2025/01/25
H&K HK45 米軍トライアル用に開発されたH&Kの45オート
米軍トライアル用に開発されたH&Kの45オート
H&K HK45
By Akira
Gun Professionals 2012年8月号に掲載
ポリマー・フレーム
ポリマー・フレーム・オートにはポリマー・ガン、ポリマー・ハンドガン、ポリマー・ピストル、ポリマー・フレームド・ハンドガン…など様々な呼ばれ方がある。その誕生から30年以上の時が過ぎてしまったが新製品開発の勢いに衰える様子はなく、むしろ活発化する一方だ。
携帯用から競技用モデルまで、あらゆる分野にポリマー・フレームが進出して、さらには金属パーツとの併用で今やリボルバーにも大々的に導入される時代となっている。

ポリマー・フレームが市民権を得るきっかけを作ったのが、80年代半ばにアメリカに進出したオーストリアのグロックだ。脚光を浴びたグロックがポリマー・フレームの先駆者のように祭り上げられたが、世界初のポリマー・ハンドガンであるVP70/VP70Zを開発したのは常に新しい挑戦を求めてきたドイツのH&Kであった。

H&Kはフレーム全体を樹脂化する…その一歩前に発表したP9(と後のP9S)でトリガー・ガード部からグリップのフロント・ストラップ部までの大部分を樹脂製のパーツで構成した。
合成樹脂のパーツは金属よりも耐久力では劣っても大きな負荷が掛からない部分にはもっと積極的に使っていけるという可能性を示したのであった。単なる代用品というだけでなく金属にない長所(軽量、錆びない、低コスト等)を付加させられる事も大きな魅力だ。

H&KがVP70を発表したのは1970年の話…グロックの完成よりも10年以上前のこと。そんなH&Kがグロックを真似した、なんて語られてはいたたまれない話だ。しかしVP70はH&Kにとっては商業的な失敗作で、グロックの成功によって過去の取り組みが再認識された訳だ。
数年前までのH&Kカタログではポリマー・フレームの草分けとしてVP70を写真付きで解説していたが、現在はふっきれたようで行なわれていない(文章では解説しているが)。

H&Kは90年代に入りUSPシリーズを発売し、ここから新世代のポリマー・フレーム・オートが改めて出発した。コンパクト・モデルを含めたバリエーションを展開。それを発展させたP2000が登場し、その特徴を受け継ぐ形で最先端のHK45、P30シリーズが誕生した。
今月はH&Kの現行製品の45ACPオート、HK45の魅力に迫ってみたい。

VP70からUSPシリーズへ
H&Kがポリマー・フレームに期待したものはグロックとは大きくかけ離れていた。その昔H&Kは世界中の軍・警察向けにバラエティのある銃器を設計し、売り込むことを目標としていた。NATOで使用されている口径だけではなく、販売先(輸出先)に合わせた口径バリエーションや低価格な小火器を提供することで、さらなる市場拡大を狙っていた。
その一環として資金力に乏しい第三世界の国々でも大量購入しやすい価格の軍用ハンドガンとしてVP70が企画され、フレームのポリマー化は単純に安く作れるという事だけを中心に行われたものであった。

VP70は単なる低価格拳銃ではなくホルスターを兼用するストックを装着することで3点バースト射撃を可能としSMG(サブマシンガン)の代理品にもなる軍用サイドアームでもあった。開発は60年代から行なわれ、70年にVP70(VPはドイツ語で“Vollautomatische Pistole”フルオート・ピストルの意味を持つ)が完成した。
その設計思想はドイツが第二次世界大戦中末期に試作を進めていた人民拳銃“ Volks Pistole”がルーツだと語られており、VP70の設計や加工法にもそのコストダウンを第一とする一貫した姿勢があった。構造は極力簡略化され構成パーツ数を減らし、トリガー方式はストライカー発射方式のDA(ダブル・アクション)オンリーでSA(シングル・アクション)を省略。製造方法もプレス加工や溶接を可能な限り取り入れて製造工程の省力化に努めた。

オートの主要パーツの中で製造コストの中心となるのがバレル、スライド、そしてフレームだ。バレルの加工はある程度のコストがかかるがVP70は9mm×19でありながらブローバック方式を選ぶ事でショート・リコイルの機構を省き、バレル周辺の構造と加工をかなりシンプル化した。
H&K第一号ハンドガン、HK4から導入していた厚手の鉄板をプレス機で曲げてスライドを製造する方式をVP70にも採用し、そこに溶接でブリーチ部を結合した。残すところの課題はフレーム製造の低コスト化だった。形状的にプレス加工は向いていないので、そこで選ばれたのがフレーム全体を樹脂でインスタントに成形するという新たな試みであった。

H&Kは前述のとおり、その前年に発表したP9でスチール製金属フレームの前部をポリマー化し、コストダウンと軽量化を行うところまで迫っていた。ポリマー・フレームはまさに次のステップであったという訳だ。
VP70ではスライドとかみ合うレール部が付属する上部(同時に銃身を支えている)を金属パーツとしながらも、その金属ブロックを樹脂内に組み込み必要な強度を備えたポリマー製フレームを完成させた。

ブローバック方式選択の代償として重量の増した大型スライドが組み合わせられて、本来ポリマー・フレームが持つ軽量化の利点を殆ど得る事はなかった(もっとも金属だったらもっと重かった訳だが)。
このようにH&Kにとってのポリマー・フレームは、あくまで製造コストを下げる事に主眼を置いたものであって、この時はまだ主力製品にまで採用しようとは考えていなかった。H&Kは後のP7にスチール・フレームを採用し、他社は軽合金を主流とした。

極端にいえばVP70はH&K製品群の末端のオプションであって売りっぱなしの消耗品のような扱いだったのかもしれない。市販版のVP70Zも低人気で注目されることはなかった。
80年代初頭、そこにグロックが飛び出してきたのだ。H&Kの技術者達も吃驚…しかし焦って対抗モデルを出さず、しばらくは静観する姿勢をみせた。
H&Kがまた再びポリマー・フレームの開発に本腰を入れる切っ掛けとなったのは89年に米軍が計画したOHWS(オフェンシブ・ハンドガン・ウエポン・システム)のトライアルだった。

USSOCOM(ユナイテッド・ステーツ・スペシャル・オペレーションズ・コマンド)が求めた新型45ACPオートの開発を機にH&Kは要求項目に従って新型の開発計画を打ち出した。米軍特殊部隊が使用するため、サウンド・サプレッサー、レーザー・サイト(レーザー・エイミング・モジュール)を組み合わせることが前提とされ、ダブル・イーグルの発展型で挑戦してきたコルトのみが競争相手だった。
この時H&Kが開発を進め、結果選定されたのが現在も採用が継続しているMK23 Mod 0であり、この開発計画と並行しUSP(ユニバーサル・セルフ・ローディング・ピストル)が誕生した。

93年に発売されたUSPの設計思想はVP70とはまるで違うものだった。ブローニング・タイプのショート・リコイル方式を初採用し、発射機構はハンマー方式によるDA/SA。フレームにはサム・セフティとデコッキング・レバーを兼ねるコントロール・レバーを設置し、内部パーツの切り替えで、レバーの機能やトリガー方式を切り替えられるようにした。
口径には9mm×19もあるが、40S&Wを前提に設計された。357SIG、45ACPモデルも後に発売され、コンパクト、タクティカル、コンパクト・タクティカル、エキスパート、エリート、マッチ、コンバット・コンペティションなどファミリーがどんどん増え、ドイツ軍にはP8として制式化され、H&Kの代表的な軍・警察用ハンドガンとして活躍を始めた。

USPシリーズは信頼性の高いモデルであったが、スライドが角張り大柄な印象を与える事と鉄板をポリマーで包み込んだハイ・キャパシティ・マガジンの採用でグリップがやや大きかったことが弱点であった。
これらのフィードバックから基本設計をそのままに改良を行ったのがP2000だ(2000年に発売)。好評であったUSPコンパクトを土台にし、特に欧州の警察向けに改良が進められた。
