アウトドア

2024/08/18

ブーツリペアの達人に聞いてみた“ブーツとは?” 「ブーツリペアショップ 福禄寿」

 

日本のブーツリペアのパイオニアに聞いてみた!

 

 

 最近、サバイバルゲーム界隈では定番のミリタリースタイリングだけでなく、Tシャツにデニムパンツ、スニーカーといったカジュアルな私服でスタイリングをするイベントが行われることが増えてきている。

 しかし、アウトドアフィールドとなると安全性や見た目の雰囲気からブーツを愛用しているユーザーがまだ大多数を占めている。アウトドアでのサバゲーは野山を駆け巡り、寝転んだりするので、ブーツを酷使する環境である。

 そこでワークブーツを専門としたリペア&カスタムショップのパイオニアである「福禄寿」の代表・奥山氏にブーツリペアとブーツライフについても語っていただいた。

 

「福禄寿」代表の奥山武さん。日本にブーツリペアとカスタム文化を根付かせた功労者であり、70年代アメリカンカルチャーを敬愛するハーレー乗りでもある。フロントに2.50-18という、まるでスーパーカブのようなタイヤを履かせたチョッパースタイルのショベルヘッドの愛車ととともに

 

 

福禄寿の始まり


 2002年、福禄寿が操業した当時は、ブーツリペアというものがあまり世の中になかった。福禄寿がブーツリペアを始めるきっかけとなったのは、奥山さんの靴修理修業時代にさかのぼる。奥山さんは、高校卒業後、東京に出てきて靴の修理を行う会社に就職し、そこでの業務としてたまたまソールの全面張替えの担当となったのだ。

 

『修理屋の先輩たちは楽なヒール交換などを担当して、当時若手の自分はずっとオールソール交換をやっていたんですけど、自分がバイクに乗ることもあって、気づいたら周りのバイク乗りを中心に自然にブーツの修理依頼がたくさん来るようになったんですよ。それでその当時いた会社に「ブーツ修理の専門部署を作ったらどうか」と言ったら「誰も直さないよ」と簡単に言われてしまった。具体的にビブラムソールを仕入れて、厚いものが縫える特殊なミシンを入れてやろうと提案しても、会社はそういうのに興味がなかったですね。それで、じゃあ独立してやるよと言って、やり始めたのがきっかけですね。』


 ここから福禄寿のブーツリペアの歴史が始まったのであった。

 

ミリタリーブーツのリペア


 ミリタリーアイテムは奥山さんにとっても馴染みがあり、バイクに乗る時にはミリタリージャケットを愛用しているとのことで、ミリタリーブーツについてもお聞きした。ミリタリーアイテムにはその時代時代の高い技術が盛り込まれており、例えば第二次世界大戦中に米陸軍から支給されたM-43(TYPE3)サービスシューズがブーツの進化に影響を与えたとのことだ。

 グッドイヤーウェルト製法で縫われた、こちらのブーツが後述の福禄寿オリジナルブランド・キーストーンのアイデアソースの一部にもなっている。そんなミリタリーブーツからコンバットブーツはもちろん、メレルなどのトレッキングシューズまで可能な限り修理は行っている。オールドスクールを楽しむ特殊部隊ユーザーにとってブーツの経年劣化は深刻な問題だが、そこに望みが見えたと言える。

 修理受付は来店と宅急便で取り扱いをしているので、ブーツのトラブルで困っているユーザーはぜひ相談してみてほしい。

 

今回持ち込んだ写真の90年代の米陸軍のゴアテックスブーツは、デッドストック状態だったもの。接着面が経年劣化により、手で剥がせるぐらい簡単に剥がれてしまって履けなくなっているが、相談したところ、修理可能ということであった

 

ビブラムソールは登山用として丈夫で滑りにくく、耐久性と機能性に優れたアウトソールとして有名で、最近は用途に合わせて色々なバリエーションがある。交換する際、好みや用途に合わせて選ぶことができる

 

技術に定評のある福禄寿には、大手ブーツメーカーのレッドウィングや数多くのブーツメーカーからの修理依頼がきている。クッション材として練りコルクを使用したり、専用のラスト(木型)を使って修理を行うのが特徴のひとつだが、ラストがないとソールとアッパーを縫い合わせる際に微妙な差異が生まれ、元の状態に戻すことが難しく必需品とのことだ。工房には様々なラストが整然と大量に置かれていた


 

工房では、ソールを圧着するための機械や各種専門の機械がおいてあり、そこで奥山さんやスタッフの方々がリペアやオリジナルブーツのベースを作成されている

 

 

ブーツはおじさんの高い靴ではない


 ブーツリペア専門として始まり、近年はオリジナルブランドも展開する福禄寿だが、そこに至るまでを伺うと、そこには良いものを若い人に提供したいという想いがあった。

 

『独立して5、6年ぐらいで作りたいと思っていました。いろんな靴を作れる業者を探して地道に頼んでやっていたけど、なかなか思うようなものができなかったですね。レッドウィングみたいなグッドイヤーウェルト製法の靴を作っても意味がないなと思って、そこで「リオス オブ メルセデス」という自分の好きなブランドがあるのですが、このブーツはとても履きやすくて、理由を調べて研究していくと独特の製法で縫われていることがわかり、それを福禄寿でも一から作るという作業に入っていきました。

 自分は靴づくりから入っていなくて靴修理から入っていたから、ブーツを上から下にじゃなく、下から上に形を作っていったんです。靴の構造は大きく分けるとグッドイヤーウェルト製法とマッケイ製法があって、グッドイヤーウェルト製法は中底にリブテープを貼り付けて、そこにアッパーとの繋ぎ役になるウェルトを縫い付ける製法ですが、リオス オブ メルセデス(※1)は中底の革の端をめくりあげて、そこにウェルトを縫い付けるので、靴底の屈曲性が向上し安定した履き心地になります。中底を掘ってやるとかえりが良いから履きやすい、ただしその履きやすくするための昔ながらのやり方は、手縫いしかできない。なので、20万近い高級なものになってしまいます。ミシンで縫うというのが実は大変で、曲がった針を使って縫うので、一般的な「縫う」という作業から見たら不可能に近いことをやりつつ、さらに縫える箇所が狭いために職人の技量が求められます。

 この製法を僕らはフレキシブルグッドイヤー製法なんて言っているんですが、これをやりたくて、専用のミシンとソールを掘る機械を買ったりして、設備や技術が整うに10年ぐらいかかりましたね。だからと言って価格が20万もするブーツだと若い人もなかなか買えないですし、「ブーツ=おじさんの高い靴」というイメージを持たれるのも嫌だから手ごろな金額で作ろうと思ったのが、オリジナルブランドの「キーストーン」です。』

 

KEYSTONE BIKER BOOTS ¥74,800

 

月刊アームズマガジン2024年8月号の表紙/グラビアコーナーでも紹介したキーストーンのバイカーブーツ。一見するとエンジニアブーツのようなシルエットだが、つま先がスマートになっているので、バイクのシフト操作の際につま先を入れやすく、スムーズなギアチェンジを可能にする。ブーツシャフトの形状、柔軟さも相まって、とても履きやすい

 

 

KEYSTONE PECOGINEER ¥74,800

 

キーストーンの定番ブーツの1つ、ペコジニアブーツ。その着脱のストレスのなさと履き心地は、大げさかもしれないがスニーカー感覚で軽く気軽に履けるブーツだ。ベースとなるレザーのバリエーションも豊富で自分好みの一足を手に入れることが可能だ

 

サバイバルゲーマーにもお勧めのブーツ


 昔からのサバイバルゲーマーや軍物好きなユーザーはミリタリーブーツやジャングルブーツを愛用しているが、今はトレッキングシューズやスニーカーを履くユーザーも増え、アウトドアブーツも定番として履くユーザーは多い。

 福禄寿では、アウトドアブーツで有名なダナーに別注したモデルも販売している。ダナーのフラッグシップモデルであるダナーライトがそれだ。ダナーライトは、今年40周年を迎えた古参ブーツながらもそのデザインと防水・透湿性能に優れたGORE-TEXを使用した機能性からタウンユース、バイカーやアウトドアユーザーの定番アイテムだ。サバイバルゲームでも森林のアウトドアフィールドで迷彩服に、インドアフィールドでストリートスタイルの足元にも合せられる万能モデルといえる。

 

Danner Light / Fukurokuju ¥74,800

 

90年代後半以降 EEワイズしかなくなったダナーライト。昔のDワイズが作れないかと奥山さんは考え、そこで代理店に確認するとDワイズのラストがあることがわかり、日本人が履きやすいDワイズで別注を行った。その際にデザインの変更は特になくライニングの色タグを省いただけでより90年代のダナーライトに近いイメージに仕上がった。防水性能の機能性能はもちろん、オールドスクールスタイルのブーツの選択肢の一つとしてもおすすめだ


 最近は装備メーカーの製品にレザー素材は使われることが増えた。定番のハンドガンホルスターやマガジンポーチだけでなく、最近はパッチやマガジンポーチにも取り入れられている。耐久性としなやかさ、使い込むことで自然に風合いが増すという良さがレザーにはある。

 ブーツも同じように長く履ける相棒である。いいブーツを大切に履くためにリペアをする。そのサポートをしてくれるのが福禄寿だ。

 

 

Text : Ghost(Ghost in the Dark)
Special thanks to : 福禄寿

 

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