実銃

2024/11/14

【実銃レポート】9mm×19口径のマイクロコンパクト1911「Springfield Armory 1911 EMP」【前編】

 

Springfield Armory 1911 EMP

 

CANiK TP9

 

 世界中にある1911 とそのクローンは.45口径仕様をベースにしている。しかし、現在は9mm×19が主流であり、このサイズで設計し直せば、1911は今よりコンパクトで、もっと使いやすい銃になるだろう。スプリングフィールドアーモリーのエンハンスドマイクロピストルEMPは、部品互換性を最大限保ちながらこれを実行した製品だ。

 

 


 

 

マイクロコンパクト1911

 

 アメリカ国民にとってM1911シリーズは、米軍サイドアームとして一世紀以上の繋がりがある。幾度の紛争を乗り越え、ベレッタM9、SIG M17/M18と後継モデルに移り変わった今もなお、一部の米特殊部隊により使用され続けているからだ。

 

購入状態。定番のプラケースではなく、紙箱の中に銃が入った小型ソフトケースが収まっている。マガジンは合計3本と多い。以前はホルスターとマグポーチのセット販売もされていた

 

 その存在は、世代を超えてアメリカ国民に深く焼付き親しみを持って迎え入れられている。それと共にストッピングパワーのある.45ACPは、ピストルカートリッジにおけるひとつの指標となってきた。

 

1911の標準口径である.45ACPモデルを中心に、SFA1911の中核を成すのがローデッドシリーズだ。これはその9mm×19版ターゲットモデルとの比較。一般的に1911系は、どの口径でもフレームを含め可能な限り.45口径モデルとのパーツの互換性を維持させるように設計される。そのためサイズに大きな変化はない。弾の全長の差に合わせマガジンにスペーサーを入れエキストラクター等の最低限の変更で小口径化させるのが従来の順当なやり方だった。つまり小口径化させるなら、その内部に省略できる余裕があったのだ。EMPはそこに着目したSFA独自の小型1911となっている。単純に全長・全高をカットダウンするだけでなく、スライド/フレームを9mm/.40S&W口径用に再設計し、その余裕分を切り詰め小型化をさらに推し進める事に成功した。但し、現在は.40S&Wモデルはなくなり、9mm×19モデルのみとなっている

 

 

 第2次世界大戦後に5インチバレルのフルサイズを、アルミフレームによる軽量化と4.25インチバレルへ小型化したコマンダーが登場する。この時1911プラットフォームの口径に初めて9mm×19が追加され、それから1911系の小型軽量と小口径化の歴史がゆっくりと始まった。

 

EMPをフルサイズの9mm×19ターゲットモデルに重ねてみた。これだけ大きさが違う

 

 デトニクス社が1975年にコンバットマスターを発売し、1911系サブコンパクトの製品化に始めて成功した。バレル長3.5インチ、全長190mm、全高89mm、.45ACPでマガジン装弾数6発と極限まで小型化された1911は当時相当なインパクトを与えた。ただ工作精度を含め、作動面での問題もあり、同社は順調に発展していくことはできなかった。やがて限界にぶち当たり倒産、復活を繰り返すも結局消えていった。

 

Photos courtesy of Spring field Armory

EMP Champion
2007年に登場したEMPは最新モデルではないが今見ても古臭さはない。マット仕上げのステンレス製スライドとのツートンが基本だがスチール製スライドをブラックのセラコートに仕上げてファイバーオプティクフロントサイトを組み合わせたバリエーションもある。2016年、4インチに拡大させ、グリップも0.5インチ(12.7mm)延長して10連マガジンに対応したEMP4が加わった。ファイバーオプティクフロントサイト、Gen2アルミトリガー、フルレングスガイドロッドを採用したミッドサイズで、ポジロック(Posi-Lock)フロントストラップチェッカリングが加工されている。スチールフレームや.40S&Wもあったが整理され、現行モデルではEMPチャンピオンと呼ばれる。メーカー希望小売価格は$1,177

 

Photos courtesy of Spring field Armory

EMP Champion Concealed Carry Contour
FDEのセラコートを施し、薄型G10グリップとグリップ後部をボブテイル型に大きくカットしたコンシールドキャリーコントゥアフレームを採用したEMPチャンピオンコンシールドキャリーコントゥア。通常のツートン仕上げもある。メーカー希望小売価格 $1,220

 

 1985年、本家のコルトが開発した3.5インチの小型1911がオフィサーズACP(Officer’s ACP)だ。翌年にはアルミ合金フレーム版を発売し軽量化をさらに進めた。小型軽量化のトレードオフとしてリコイルが大きくなり、そして各種弾頭形状に対する作動の信頼性維持の難しさがあり、問題がないわけではない。

 

現在市場で人気のある超薄型のマイクロコンパクトピストルとの比較。薄型スライドを持つ新世代の小型キャリーガン達だ。右は2012年の発売以来、100万挺以上の売り上げでヒットを飛ばし続けているS&W M&Pシールド(Shield)で、今年ハイキャパシティ版のシールドプラス(Shield Plus)が登場した。左が2018年に登場し、マイクロコンパクトのハイキャパシティ化のブームを作ったSIG P365。12連マガジンを備えながらその小型サイズは驚異的だ

 

 

 しかしコルトは普及版の1991シリーズにもこのサイズを継続して採用し、市場からは一定の人気を得ることができた。1998年にはさらにバレルを短くした3インチバレルのディフェンダーが出現し、現在も9mm口径を含めて戦列に加えているほどのロングラン製品となっている。

 

真上から比較したところ。EMPはアンビサムセイフティレバーの出っ張りで全幅は36mmに達するが、それを除けば全体サイズや厚みはM&Pシールドにかなり近い。バレル長はほぼ同じながら最新の設計であるP365が一番小型だ。重量比較ではアルミ合金フレームのEMPはポリマーフレームより200g以上重く、軽量さでは敵わない。しかし撃ちやすさではEMPが一番だ

 

スライド幅の比較。横幅1インチ(25.4mm)を下回るマイクロコンパクトが新世代コンシールドキャリーピストルの条件ともなっているが、元々1911のスライド幅(ローデッドの場合は横23.6mm/縦26.8mm)は薄く、その設計を引き継いでいるEMP(横23.3mm/縦25.7mm)もシールド(横22.8mm/縦22.2mm)やP365(横22.8mm/縦22.5mm)と比較しても特に分厚いと感じさせない

 

 余談だが、コルトはオフィサーズACPに先立って1911スタイルの.380ガバメント(.380ACP口径)を1983年にリリースしている。1911のデザインをベースとしているがほぼ新規設計の別系列だ。このシリーズは、ムスタング、ポニー、ムスタングライトなどが登場するなど、ここでも1911のスタイルには安定した人気がある事を証明している。

 

SFAの1911はブラジルのインベル社が製造するものも混在するがEMPはアメリカ国内工場で製造されている。今回テストしているモデルはカリフォルニア州で販売許可を得ているEMPだ。現在EMPの9mmモデル(PI9209L)には2種類ある。同州の法規制が強化される前に販売許可を得た後にSFAは刻印を変更したが、州のルール上その当時の姿を維持しなければならず、同州コンプライアントモデルでは今も昔のスライド刻印のままでPI9209LCAという製品番号で分けている

 

グリップやスライドが短い事を除けば、操作性や使用感はまさにアメリカ人が慣れ親しんできた1911そのものだ。SFAはアメリカ市場で絶対的な人気を誇る1911の小型モデルの需要の高さを認識しつつも、小型軽量モデルでは限界もある.45ACPを無理に貫き通すことを止めた。そして小口径化によって装弾数を確保し、同時に撃ちやすくさせる事で無理のないコンパクト1911を提供する道を選んだ。当初は9mmと.40S&Wの2本立てであったが、.40S&Wの人気急落を受けて、9mmに一本化している

 

 その後も3/3.5インチバレルのサブコンパクト1911にKimber(キンバー)、Para Ordnance(パラオードナンス)、Rock Island(ロックアイアランド)、Citadel(シタデル)なども参入し、一大トレンドとなって競争が激化していく。SIGからは中間の3.3インチ、STIからは3.2インチバレルなども紹介された。

 

アクセサリーレイル付きフレームはないが、フレーム前方の寸法は既存の1911と変わらないのでストリームライトTLR-6などトリガーガードごと挟み込んで固定するタイプの小型1911用ウェポンライトが装着できる

 

Photos courtesy of Spring field Armory

こちらが現行型の刻印だが、視力検査でも受けているのかと思うくらい小さくEMPと刻印されている。以前の刻印の方が断然魅力的だ

 

 この小型1911市場に積極に取り組んだのがアメリカ国内ブランドを代表し80年代半ばから1911クローン製品を展開してきたイリノイ州のSpringfield Armory(スプリングフィールドアーモリー:SFA)であった。

 

 ポケットサイズの1911を望む声に応えるべく1995年に3.5インチのウルトラコンパクト、そして2002年に3インチのマイクロコンパクトを製品化した。

 

コンシールドキャリー向けに幅がやや狭く短い拡張型アンビセイフティレバー、メモリーバンプ付きでより確実に解除しやすいビーバーテイルグリップセイフティなど、全体的な特徴はローデッドと共通しており、箱出しのままでも大きな不満なく使用できる

 

アンビセイフティなので左利きや持ち替えての射撃にも対応する。リアサイトはノバックスタイルでスライド後方にもEMPの刻印がある。写真はハンマーをハーフコックポジションにした状態

 

 他社も同様だがストッピングパワーのある.45ACPを小型サイズから撃つ際の強烈なリコイルの問題や、小型化によって低下する作動の信頼性に対し、好き嫌いも分かれた。それを許容できるか否かでユーザーが絞られてしまう。

 

エジェクションポートのサイズは変化はない。バレルフード部分に装填状態を目視するローデッドチェンバーインジケーター用の溝があるが、昼間でも判りにくい

 

3点ドット式のトリチウムナイトサイトを備え真っ暗闇でもグリーンに発光し狙える

 

 そして当然小型化されれば装弾数は減り、その分1発のノックダウンパワーが重視されるため、.45ACPは有利だが、しかし大口径であるほど弾数が減るという弱点もついて回る。9mmや.40S&Wの小口径対人用カートリッジの改良が進む中、小型サイズは重視したいが、そこまで無理して.45ACPにこだわる必要はないと考える人たちも徐々に増えていった。

 

1911伝統のバレルブッシングを排し、ブルバレル(ステンレス製マッチグレード)とリバースプラグを採用するサブコンパクト系1911の定番設計になっている。スライドを引くとロッキングラグが見えてしまうほどバレルが短い

 

トリガーは定番の軽量アルミ製でオーバートラベル微調整用のネジがあり、付属レンチで調整可能。購入状態でのリセットは約2.5mmでトリガープルは約2.3kgと使用目的を考えると重すぎず軽すぎずの無難な設定だ。1911の基本設計そのものなのでカスタムパーツへの交換とトリガージョブで最良のトリガープルにすることも可能だ

 

 

Photo&Text:Gun Professionals LA支局

Special thanks:Mike Humphries (Springfield Armory media relations manager)

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年12月号に掲載されたものです

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×