばかりの南部麒次郎が、不具合の原因究明と対策をおこなっている。
具体的には、三十年式のチェンバー部の加工形状変更とヘッドスペースの修正、エキストラクターの形状変更、レシーバー上面とボルト上面にガスベントホールの追加、ストックの補強支鉄追加といった内容だ。これらの不具合は必ずしも三十年式の問題だけではなく、使用する弾薬の品質の問題も一部にはある。それにより薬莢破断といった事故が起こっても、射手の安全を保てる改良を施したわけだ。これにより三十年式はその機能を高め、実戦に耐えうる軍用小銃となった。そして日露戦争を戦い抜いたことで、じゅうぶんなバトルプルーフを経た軍用小銃になったといえる。


三十年式の終焉
しかし、日露戦争終結から1年も経たぬ明治39(1906)年5月に、新たな三八式歩兵銃の制式が制定され、翌明治40(1907)年から製造が始まった。これは事実上、三十年式の終焉を意味する。
三八式は明治36(1903)年に、三十年式の改良型として提案されたもので、細部を除けば、三十年式のボルトを新しいものに替え、エジェクターを銃本体側に装着しただけの違いでしかない。三十年式の開発で、マウザーのパテントに抵触しないようにするため、もっとも難しかったと思われるボルトを、大幅にシンプルかつじゅうぶんな機能を持つものに作り変えている。
設計は三十年式の初期不良を解決し、かつ三十年式の量産を担当した南部麒次郎大尉がおこなった。南部麒次郎としては、新型銃ではなく、三十年式の中改正という位置付けであったと思われる。そしてこれが陸軍技術審査部で審査された。この時の陸軍技術審査部長は、外ならぬ三十年式を開発した有坂成章少将だ。そして日露戦争を経て、南部麒次郎の改良型小銃は、明治39(1906)年5月5日に、三八式歩兵銃ならびに騎銃として制式が制定された。
但し、この段階では、新型の三八式は既存の三十年式と併用する形で運用される方針だった。しかし、明治40(1907)年から製造が始まった三八式は一気に大量生産され、三十年式との入れ替えがおこなわれた。これによって三十年式はすべて余剰兵器としてモスボールされて保管庫に送られた。
これがおこなわれたのは、有事への備えとして、東京砲兵工廠の小銃生産能力を年間20万挺のレベルで維持し続ける必要があったからに他ならない。日本で初めてストリッパークリップを採用した軍用ボルトアクション小銃は、日露戦争で輝かしい戦果を挙げながらも、制式が制定されてから、わずか9年後には新型にその座を譲り、その数年後には海外に売却されてしまうのだった。

三十年式歩兵銃
全長: 1,275mm
銃身長:790mm
重量:約3.95g(無可動加工前)
使用弾:三十年式実包 6.5×50 mm SR
装弾数:5発
作動方式:ターンボルトロッキング コックオンクロージング
無可動実銃
価格:\880,000(税込)
(無可動実銃は撃発機構等が溶接されていますのでボルト操作や装填、排莢はできません)
シカゴレジメンタルス
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Text by Satoshi Matsuo
Gun Pro Web 2025年7月号
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