2025/05/26
HUDSON THOMPSON M1A1 【ビンテージモデルガンコレクション 8】
Vintage Model-gun Collection -No.8-
HUDSON
THOMPSON M1A1
(1979年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2012年11月号に掲載
ユニークなモデル選びで知られたハドソンだが、王道の人気モデルを選ぶことももちろんあった。やられたと思ったのがトンプソンM1A1。MGCのM1921、コクサイのM1928とくれば、当然ファンの期待はサイド・コッキングの純然たるミリタリー・モデルM1 / M1A1に向けられる。そしてそれに応えるようにハドソンがM1A1をモデルガン化した。


諸元
メーカー:ハドソン産業
名称:トンプソンM1A1
材質:亜鉛合金
撃発機構:オープンボルト、セミ/フル切替式
作動方式:デトネーター方式(後にピストンファイアー方式、さらにCP方式)ブローバック
使用火薬:平玉紙火薬(のちキャップ火薬)
カートリッジ:オープンタイプ(後にクローズドタイプ)
全長: 32インチ(807mm)
口径:.45ACP
重量: 4.8kg
装弾数: 20発
発売年: 1979(昭和54)年
発売当時価格:
ブラックモデル ¥31,000(スリング、カートリッジ10発付き)
シルバー・モデル \41,000(スリング、カートリッジ10発付き)
簡易型 \24,000(スリング、カートリッジ別売り)
組み立てキット \22,000-(カートリッジ2発付き)
オプション:
30連マガジン \3,500-
スリング \2,500-
本コーナーにおける古いめっきモデルガンの紹介で、金色ではなく銀色になったものを使用しているのではないかとのご指摘をいただきました。しかし、本誌では銀色になったものは使用しておりません。本コーナーではゴールドめっきのモデルを撮影していますが、撮影の際、強いライトを当て表面を光らせていること、さらにバック紙との関係などさまざまな要因により金色がうまく再現できないということがあります。また4色分解による印刷においても金色がうまく再現できないため、さらに銀色のように見えてしまうようです。本コーナーは趣味としてのモデルガンの健全な発展に寄与することを意図して製作されています。そのため本誌ではVol.1より「1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエローを吹きつけるなどの処置が必要です」とハッキリ表記しています。今後もモデルガンの健全な発展のために努めて参りますので、何とぞご理解くださるようお願い申し上げます。 (くろがね ゆう) |
※smGモデルなので所持・売買ともに可、法規制対象外品。(2025年現在)
※1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエローを吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
TVドラマ「コンバット!」のサンダース軍曹のトンプソンはM1928A1で、ギャング映画のトンプソンも同じスタイル。映画やTVにはトップコッキングスタイルのトンプソンが溢れていたが、次第に戦争映画で、純然たるミリタリーモデルとして作られたM1 / M1A1を見かけるようになると、そちらの人気も高まっていった。ないものを欲しがるというのは世の常でもある。特に趣味、コレクションの世界ではそれが大きい。
しかも六研が1974年に2度目のオールスチールのカスタム、10万円もするM1A1を発売していたので、いつしかM1 / M1A1への憧れのようなものも徐々に醸成されていくことになった。
実銃ではM1 / M1A1の方が量産向きではるかにコストが安く、大量に作られたにもかかわらず、日本ではなかなか手にできないものというようなイメージが一部に広がり始めていた。自衛隊にはアメリカ軍から供与されたM1 / M1A1があったため、基地祭のようなイベントで展示されることはあった。M1921 / M1928A1より現代的で、いかにも軍用銃というスタイル。手の届かない存在……。
そんなところへハドソンはズバーンとM1A1を出してきた。どんな経緯があったのか、設計を担当された御子柴一郎さんに伺った。



御子柴さんがハドソンの人と話していたとき、次のモデルガンは何が良いだろうかと聞かれたという。そこで、トンプソンM1A1はどうだろうかと答えた。まさに上記のような理由。人気が高いし、ミリタリーのM1A1にすればMGCとも国際産業ともバッティングしない。しかも、M1A1は最終モデルで、最も生産数が多い。ミリタリートンプソンといえばM1A1だろうと。
そんなわけでハドソンの次期モデルガンはM1A1に決定し、設計が進められることになったという。
1979年当時、ハドソンは金属製のリボルバー、コルト ローマンMK IIIとオフィシャルポリスMK IIIを発売したばかりだった。MGCはMGキャップを発売し、マルシンがプラグ・ファイヤー方式BLKを発売するなど、業界が新たな動きを見せていたときでもある。
そしてハドソンのM1A1とほぼ同時期に、MGCはプラスチック製のフルオートも可能なM2カービンBLKを発売するという状況で、ミリタリー人気もまだ高かった。
さらに言えば、1980年1月1日からモデルガン製造協同組合の自主規制として、プラスチック製モデルガンのSPG規格がスタートしている。若干、プラスチックの勢いにブレーキがかかった感はあったかもしれない。
となると、金属モデルの長物、BLKというのはきわめて順当な選択だったと言えるだろう。
御子柴さんは設計を進めるにあたって、土浦の自衛隊武器学校にあった実銃を取材・採寸した。さらに当時、自衛隊やアメリカ軍で廃銃となったものが切り刻まれて屑鉄として売りに出されていたそうで、その中にトンプソンもあり、内部パーツなどはその切り刻まれたものを買って参考にしたという。もちろん関連書籍も参考にした。
基本的に御子柴さんは模型志向のデザイナーだ。ほかにも真ちゅう製のミニチュアガンやミニチュアバイク、ミニチュアカーも作られている。そのことからも模型志向は明らかだろう。ただ、何でも正確に再現すればいいというスタンスでは無く、がちゃがちゃ作動させてもたやすく壊れないことが自分の信条だと、以前「スクラッチビルド・プロジェクト」に参加されたときおっしゃっていた。





ということで、ハドソンのM1A1はいわゆる実寸で、外観はもちろん、内部メカニズムもほぼ実銃に忠実に作られていた。また、そこが売りだった。
一番人気だったMGCのトンプソンで省略されていた部分などはすべて再現した。プレートでピンを押さえる形式のエジェクター、ピン類を固定するピボットプレート、レシーバーとフレームをレールでかみ合わせ後端のラッチで留める方式、国際産業も再現していなかった残弾が無くなるとボルトをホールド・オープンさせる機構、そしてボルト閉鎖時でもオンにできるセイフティ……などなど。刻印も、実銃に準じて、うるさいくらいにあちこちに入れられていた。メカニズム的にも、外観的にも非常に完成度の高いモデルガンだった。
しかし、なぜか広告等でそれらがアピールされることはなかった。ただ量産モデルガンでは今までになかったM1A1だったので、その点だけが前面に押し出されていた。BLKモデルであることさえ表記されていないほどだ。おそらく、便宜上BLKモデルとしていたが、そうでないと当時は売れなかったためだろう。CMCと同じ様な手法で、MGCのデトネーター方式ベースで、カートリッジとデトネーターのギャップがちょっとルーズなBLKエンジンが組み込まれていた。
これがハドソンのM1A1の評価を下げてしまった観はある。BLK作動に関しては、あまり快調とは言えなかったと思う。マガジンのばねもリコイルスプリングも強く、実銃同様にボルトの作動ストロークも長いので、なかなか思うようには動いてくれなかった。たしか1年を待たずして自社の閉鎖系BLK方式、ピストンファイア仕様に換えられている。
マルシンのPFC方式が発売され大人気となったため、各社が競って閉鎖系BLK方式を採用した時期だ。ハドソンは、PFCとバッティングしないようガス抜き穴をカートリッジの側壁に設けるピストンファイアを採用したが、これも御子柴さんのアイデアだったという。
そのピストンファイアを採用しても、残念ながらハドソンのM1A1は、うまく動いたという話をほとんど聞いたことがなかった。実際は作動性能より模型としての完成度にこだわって作られたものだったのだ。後期になってMGCのCP方式(CP-HW)が採用されるが、これに関してはボクは撃ったことがないので作動性能はわからない。






M1A1は設計が終了すると原型を作ることなく、図面でハドソンに渡された。そして金型が作られ、テストキャスティングを見て細部の修正をおこない、量産に入ったという。
木部は、自衛隊のガーランドなどの木製ストックを担当している会社があり、そこがトンプソンの木部も担当しているということで、そこへモデルガン仕様で作ってほしいと依頼したそうだ。そのためハドソンのM1A1には実物のストックセットの装着も可能となっている。違いは仕上げくらいだという。
スリングも専門業者に実物そっくりに作ってもらった。
マガジンは、御子柴さんは20連しか設計していないそうだ。おそらく、プレス業者がそのまま延長して30連を作ったのではないかという。そのためサイズは正確ではなく、全長で実物より5mmくらい短いらしい。
御子柴さんが特にハドソンのM1A1で残念に思っているのは、改造防止用のインサートのためバレルの肉厚が薄くなり、立て掛けておいたM1A1が倒れたくらいでもバレルが折れてしまうことがあったことだという。こればかりは法規制のため防ぐことができなかった。
作動よりメカニズムや外観にこだわって作られたハドソンのM1A1は、それらよりBLK性能で判断されてあまり評価されなかった。もしその点を広告などで押し出していたら、評価は違っていたかもしれない。しかし時代はBLK全盛だった。そういう意味では悲劇のモデルガンの1挺だったとも言えるのではないだろうか。







●Vintage Model-gunとは
本コーナーにおけるヴィンテージ・モデルガンは、原則的に発売されてから20年以上経過した物を対象としています。つまり2012年現在の時点で1992年以前に発売されたモデルガンということになります。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:御子柴一郎
撮影協力:モデルガンショップアンクル
Gun Professionals 2012年11月号に掲載
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