2025/05/22
Colt LE901 M.A.R.C. 究極のモジュラーカービン +Colt社破綻の背景
Colt LE901 M.A.R.C.
究極のモジュラーカービン
+Colt社破綻の背景
Text & Photo by E. Morohoshi
Gun Professionals 2015年10月号に掲載
2015年6月15日、コルト ディフェンス社は会社更生法の適用を裁判所に申請した。そんなコルトが破綻する前、最後に開発したライフル/カービンが、幅広い口径をカバーするコルト独自のモジュラーシステムM.A.R.C.901だった。
はじめに
販売数80万梃、金額にしておよそ8億ドル(約1千億円)。これらが一体何を意味する数字かといえば、昨今におけるAR系ライフル/カービン全体の年間売り上げ実績なのだ。もしもこの数字が正しければ、毎日2,000梃を超えるAR系銃器が売れている計算になる。AR系銃器販売の増加率については、2010年までは前年比20~25%程度の伸びであったものが、2010年代に入ると売れ行きに加速が付き、同50%前後という驚異的な右肩上がりの伸びが続いている。
皮肉なことに、アサルトウェポンバン(Banとは法的処置により所持や製造が禁止されること)、あるいはARバンなどの法案が議題に上るたび、AR系銃器の売り上げはさらに拍車が掛かる傾向にある。特に2008年の民主党オバマ政権誕生や、2012年に起きたコネチカット州の小学校乱射事件などをきっかけに銃規制の声が高まると、大勢の一般市民がタクティカル系銃器購入に殺到するという一種の取り付け騒ぎが発生し、銃砲店からAR系銃器が払底するという社会現象が見られる。その際、普段から銃規制を強く主張する者ですら、規制前にどうにかして自分の分だけは確保しようと、AR系銃器の入手に躍起になったというから正に噴飯ものである。
ある大手銃砲店では、一億円を超える毎月の売り上げのうち、何と8割以上をAR系銃器とそのアクセサリーなどの関連品目が占めるというから驚く。大した宣伝費も掛けずに勝手に商品が売れるのだから、ARの製造メーカーや銃砲店にしてみれば笑いが止まらない。正にAR様々といったところである。市場には既に400万梃以上のAR系銃器が出回っているというから、近年のARが持つ底力は半端ではない。
そのようなAR系に強い追い風が吹くなか、AR本家のColt社の経営が行き詰るというのも実に皮肉な話である。今回はColt社が破綻する以前、最後に開発したライフル/カービンLE901を紹介しよう。


M.A.R.C.901
Colt社がM.A.R.C.901(Modular AR Carbine901)を初めて一般に公開したのは、2011年1月のSHOT SHOWが最初であった。旧Gun誌上で筆者がこのSHOT SHOWのミリ・ポリ部門のレポートを担当した。記憶の良い読者なら、一梃の銃で二種類以上の口径をカバーするLE901の基本コンセプトを紹介したことを覚えておられるだろう。一つの銃器やアクセサリーを機能的に“使い回し” することが何より好きな筆者は、初めてLE901を見て強い興味を抱いた。
Modular:モジュラーとは「統一された規格により、各部の構成パーツが交換可能なシステム」といった意味である。設計者であるユージン・ストーナーらがA R系銃器をデザインした際、果たしてここまで将来の拡張性を見通していたかどうかは疑問だが、AR系銃器の基本デザインは図らずもモジュラーシステムという非常に重要な潜在機能を備えていた。
ここで7.62mm口径AR銃器にまつわる歴史とM.A.R.C.901モジュラーカービン開発にいたる経緯を大まかに振り返ってみよう。話は今から60年前に遡る……。
1955年、ユージン・ストーナーのデザインによる7.62mmNATO口径アーマライトA R-10が誕生した。AR-10はすでに進行していた米陸軍のM1ガランド後継機種選考トライアルに遅れて参加することになった。先進的な設計と軽量性が評価の対象となったものの、鋼とアルミニウム製のハイブリッド銃身が破裂するなど、凝ったデザインが裏目に出たことでトライアルから脱落してしまう。その後AR-10はオランダのA.I.(Artillerie Inrichtingen)社で量産されたが、その数わずか1万梃たらずと少量であったうえ、活躍の場もポルトガル軍と一部の紛争地域に限定されたことから、M14、FN FAL、HK G3など当時の7.62mm口径バトル・ライフルの中では、最も影の薄い存在となってしまった。その後弟分のAR-15が半世紀にわたってブレークし続けるという快挙に、兄貴分のAR-10もさぞや草葉の陰で喜んだことだろう。
1960年代以降は、そのAR-15をはじめとする、5.56mm口径アサルトライフルがショルダーアームの主流になりつつあり、次第にその地保を固めるようになった。各銃器メーカーはこぞって小口径ライフルに開発の軸足を置いたことから、それ以来すっかり冷や飯を食うことになった7.62mm口径バトルライフルの進歩はおのずと停滞してしまう。
1990年代に入り、ようやくナイツアーマメント製SR25やイーグルアームス(現アーマライト)製AR-10Bなど、7.62mm口径のAR系ライフルが誕生する。7.62mm口径でありながら両者ともオリジナルAR-10のスペックをそのまま踏襲した訳ではなく、AR-15の要所を口径に合わせてスケールアップしたいわゆるAR-15由来の拡大版である。しかしこの時期の7.62mmARセミオートスナイパーライフルの用途と需要は、きわめて限定的なものであったと言わざるを得ない。

マグリリースボタンの上にあるレバーはアンビ仕様のボルトリリースで、右利きのシューターならグリップしたままトリガーフィンガーで操作できる。スコープは固定倍率のLeupold Mark4 10×40mm。


