実銃

2024/11/16

【実銃レポート】9mm×19のマイクロコンパクト1911を実射インプレ「Springfield Armory 1911 EMP」【後編】

 

Springfield Armory 1911 EMP

 

CANiK TP9

 

 世界中にある1911 とそのクローンは.45口径仕様をベースにしている。しかし、現在は9mm×19が主流であり、このサイズで設計し直せば、1911は今よりコンパクトで、もっと使いやすい銃になるだろう。スプリングフィールドアーモリーのエンハンスドマイクロピストルEMPは、部品互換性を最大限保ちながらこれを実行した製品だ。

 

前編はこちら

 

中編はこちら

 

 


 

テスト射撃

 

 EMPはカリフォルニア州の落下テスト申請にマガジンセイフティとローデッドインジケーターの2つが求められるようになる以前に販売許可が得られたため、そのままのデザインで現在も販売されている(.40S&Wモデルも許可を得ていたが製造中止)。

 

短いマガジンながら無理をして9連発にしているため、フルロードしたマガジンを挿入するのはかなりきつく、思いっきり叩き込まなければ入らない

 

 ただ数年前にスライドの刻印が変更されたが、同州モデルは許可を得た当時のままを維持する事が条件なので仕方なく2種類に分けている。でも昔の刻印の方が断然カッコいい。

 以前は樹脂製のホルスターやマグポーチと同梱のセット販売も行なっていたが、現在は紙箱とナイロンケースと質素だ。

 

弾不足なのでグルーピングテスト(距離15m×3回)は115gr FMJのファクトリーリロード弾のみで行なったが平均57mm、最小が写真の41mmでマイクロコンパクトとしてはなかなか優秀な結果だ。1度4発で23mmというのが出た。トリガーを改善すればもっとまとまるだろう

 

 今回の比較はフルサイズ代表としてローデッドターゲット、参考として現代マイクロコンパクトを代表してS&W M&P9シールドとTTIのカスタムスライドをのせたSIG SAUER P365コンバットキャリーを交えて実射テストをしてみた。

 1911のスライドのサイズは.45ACPで設計されてはいても、もともと幅が狭くグリップを小型化した事で、実のところEMPは最新マイクロコンパクトにも匹敵するコンパクトさにまとまっている。

 

EMPのテストファイア。小型軽量モデルの宿命から強いリコイルを予想していたが、これがかなり撃ちやすい。スリムになったグリップは小さすぎる訳ではなく、ちょうど良いと感じ、ホールドも安定する

 

ローデッドターゲットを撃つ。やはり本来.45ACPのフルサイズ1911から9mmを撃つため撃ちやすい。ステンレスフレームによる重量差もあり、やはり体感リコイルはEMPよりもずっとソフトで撃ちやすい

 

 グリップはスリムになったが、むしろちょうど良い太さで握りやすいとも感じさせる。サムセイフティはキャリー向けにローデッドよりやや小型だが、操作性は悪くなく手にとってみれば、まさに1911そのものだ。トリガーの切れもまずまず。サイトもトリチウム入りで夜間は発光するノバックスタイルとなっている。とにかく箱出し状態で十分に実用性があり、大きな不満はなくそのままキャリーガンとして問題なく使える。

フルサイズのローデッドターゲットはこれまで通りに.45口径のサイズから9mmを撃つ訳で1,2kg近い重量もありソフトに撃てる。競技では特にこれが魅力だ。実際にこれまでSTI2011系でも9mmを何万発と撃ってきた。

 

EMPとフルサイズの跳ね上がりをスローモーション動画のキャプチャー画像を使って比較する。想像と異なりEMPの跳ね上がりは少なく、フルサイズとの差はごく僅かだ。肉眼でもサブコンパクト系1911とは思えないほどマズルライズがフラットだ

 

 最近リポートで撃つサブコンパクト系といえば軽量なポリマーフレームが多くなり、9mmとはいえ3インチバレルからのリコイルはそれなりにシャープだという印象が刷り込まれていた。しかしEMPを撃つと、重量バランスが良く、拍子抜けするようなにソフトなリコイルで驚いた。印象としてはローデッドと比べても跳ね上がりも大差ない。

 

 M&P9シールド、そして最も小型なP365の鋭いリコイルと比較すると、その差を強く感じる。これはその重量差が大きく影響している。EMPの重量は今回比較のポリマーフレームのマイクロコンパクトよりも200g以上重い。

 

アンビセイフティレバーにより左利きシューターでも扱いやすい。マガジンキャッチは右利き用だが、専用品ではないため1911用の左利き用のカスタム品に交換する事も可能だ

 

 ユーザーの好みや許容できる重量には差がある。軽量さを最優先するならEMPの重さに抵抗がある人もいるだろう。ただ最近SIG P320のAXGアルミ合金製のグリップモジュールのように、ポリマーとスチールの中間の重さのアルミ合金製フレームの適度な重量感が再評価されて来ている。EMPの重量は、グロックで言えば6インチの17Lより若干重いというレベルだ。1911ユーザーにはスチールフレームの3インチ(重量900g前後)からフルサイズ(1,200g前後)でも許容できる人達も沢山いる。彼らからすれば、EMPもキャリーガンとしては十分に現実性のある重量バランスにあると考えられる。

 

7ヤード(約6.4m)で6発をローレディポジションから連射したところ。EMPも1発ごとのマズルライズは低くても、反動が連なる連射となるとローデッドが有利だ。フルサイズによる重量バランスが良好でEMPよりも着弾が低くまとまる

 

 そして1911ユーザーならチェンバーに装填、シングルアクションハンマーをコックした状態でサムセイフティをオンにしたコンディション1で使うこなせる事も絶対条件だ。セイフティレバーはやや小型だが、従来設計のままなので操作性に優れ、より大型のレバーにも交換可能という拡張性が残されている。

 

以前ウィンチェスターが法執行機関向けに9mmのパワー不足を補うために製造していた127grのレンジャー+P+弾をタランが提供してくれた。EMPの短いバレルでは銃口初速が伸びず、フルサイズよりパワーは劣るのが宿命だ。しかし、ハイプレッシャーアモにより、ある程度はカバーできる。ローデッドからこれを撃つとパワーファクターにして166となり、9mmメジャー弾のレベルに達する

 

 レンジでテスト中、Tran Butler(タラン・バトラー)が「このホットな弾を試してごらん」とウィンチェスターが以前、法執行機関向けに販売していた+P+ロードの127gr JHP弾を提供してくれた。SFAによれば+Pまでのハイプレッシャー弾は多少撃つ程度は問題ないとしているが+P+弾については特に触れられていない。

 

参考までにM&P9シールド(レーザーサイト付き)を撃つ。EMPより軽量でリコイルは強くなるが、グリップも握りやすくコントロールは容易だ。ほぼ同じ太さのグリップで13連マガジンのシールドプラスが大人気となっている

 

TTIのカスタムスライド付きSIG P365。今回の比較では最も小型軽量なのでリコイルは一番強いと感じるが、小型軽量と装弾数のアップを両立させている点は改めてすごいと感じる。シリアル番号を持つFCU(ファイアコントロールユニット)を取り外せば、3.7インチのP365XLへの切り替えも容易だ

 

 小型化した場合、避けようがないのは初速の低下だ。しかし+P+弾を使えば3インチでも5インチと同等にならずとも、かなり近付けられる。実際にどこまで近づけるのかを検証してみたいと思った。銃にもそれなりの負担がかかるので頻繁には撃てない。やってみると、リコイルは強くなるがそこまでキツイとは思わなかった。自衛の本番に使うのが現実的であろう。その結果が下の表だ。

 

 

定番のコーラを撃ち抜いたところ。こちらは115gr FMJ

 

 EMPは価格がローデッドターゲットより$184高いが、仕上げやフィッティングはそれ以上の差を感じるほど数段良く、中々の高級感がある。トリガー関連パーツは共用だが、テスト後にセイフティを少し大型のものに交換し操作性を上げ、カスタムハンマーとシアに交換、使用目的柄あまりプルを軽くはしないが、ある程度のトリガージョブを施そうと考えている。このような事が可能なのは、極力1911の設計を維持しているからだ。これもEMPの大きな魅力となっている。

 

127gr JHP+P+高初速に加え、ホローポイントの効果がより発揮されてかなりの勢いで破裂した

 

127gr JHP+P+で裂けたペットボトル

 

 トラディショナル1911の枠を超えて、さらにSFAが小型化を突き進め2018年にリリースしたのが同じく3インチバレルの911シリーズだ。.40S&Wは含まず.380ACPと9mmに特化させる事でEMPよりもさらなる縮小と軽量化に成功している。SIG P938(2011年に登場)と似たコンセプトの製品で1911にスタイルこそ準じているが実際には似て非なるものだ。内部パーツは新規設計で従来1911系とは殆ど互換性はなくなり1911の各種カスタムパーツでアップグレードや個人の好みにパーソナライズ出来る拡張性は失っている。

 

コンクリートブロックをそれぞれの弾を使い両モデルで撃ってみた

 

ローデッドで115grFMJの弾で撃つと貫通せず潰れて止まったが穴は開いている

 

 EMPはあくまで1911のデザインの枠組みの中で可能な限りの小型化を図ったモデルであり1911の多くの特徴と互換性を共有しているところに強い魅力を与えている。その為SFAとしては911シリーズをEMPの後継機という位置付けとは考えず1911ファン向けの1つの選択肢として別系列として併売している。

 

+P+では貫通こそしなかったが、左右に亀裂が入り、より強いインパクトを感じさせる

 

 1911の設計を基に9mm専用スライド/フレームを開発するというコンセプトは他社にも影響を与え、例えばウイルソンコンバットのEDC X9も同じコンセプトを取り入れているが、こちらは独自色が強くパーツの互換性は一部に限定されている。

 

下が115gr FMJの結果で、EMPでは穴すら開けられず跳ね返された。上が127grJHP+P+の結果だが、5インチと同じくらいの穴を開け、さらに両側に同様の亀裂を入れている。3インチバレルでも+P+弾を使えば5インチから撃つ115grの約1.4倍のパワーとなり、さらに同じ+P+弾同士ならエネルギーの差は約9%と想像以上に小さかった。今回参考までにテストを行なってみたが、ハイプレッシャー弾を用いる事でディフェンシブピストルとしての有効性を高めてくれる。シールドやP365でも撃ってみたが、リコイルは一回り鋭くなるものの、想像より軽く、ハンドリングできる範囲内と感じた。但し銃に負担が掛かるので、頻繁に撃つことは勧められない

 

 2007年発売のEMPは既に14年が経過してる。しかしこの専用小型スライド/フレームのアイデアは現在でも新鮮に感じる。

 EMPは最新のマイクロコンパクトピストルと比較してもコンパクトでキャリーガンとして魅力的であり、1911ファンにも受け入れられる内容を持っていると感じた。
 

 

Photo&Text:Gun Professionals LA支局

Special thanks:Mike Humphries (Springfield Armory media relations manager)

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年12月号に掲載されたものです

 

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