2024/07/12
XDからコンパクトになっただけではないXD-S Mod.2 その進化とは?「SPRINGFIELD ARMORY XD-S Mod.2 OSP」【中編】
SPRINGFIELD ARMORY
XD-S Mod.2 OSP
シングルスタックでスリム、そして余分なでっぱりを極力排したスムースなボディ、さらにダットサイトもセットという究極の9mmキャリーガンを手に入れた。それがXD-S Mod.2 OSPだ。載っているダットサイトはクリムゾントレースの安価なものだが、実に狙いやすい。時代はどんどん進んでいる。
OSP
XDからXD-Sまでの流れを長々書いた。ココからようやく主役のXD-S Mod.2 OSPの話だ。
先ず第一印象、すっごく薄い。そして、握りやすい。グリップ部の前後左右に展開する3種の異なるテクスチャーが上手く効くのと、ビーバーテイルがほどよく伸びてハイグリップも可能。フロントストラップの控えめなフィンガーチャンネルも自然だ。
スライドのセレーションはやや弱いと感じる。XD-S登場時、わざわざPosi-Wedgeと称して深さや鋭さをアピールしていたが、Mod.2では幾分浅くなった模様。OSPならダットサイトが取っ掛かりとなるが、あまり負担は掛けたくない。
トリガーに関しては、見た目は旧XD-Sとまったく一緒。しかし、前章で述べた通りリセットが短くなっている。行きつけのショップにたまたま新旧が揃っていたので試させてもらったら、明らかに違う。XD-Sになってから、トリガーフィーリング自体もグロックに似てきており、Mod.2でさらに近付いた感が強い。
そして、グリップセイフティだ。XD系オートの最大最強の特徴がコレだ。構造的にはシアをブロックする仕掛け外装セイフティとして、コレほどヒューマンエラーに縁遠いものはなかろう。Mod.2ではメモリーバンプも付いたし、実は80%程度の握り込みでもちゃんと解除する。
ただし、だ。昔からこの手の装置は、何となく手の皮を挟みそうで怖い。事実、下からすくい上げるように掴むと、挟む。ローグリップしがちな初心者は気を付けたほうが良いかもしれない。どうしても気に入らないなら、テープを巻いてしまう手もある。
そんなグリップセイフティに加えて、お馴染みのトリガーの指セイフティの他、スライド内には“dropproof”のストライカーブロックセイフティも装備する。エクストリーム・デューティーの名に恥じない三段重ねの鉄壁な守り。これらは元々XD時代からの伝統だ。
そしてそして、OSPのハイライトであるダットサイト。流行言葉で言うところのMOS。自分はコレも初体験だ。同社では、2018年からXD-Mシリーズを中心にOSP仕様を浸透させ、2020年にXD-Sへも広げた。付属のダットサイトはクリムゾントレース製で、3.5 MOA のスペック。
驚いたのは、スイッチが付いていない。電池は入れっぱなしで2万時間持つのだそうだ。日にちに換算して833日。2年と3ヵ月なんて、忘れた頃に電池切れか。その電池交換の際、サイトをいったん外さねばならないのはつらい。いちいちサイトインし直すのは面倒だろう。無論、サイトを外さず電池交換可能な製品もあるから、そっちへ乗り換えれば良いだけだが。
なおOSPモデルでは、ダットサイト用のスペースを確保するため、Mod.2まで有ったスライドトップのローディードチェンバーインジケーターは消滅。代わりに、チェンバーのフードに残弾確認用の穴を開けた。レバー式のほうが絶対分かりやすいからちょっと残念。それと、同じ理由でリアサイトもコンパクト化されている。どの道ダットサイトを載せたら、Tactical Rack 機能は生かせないけどね。
一つ気になるのは、分解レバーか。下じゃなくて、上に回してスライドを抜くのだ。XD時代からどうも違和感。手順としては、マガジンを抜いてスライドをオープンし、分解レバーを上へ90°回してスライドを戻し、トリガーを引けばスライドが前方へ抜けるというもの。勿論、スライドと分解レバーとのクリアランスは十分取ってあるが、気持ち的にポジティブじゃないんだよなあ。
その他、マガジンは3本付いてきた。フィンガーレスト付きの7連が1本でエクステンション付きの9連が2本。そして7連のフラットなボトムプレートも付属する。自分は9連のエクステンションがお気に入り。グリッピングが最高に決まるのだ。オプションで8連も存在するので、そちらも絶対試してみるつもり。
あと、個人的に3.3インチの短いバージョンにしなかった後悔は少しある。コンパクトさだけが理由ではない。3.3インチ版はリコイルスプリングロッドの先端が少し出っ張っていて、銃口を何かに押し付けてもスライドは後退せず、そのまま撃てる細工になっているのだ。いわゆるスタンドオフ・ディバイスというヤツ。まあ、4インチならサイトラディウスも弾の初速も幾分増すからと、自分を納得させているところだ。
ざっとこんな具合。
一般に、マイナーチェンジは一種リスキーな行為ではあるが、同社はメジャーなオーバーホールをかなり果敢に繰り返している。時代のニーズに合わせ、XDの伝統を守りつつも徐々に脱XDへ進んでいる感じか。
以上、それでは実射のその前に、このXD-Sを眺めつつ心に浮かんだのが、「未だにクロアチアで作ってるんだ」ということ。フレームにしっかりHS Produkt MADEI NCROATIAの刻印が見える。クロアチアが云々という意味ではなく、Made in U.S.A.じゃないって部分がポイント。
他のリポーターの方々が何度も指摘しているように、スプリングフィールドは新規設計の能力はどうも低く、ひたすら企画力とブランド力とそれに伴う販売力で勝負の会社だ。思い起こせば、同社の85年の1911クローンは、当初はブラジルのインベル社が製造。
そしてCZクローンのP9はタンフォクリオ社からパーツ提供を受け、また92年の倒産危機の直前にはスペインのアストラ社の製品の輸入販売も行なった(数百丁のみで終了。旧Gun誌92年4月号のSHOTSHOW記事に写真が載っている)。まさか復刻ハイパワーのSA35も、トルコのGirsanからパーツ提供を受けてるんじゃないだろうなとか、ついつい勘繰ってしまう(それは多分なさそうな模様)。
自社製造は昔ながらのM1Aライフルとか1911系に限り、残りはほとんどOEMでリスクを取らない大名商売。恐らくこのスタイルは、農場経営者だった先代のBob Reese(現在は息子のDennis Reeseが社長)が、縮小の一途をたどるアメリカ農業の苦い経験から得た教訓なのかもしれないが…
ただし、だ。XD系に限って言えば、性能はピカイチで安全性も高く、価格も比較的安価にもかかわらず米国内のローエンフォースメント関係の採用が低迷なのは、やはりMade inU.S.A.ではないからだろう。グロックだってSIGだって、米国工場の錦の御旗あっての御用達に違いない。
そして同時に、元会社であるHSProduktは、スプリングフィールドと協力関係にある限り、自らの名で米国へ進出して工場を建てる道は事実上閉ざされている、という穿った見方もできるわけで。まあ、今更XDがHS2000に戻って米国市場へ流れても、ユーザーは戸惑うのみだろうけどね。
スプリングフィールド究極のコスパ9mmキャリーガン「SPRINGFIELD ARMORY XD-S Mod.2 OSP」【前編】
Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年6月号に掲載されたものです
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