2024/08/04
ワルサーの新たなるDuty Pistol「Walther PDP」【前編】
Walther PDP
ワルサーの新しいパフォーマンスデューティピストルPDP。これが登場したことで、PPQやP99は過去のものとなった。Q5 MATCH SF以降、大きく進化を遂げたワルサー。他のストライカーファイア+ポリマーピストルとは明らかに違う。PDPにより、ワルサーの伝説は今、再び動き出そうとしている。
25年間の進化
ワルサーがコロナ禍の中、新製品を発表したのは2021年の5月の事だった。おそらく本来なら3月のIWAアウトドアクラシックスで発表したかったのだろう。その時ワルサーは、従来のPPQを発展させたPDPを登場させた。
ワルサーはこの四半世紀の間、常に進化し続けている。新世代ワルサーの始まりといえば1997年のP99だ。ストライカーファイアでありながら、トラディショナルDA/SAトリガーを搭載、王者グロックに挑んだが、まるで歯が立たなかった。その後、P99QAやP99ASなどトリガーシステムを変更したバリエーションを送り出す。
そして2011年にPPQを発表、完全なプレコックストライカーに移行した。2013年にはマガジンリリースを変更したPPQ M2が登場、そしてこれを競技用にしたPPQ M2 5” Sportを2014年に送り出す。その集大成が2019年のQ5 Match SFだ。これは射撃に特化したモデルとなっている。5インチバレルで、その後に4インチのQ4も登場した。
“射撃に特化した”という言葉は、おかしく聞こえるかも知れない。銃なのだから射撃に特化するのは当たり前…というわけだ。しかし、これは自動車に置き換えて考えれば納得できる。同じ車でも実用性と経済性に特化した軽自動車や、荷物を運ぶことに特化したトラック、スピード競技に勝つために特化したレーシングカー…といった具合に用途別に車種がある訳だ。銃だって同じこと。
ポリマーフレームというものは、銃の製造工程を簡略化して安く作れるようにすると同時に、軽量化して持ち歩く際の負担を軽減させている存在だ。持ち歩いていれば、いざというときのために使える。
フランスの一般警察官の年間射撃訓練弾数は年間平均13発でしかない。そんな練習不足であっても、警察官は銃を携帯している。公務中に銃を撃つ可能性はかなり低い。だから13発程度しか撃たないのだが、銃の携帯は服務規程にある。ならば少しでも軽い方がいい。軽ければ軽いほど負担が少ないというものだ。そしてこういう“軽さ”を目指した銃は、“射撃に特化した銃”とは言えない。
ストライカーファイアーはハンマーファイアよりもパーツ点数が少なくて済み、コストを抑えられる。しかし、バレルのボアラインをグリップに近づけることもできるので、これは射撃のための選択と言っても良いだろう。PPQはポリマーフレームのストライカーファイアピストル。いろんな要素が混ざっているので、これは“射撃に特化した銃”ではない。
筆者は個人的にポリマーフレームの銃は好みではない。持って見ればわかる。バランスが悪く、撃ち難いのだ。
ワルサーはそんなPPQをベースに、段階的に射撃を重視したモデルに進化させ、最終的にQ5 Match SFを生み出した。この射撃重視というのは、射撃時に最も効率の良い重量にすることでもある。
一般的にピストルの場合、その重量は1,000g以上が射撃に適しているといわれている。これはリコイル、マズルライズを抑えることができるからだ。しかし、あまり重くするとハンドリングが悪くなる。
但し、銃を持って走り回ることがない射撃競技であれば、重くても良いわけだ。大切なのは、その重量バランス。ポリマーフレームでスライドを重くして1kgにしたのでは、頭でっかちでバランスが悪く、とても撃てたモノではない。重心はできるだけ下にしたい。その結果、ワルサーはこのポリマーフレーム全盛の21世紀に、フレーム素材として、金属、それもスチールを選んだ。名称の最後に付くSF。これはSteel Frameの略だ。
競技用の銃ということで、使うシューターはそれなりに練習をして銃に慣れている、ということが前提だ。トリガーのセッティングが絶妙で、慣れていない人が撃てば暴発することもあり得る。だからこそ“射撃に特化した”銃なのだ。年間13発しか練習しない一般の警察官が持つような安全重視のものとは違う。
現在オリンピックなどのISSFエアライフル射撃競技でシェアナンバーワンはワルサーだ(ファインベルクバウではない)。ワルサーのトリガーフィーリングはダントツで良い。そんなワルサーは、ストライカーファイアでも素晴らしいトリガーを実現している。これは凄いことだ。ストライカーはハンマードと違って構造上だ。シアのキレを良くすることが難しい。筆者がグロックを好きになれないのはそこにある。サードパーティのキットなどがあって散々試したが、すればするほど無駄な努力と感じるのだ。しかし、ワルサーはそれを実現してしまった。
Photo&Text:櫻井朋成(Tomonari Sakurai)
Special Thanks : Le cercle de tir de Wissous
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年4月号に掲載されたものです
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