2024/08/04
ワルサーの新たなるDuty Pistol その細部と実力「Walther PDP」【後編】
Walther PDP
ワルサーの新しいパフォーマンスデューティピストルPDP。これが登場したことで、PPQやP99は過去のものとなった。Q5 MATCH SF以降、大きく進化を遂げたワルサー。他のストライカーファイア+ポリマーピストルとは明らかに違う。PDPにより、ワルサーの伝説は今、再び動き出そうとしている
PDP
PPQからQ5 MATCH SFへと可能性を広げたところで、ワルサーは再び原点に戻り、新たなポリマーフレームのピストルを登場させた。それがPDPだ。
PDPとはPerformance Duty Pistol(パフォーマンスデューティピストル)、実質PPQの後継機だ。PDPの登場により、PPQシリーズは一部を除いて製造終了となる。残るのはQ5、Q4系だ。あと.22LR のPPQM2 .22も製造供給は続く。そしてPPQの影で25年間製造が続けられたP99も製造を終えた。
PPQファミリーなのでメカニズムは同様だが、スライドは全く違うシルエットとなっている。フレームはPPQのままなので違和感があるというのが正直なところ。
そのスライドは角張って、P99からの伝統であるエルゴノミクスデザインのフレームを完全に殺すような、定規だけを使って書いたような直線的なシルエットになっている。しかしそれには理由がある…というよりも、それこそがこのPDP最大の特徴なのだ。
PDPはマイクロダットサイトを装着することを前提に設計されている。これをワルサーはRed Dot Ergonomics(レッドダットエルゴノミクス:またはRDSエルゴノミクス)と呼ぶ。現在ではOR(オプティックレディ)機能はスタンダードな装備だ。しかし、各社とも既存の銃にその取り付け機能を持たせているだけだ。
しかし、このPDPはマイクロダットサイトを装着したときにスライドを操作しやすいよう、またより素早くダットを捉えることができるようグリップアングルとの人間工学的なバランスをとってデザインしている。これがRDSエルゴノミクスだ。
Q5から受け継がれたトリガーはデューティ用に味付けされた。Performance Duty Trigger(パフォーマンス デューティ トリガー)と名付けられたそのシステムは、ストライカーでありながらキレのあるトリガーフィーリングを実現している。
デューティ向けにもう一つ進化しているのはグリップフレームだ。形状やシステムはPPQ同様だが、その名もPerformance Duty Texture(パフォーマンスデューティ テクスチャー)。
グリップに施されたスティッピング加工は、素手でも、グローブでも、もちろん汗ばんだりして濡れている手でも、確実にグリップできる。エルゴノミックデザインのグリップと相まって、かつてないほどのグリップフィールが得られるのだ。
実射
シューティングレンジにPDPコンパクトとフルサイズ。それとQ5 MATCH SFの3挺を持ち込んだ。そこで面白いことに気がついた。どれから撃とうか?じゃあ、フルサイズでいこう。すると、今回の射撃を担当してくれたローマンはスライドの短い方のPDPを手にした。
「そうじゃなくって、スライドの長いフルサイズの方だよ」と伝えるとフレームに書かれた” Full Size”の文字を見せてきた。PDPシリーズはスライド、バレルの長さではなく、フレームのグリップのサイズでコンパクトとフルサイズを分けているのだ。コンパクトは15発、フルサイズで18発が装弾数となる。なんだか紛らわしい…
ということでまずは18発のマガジンの入る、バレルは4インチのフルサイズから、射撃を行なった。もう一つ面白いことに気がつく。このPDPを手にするときに凄く軽く感じたのだった。その感じから後で調べてみたが重量はグロックなど一般的なポリマーフレームの銃と大差ない。だけど、手に取ったときになぜか軽く感じたのだった。
射撃で使用したモデルはダットサイトなしだ。それでも、スライドの操作性は非常に良い。操作する手がスライドと面で触れあい、アグレッシブなセレーションのおかげで無駄な力を入れなくとも操作できる。このセレーションをワルサーはSuperter-rain Serrations(スーパーテラインセレーションズ)と呼んでいる。
アジャスタブルなリアサイトとフロントサイトが共にホワイトドット入りで視認性も良い。トリガーのフィーリングはこれがストライカーファイアであることを忘れてしまうほどにキレがある。弾が発射されるともちろんマズルライズは起こるが、グリップが手にしっかりと吸い付いたままなので、リコイルをしっかりと身体全体で逃がせる。銃をうまくコントロールできることでリコイルも和らいで感じるほどだ。
コンパクトサイズのフレームに5インチバレルを装着したモデルは、フルサイズ4インチよりもバランスが上に移るし、グリップの手との接地面積も落ちるのでややリコイルが大きくなった気がする。但しこれもフルサイズ4インチモデルと比べてのこと。グリップの表面処理がうまく効果があるのでPDPの持ち味は失われていない。
最後にQ5 MATCH SFを射撃する。もうこれは別格である。この銃が持つ重量バランスとトリガーフィーリングは、最高の射撃を実感することができる。そしてこの感覚は、ポリマーフレームのPDPにも通じるものがあることが不思議だ。
ワルサーがかつて、PP、PPK、P-38で築いた伝説は、ここしばらくの間、消えさっていった。過去を引きずって時代の変化に乗り遅れたP5、ワルサーらしさを感じられなかったP88、UMAREX傘下になってもなかなか浮上できなかった。
スモールボアやエアライフルなど競技用の銃に関しては素晴らしいトリガージョブができるのに、ワルサーの重要カスタマーであるドイツ警察の暴発防止対策を施した重くて長いトリガートラベルを持つトリガーを、通常の製品にも搭載してしまったこともそれに大きく影響している。しかし、Q5 MATCH SFはそれまでのネガティブなイメージを覆して、ワルサー本来の持ち味を復活させた。
そしてこのタイミングにデューティピストルとしてPDPを登場させたのだ。ワルサー自らこのPDPを“エリート”と称している。それは決して大げさでもないことが手にすることで分かったのだ。市場に現れから既に半年以上が経過、高い評価を得ている。
ちょうどこの原稿を書いているときにワルサーから連絡が入った。より多くのマイクロダットサイトに対応できるようにプレートを2mm延長したモデルを発表した。これによってトリジコン、リューポルド、ヴォルテックスに対応できるようになったと。このPDPによって、“ワルサー伝説の復活”は近づいている事を実感した。
Photo&Text:櫻井朋成(Tomonari Sakurai)
Special Thanks : Le cercle de tir de Wissous
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年4月号に掲載されたものです
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