実銃

2024/11/15

【実銃レポート】マイクロコンパクト1911のサイズ感や内部機構をチェック!「Springfield Armory 1911 EMP」【中編】

 

Springfield Armory 1911 EMP

 

CANiK TP9

 

 世界中にある1911 とそのクローンは.45口径仕様をベースにしている。しかし、現在は9mm×19が主流であり、このサイズで設計し直せば、1911は今よりコンパクトで、もっと使いやすい銃になるだろう。スプリングフィールドアーモリーのエンハンスドマイクロピストルEMPは、部品互換性を最大限保ちながらこれを実行した製品だ。

 

前編はこちら

 

 


 

アルミ合金フレームはエアクラフトグレードの鍛造素材を切削加工し、全体的に角を丸めたハードコートアナダイズ処理を施したもの。スライドも含めて加工や仕上げもていねいでローデッドターゲットより数段高級感が増している。フロントストラップはスムーズ仕様だが、チャンピオンではチェッカリングが加工されている。握りやすくなったグリップは女性ユーザーにも向いている

 

グリップパネルはココボロ素材の木製で、SFAのトレードマークが中央に刻まれている。G10などEMP専用グリップがアクセサリーメーカーから色々と供給されている


 そんな意見に応じてSFAはウルトラコンパクトにも9mmモデル(9連マガジン)を2001年に加えたが、本来.45ACPの印象が固定された1911の9mm口径化は、期待するほどの反響は得られず、ウルトラコンパクト9mmは2004年には製造終了になった。この時期SFAはXDシリーズに力を入れ始め、口径9mmの小型モデルではXDサブコンパクト(2002年発売)を推していた。

 

 

従来型1911よりも前後幅が狭く、特に手の小さな人にはとても握りやすいグリップ。グリップ中央部分で計測するとローデッドが51.5mmに対しEMPは49.3mmと2.2mm短くなっている。数字の上では僅かだが実際握るとかなりEMPの方がスリムに感じる。EMPのグリップは必要最低限の長さがあり、小指もきちんと乗っかる


 SFAはサブコンパクト系1911のリコイルを、よりハンドリングしやすくする試みを90年代半ばに既に取り組んでいた。それがバレルに10個のポートを開けたV10ポーテッドで、3.5インチのウルトラコンパクトをベースに製品化、さらに小型でも装弾数を妥協したくないユーザーのために12連マガジンのハイキャパシティモデルまで投入した。

 

3本付属するマガジン(イタリアのMEC-GAR製)は、EMP専用設計のもので識別しやすいように右側面にEMPと大きく刻印してある。右2つのローデッド9mm用とは互換性がない(右端はトリップリサーチ製10連)。EMPのグリップは短いが装弾数は9発と同じで延長フレームのチャンピオンでは10発となる(.40S&Wモデルは8/9発だった)

 

今回のテスト弾。左がファクトリーリロード弾の115gr FMJ、中央がウィンチェスターの127gr JHPで+P+仕様のハイプレッシャー弾だ。アルミ合金フレームでのハイプレッシャーロード弾の使用はあまり推奨されない。SFAによればEMPは+Pにも対応するが大量発射は勧めず、軽い練習程度や、いざという時のキャリー用など限定的に使用する事は可能としている。今回の実射ではEMPの短いバレルでのポテンシャルを探るためさらに強力な+P+を使用してみた。右はサイズ比較用の.45ACP

 

 左右斜め上に開けられたポートから吹き出す高圧ガスは前後から見るとV字に見えることからその名が与えられ、6インチバレルに12個開けたV12や、XD9にもこれが取り入れた。

 

スライドの比較(左からEMP、ローデッド、V10の順)。EMPはスライド後方のファイアリングピンからブリーチフェイスにかけても9mm/.40S&Wに特化していて短い。ブリーチフェイスから後部までの長さを計測すると、従来型が55mmに対してEMPでは52mmと3mm短縮されている。SFAによるとスライド後退ストロークも9mm/.40S&W用とする場合.45ACPの設計そのままだとやや長過ぎる事もあり、短縮したという事だ

 

その結果ファイアリングピン(チタン製)とエキストラクターも短い専用設計が用いられている。EMPもオートマチックファイアリングピンブロックセイフティを持たない伝統的な1911の設計が採られている

 

 確かに過去の実射テストからもV10ポートの効果は強く感じ、サブコンパクトでもフルサイズ並に跳ね上がりを減少させる効果が得られる。しかしその代償として高圧ガスの吹き出す方向にシューターの身体が向くと危険である事は常に気に留める必要がある。

 

スライドにはシリアル番号後半3桁が刻まれてフレームとマッチさせている。フィッティング作業は良好でガタツキがなくスムーズにスライドが前後する

 

 手をまっすぐ伸ばし、また至近距離であっても銃を傾ければ安全性を高める事はできるが、セルフディフェンスの状況は毎回異なり、いついかなる状況でもそのような射撃姿勢がとれるとは限らない。結局SFAは2002年にVポートを持つ1911系バリエーションを畳んでしまった。

 

バレルの比較。上からV10の3.5インチ、ローデッドのフルサイズ5インチ、EMPの3インチ。V10は1911本来の設計だがウィルソン/ナウリン方式の一体型フィードランプが採用されている


EMP

 

 SFAはV10を生産終了としながらもウルトラコンパクトを継続、2002年から3インチのマイクロコンパクトもスタートさせた。また順当な小型1911の選択肢としてコマンダーサイズに準じる4インチバレルのチャンピオンを1992年からオファーし続けている。それらでも人気のある口径は.45ACPだった。

 

P365(3.1インチ/79g)やシールド(3.1インチ/81g)とバレル長はほぼ同じで最新のマイクロコンパクトと比肩し得るサイズだ。EMP(3インチ/116g)はブルバレルで最も重く、フロントヘビーなバランスが得られるので、これも射撃において跳ね上がりの軽減に役立つ

 

SFAのスポークスマンでありプロシューターのロブ・リーサム(Rob Leatham)もコメントしているが、EMPはこの種のコンパクトにしては命中精度に優れる。確かにテスト射撃や精度テストでも同様に印象を持った。スライドキャッチの軸とバレルのアンダーラグの擦れた痕からもきちんとフィッティングされているのが確認できる。筆者のローデッドよりも良い感じだ

 

 その頃XDシリーズも順調に売れていたが、SFAはやはり1911愛好家に支えられてきたメーカーだ。より撃ちやすい1911プラットフォームのサブコンパクトモデルを望む声も多く、これに応えるため、単純な口径の置き換えではない新設計モデルの開発に着手した。

 

フレームの比較。V10を除き一体型フィードランプを持つためフレーム側も大きくカットされている。フレームのマガジンから前方部分は短縮されたがフレーム後方に特に変更はない

 

フレーム側とチェンバー入り口の2段階に分割された従来型フィードランプと異なり、一体型フィードランプによって作動の信頼性が増している。一般的に.45ACPより高圧な9mm×19や.40S&Wでは、ケースがチェンバー装填時にフルサポートされる一体型ランプの方が安全性が高いとされる

 

 9mmや.40S&Wの対人用カートリッジの性能向上は近年目覚ましく、そして.45ACPよりも安価で練習もしやすく、汎用性に優れているといった利点もある。そこでV10ポートなどに頼らずとも、よりサブコンパクトに向いた撃ちやすい口径である事に改めて認識した上で、先ずSFAは.45ACPよりも最大全長が短い9mm×19と.40S&W用の短縮された専用の小型マガジンを設計、それを基準にフレームとスライドを同様に短縮化した新型1911の開発を進めていく。

 

プランジャーチューブ、プランジャー、スプリングも短縮された専用品だ

 

グリップパネルも専用設計でオフィサーズ用などとは互換性がないが、様々なグリップメーカーがEMP用を発売中だ。SFAによればグリップ前後を縮小する事でそのままのパネルの厚みだと握った時のフィーリングが従来型1911からかなり変化してしまうため、グリップパネルを適度に薄くする事で握った感じを近づけたそうだ。装着時の横幅はローデッドが34mm、対するEMPが29mmで結構違うが、グリップサイズに対して適度な薄さでEMPの握り心地は良好になっている

 

 ここで重要なのは1911ファンを遠ざけないために、可能な限り1911のフィーリング、そしてパーツの互換性を維持する事であった。1911の握りやすいグリップアングルと操作性を継承しつつ、内部構造、そして各種パーツの変更も最小限にする事によって市場に大量にある1911用カスタムパーツと入れ換えてカスタマイズする楽しみや、高い拡張性を損なわない事を前提に新設計が進められた。これを失ってしまっては1911の枠から外れてしまい本末転倒となるからだ。

 

SFAはEMPをショートアクションと呼んでいる。それでもトリガー関連パーツに関しては極力従来型1911との互換性が維持されている

 

リングハンマー、シア、ディスコネクターなどは4140カーボンスチール製でMIM(金属粉末射出成形法)により製造されており、ローデッドと内容は同一だ

 

 こうして2007年にデビューしたのが、エンハンスドマイクロピストル(Enhanced Micro Pistol)の頭文字を採ったEMPであった。マガジンを含めた専用パーツは用いているが、ユーザーが購入後にアップグレードする事の多いサイト、操作系、トリガー関連パーツは従来からのものが共用可能であり、ホルスターも多くが流用できるため、1911愛好家から好意的に受け入れられた。発売から10年が経過した2016年に4インチバレルに延長されたEMP4が追加されている。これは同時にフレームを0.5インチ延長する事でグリップのスペースを拡張し、フロントストラップのチェッカリング加工を組み合わせる事で安定感を向上させ、また同時に装弾数も10発にアップしたセミコンパクトモデルとなっている。

 

ローデッドのハンマー、サムセイフティ、グリップセイフティも問題なく取り付けられる。トリガー関連パーツに高い互換性を維持しているので、市場に数多く存在する1911用カスタム品に交換してアップグレードするという1911の一番の面白みが損なわれていない

 

しかしフレーム短縮によってEMPのトリガーバー(1911の場合より正確にはトリガーボゥ/Trigger bowと呼ぶ)だけは専用の短いものとなる。EMP専用の各種カスタムトリガーも市販されている

 

 翌年にはボブテイル状にグリップ後部の角をカットしたConcealed Carry Contour(コンシールドキャリーコントゥア)も追加。ブラック仕上げのスチールフレームで重量を1,049gまでアップする事で、特に.40S&W口径での撃ちやすさを向上させた(現在はアルミ合金フレームのみ)。
 

メインスプリングハウジングも小型化されているが、EMPのために新設計されたものではなく、従来のオフィサーズ系が流用されており、他社のカスタム品にも交換可能だ。SFAでは付属キーを差し込み回転させる事で発射機能をロックするILS(インテグラルロッキングシステム)を導入しており、より安全に保管できる

 

Photo&Text:Gun Professionals LA支局

Special thanks:Mike Humphries (Springfield Armory media relations manager)

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年12月号に掲載されたものです

 

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