実銃

2024/10/15

ワルサーP99をベースに発展したカニックアームズのハンドガン「CANiK TP9」【前編】

 

CANiK TP9

Elite Combat Executive

 

CANiK TP9

 

 トルコのガンメーカーであるカニックアームズがTP9をアメリカ市場に送り出したのが2012年だ。あれから10年が経過、今やカニックのブランドイメージは大きく向上している。TP9のハイエンドモデル、エリートコンバット エクゼクティブには、TP9がワルサーP99のコピーだったとことを示す面影はもうない。

 


 

CANiK TP9

 

トルコの銃

 

 IWAアウトドアクラシックスやユーロサトリの様な銃器展示会を取材に行くとき、ちょっとした楽しみの1つはトルコのガンメーカーのブースを観ることだ。”今回はどの銃をコピーしてきたのかな”と。トルコにはたくさんのブランドがあり、こぞってコピー製品を展開。コピー製品でありながら銃器の国際的な展示、時には政府関係者向けの展示にも堂々とブースを展開している。

 

 ブースで担当者に話を聞くと、自慢げに自社製品の特徴を話す。しかし写真を撮ろうとすると凄い剣幕でそれを阻止する。これが面白いのだ。ところがそれらは消えることなく、ビジネスとして成功を収めている。

 

CANiK TP9
カニックアームズのハンドガンは、TP9シリーズとこれを少しアップデートしたMETEシリーズに分類できる。TP9にはDAモデルもあるが主流はSAモデルで、TP9 SFを基本としたバリエーションが展開されている。ミッドサイズのSF Elite、サブコンパクトのElite SC、5.2インチバレルのSFX、そしてSAIとのコラボのよるElite CombatとハイエンドのElite Combat Executiveがある。ハイエンドといってもUS $779.99と安い

 

 例えばちょっと前までH&Kは民間用の市場では公的機関向けとは別の製品を展開していたため、MP5のような人気の銃は一般市場に出回らなかった。人気があり売れることが判っているのでガンディーラーだって取り扱いたい。そこでトルコ製のコピー製品を仕入れて販売する。それが“意外とよくできている”ので売れるのだ。価格もドイツ製に比べればはるかに安い。

 

CANiK TP9
CANiK TP9 Elite Combat Executive
口径:9×19mm
全長:200.2mm
全高:151.4mm
全幅:36.83mm
バレル長:120.1mm/4.73”
重量:807g
装弾数:18+1発

 

 コピーであろうと何であろうと、トルコの政府や近隣諸国の軍や警察でも採用もされるとビジネス的にはじゅうぶんに成功となる。それによって力を付けて、現在では単なるコピーにとどまらず、そこから独自のスタイルへと発展させて、欧米各国の製品と互角に、あるいはそれ以上に渡り合えるようになっている。コピー元の製品をも凌駕する場合もあるわけだ。

 

CANiK TP9
マッチグレードのスレッデッドバレルを装備、スレッドは M13.5×1LHだ。通常はプロテクターでスレッド(ネジ山)を保護している

 

CANiK TP9

 

 コピーと言えば、かく言う我が日本国もかつては欧米の製品をコピーして学び、今ではそれが日本を代表する工業製品として世界中に広まった例がたくさんある。カメラなんて正にその代表だ。トルコは今、かつて日本が歩んだ道を進んでいるのかもしれない。

 

 そういった中で成功収めたトルコのメーカーがCANiK Armsだ。Canikはカニックともキャニックとも、あるいはジャニック聞こえる。ここではカニックと書く。

 

CANiK TP9
インターチェンジャブルバックストラップは、ほとんどのポリマーフレームハンドガンでは当たり前の機能となった。これを最初にやったのは四半世紀前のワルサーP99が最初だった

 

 同社の最新モデルは、グロックのカスタムブランドとして有名なSalient Arms(SAI:セイリエントアームズ)とのコラボでアップグレードされたTP9エリート コンバット エクゼクティヴだ。ゴールドカラーのコーティッドバレルとエジェクションポートから覗く”SAI”のロゴが興味をそそられる。

 

CANiK TP9
Canik Enhanced Flat-Face Aluminum Trigger
アルミ製でフラットなトリガーだが、ワイドなのでここは好みが分かれるところだ。見た目は良い。しかし隙間が多く。ここに異物が入る可能性もある。そうなった場合、トリガーセイフティが解除できなくなり、射撃できない状況に陥る可能性もある

 


 

TP9エリート コンバット エグゼクティブ

 

CANiK TP9
Aluminum Speed Funnel Magazine Well
アルミ製のマグウェルはマグチェンジの効率を高めるだけでなくグリップをするときのフィンガーレストの役目も果たすので効果大だ。グリップは大きく平面的で、人間工学を追求しているワルサーとは対極にある

 

 TP9はWalther(ワルサー)P99をベースに発展したものだ。P99はワルサー社がウマレックスの傘下に入った後の1997年に登場、ポリマーフレームでストライカーファイアを備えた当時としては最先端の銃だった。手にすっと馴染むエルゴノミックデザインのグリップと、ストライカーファイアでありながらダブルアクショントリガーという製品だった。

 

 ワルサーPPKを愛用していた映画のジェームズ・ボンドがこのP99に切り替えたことでも有名となった(1997年の『トゥモロー・ネバー・ダイ』Tomorrow Never Dies)。あれから四半世紀、本家のワルサーP99はすでに数世代進化して現在はPDPとなっている。カニックもP99コピーから大きく進化して現在に至っている。現在のカニックTP9に、もはやワルサーP99の面影はほとんど残ってない。

 

CANiK TP9
ストライカーがコック状態にあるとインジケーターが見える。このあたりはP99からの継承だ。リアサイトはセレーテッドでドットはない。しかしサイトの視認性は高い

 

進化したTP9にはCanik Enhanced Trigger(CET:カニック エンハンスド トリガー)が装備されている。トリガーリセットが最小限となり射撃に最適な味付けのトリガーシステムで、形状もかなりワイド&フラットなアルミのトリガーだ。

 

エリート コンバット エグゼクティブは、SAIによってアップグレードされたTP9という位置付けで、真っ先に目に飛び込んでくるのは、マッチグレードのフルーテッドバレルだ。そのバレルはスライドから突き出た部分にスレッドが施されたサプレッサー対応仕様。ここフランスは日本と同様にメトリック(metric:メートル法)を採用している。このスレッドはM13.5×1LHだ。

 

CANiK TP9
エジェクションポートには、なんと縦書きで9mmの文字が…。エキストラクターはローデッドインジケーターの機能がある

 

アルミニウム製のファンネルマガジンウェルもSAI製で、視覚的にもインパクトがある。マガジンはコンパクトモデル用の15連にアルミのエクステンションを備えて+3発を実現。フロントサイトには視認性の高いファイバーオプティックチューブが採用され、リアサイト部はパネルを取り外しできるオプティックレディ仕様となっている。

 

このエリート コンバット エグゼクティブのモデルは更に、耐久性やフリクションロスを軽減するために内部パーツにニッケルコーティングを施すと同時に、スライドなど外部に露出するパーツはTeniferコーティングとCerakote処理が施されている。Teniferコーティングとは塩浴軟窒化と呼ばれる表面硬度を高める処理で、金属表面に窒素を染み込ませて金属元素を結合させ、耐疲労強度、耐摩耗性、耐食性を向上させるものだ。

 

CANiK TP9
ロングスライドストップはアンビデクストラウスだ。マガジンリリースレバーは左右入れ替え可能で、サイズも変更できる。オプティックレディのカバーはリアサイトと一体のため、ミニダットサイトを装着する場合、リアサイトはなくなり、コウイットネスでのサイティングはできない

 

スライドストップはアンビデクストラウスで、長く延長されて操作性も向上している。マガジンリリースボタンも延長され、操作性の向上を狙っている。

 

TP9と聞いただけでトルコ製のコピーと毛嫌いする者もいるが、スタイルは決して悪くない。SAIとのコラボもあって手に取って射撃してみたくなる魅力的な銃に見える。

 

CANiK TP9
フィールドストリッピングはテイクダウンレバーを下にさげる。するとロックが外れてスライドが前方に動かせる。しかし、スライドは前方に引き抜かない。と言うより引き抜けない。この位置で上に持ち上げるのだ。戻すときは同様にこの位置でフレームにまず併せてから後方に引く。しかし、この戻すときに位置合わせがなかなかうまく行かなかった。コツをつかむまではちょっと面倒だ

 

次回は、フランスの対テロ特殊部隊GIGNも採用したCZ P-10 Cを持ち出して、撃ち比べてその真価をみてみようと思う。
 

 

Photo&Text:Tomonari SAKURAI

協力:Le cercle de tir de Wissous

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年5月号に掲載されたものです

 

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