実銃

2024/06/08

【実銃】100年以上前に誕生し今なお驚異の射撃性能を誇る「MAUSER C96 RED9」【後編】

 

 MAUSER 

 C96 RED9 
 

 

 19世紀末に紆余曲折の末リリースされたマウザーC96は、ドイツ帝国軍に制式採用されることを目指してデザインされた、ごく初期のセミオートピストルだ。オリジナルデザインの口径はこのモデルのために設計された7.63×25mmMauser(.30 Mauser)だがその目論見は外れ、ドイツ帝国軍が採用したのは9×19mm弾とDWMのP08だった。
 しかし、第一次大戦中にP08の不足を補うために、ドイツ帝国軍は9×19mm仕様のC96(後に“レッドナイン”と呼ばれるようになる)も使用していた。今回は、この銃のポテンシャルを探っていく。

 

 


 

実射


 今回は貴重な“レッドナイン”を試射する機会に恵まれた。コレクターであるオーナー氏が、「撃っていいですよ。ただしライフリングはそれなりに摩耗しているので、精度は期待できません。ストックもあります」と、貸与してくれたのだ。

 ショルダーストック付きとなるとカリフォルニアでは規制に触れてしまうため、ネバダ州境にあるシューティングレンジで実射を行なった。

 

今回テストに参加してくれたイケダさん。競技射撃に燃えている。

 

これがストック/ホルスターにC96を収めた状態。これにレザーのハーネスを装着すれば、身に着けて装備することができるようになっていた

 

ガンが収まった状態。蓋側の板バネで銃本体を押さえつけるようになっており、収納時のガタは全くない


 マウザーC96の第一印象は、「おお、ピストルカービンだ!」というものである。実はつい先日、B&T社のUSW-G(ユニバーサル・サービス・ウェポン)を撃ったばかりだったのだ。肩付けできるピストルキャリバーウェポンのポテンシャルには物凄いものがある。これが私の結論だったので、この120年以上前に考案されたごく初期のセミオートピストルに面食らってしまったのだ。

 

するりと抜き出せば大型拳銃が姿を現す

 

ストックを180°回転させ(上下を逆さまにして)、C96にストックを装着する。金具部分は少しガタがあるので、このストックはこのC96とセットで製造されたものではなく、別の個体とのセットだった可能性がある


 今回用意したアモは、ウィンチェスターのホワイトボックス115gr FMJと、比較用のFederal 147grHSTである。
 まずは安全確認を兼ねてプリンキングしてみる。基本的には片手保持するようデザインされているが、いろんなグリップで撃ってみる。重量はあるがバレルの位置がグリップよりはるか上にあるためか、マズルジャンプはかなりのものだ。重量があるのでリコイルそのものは大したことないが、銃口がバネで弾かれたように持ち上がっていく。

 

発射後ボルトは後退しているが、銃自体はほとんどぶれていない

 

ジャム。ダブルフィードの一種だが、カートリッジの押さえが甘く、2発上昇してきてジャムってしまった。微妙にバランスしているが、プライマーにエキストラクターが当たりそうで、ややゾッとするジャムだ

 

 あとグリップする位置をよく考えないと、ハンマーの付け根が指の股部分を挟んでしまう、いわゆる“ハンマーバイト(Hammer bite)”現象が簡単に起きてしまうのを実感した。今回モデルになってくれた2人ともやられてしまったので、これはこういうものと理解しておくべきだろう。

 

このくらい下を握らないとハンマーにやられてしまう

 

ストックを装着した場合は、このように親指を右側に持っていった方が、安全だ

 

痛々しいハンマーバイト痕。わかっているのだが、気を抜くとやられてしまう


 そして精度テストでは、25ヤードからシューティングレストを使って5発、各種アモを撃ち、うち4発のグルーピングを計測した。オーナー氏は結構散るはず、とおっしゃっていたが、Federal 147grでは1.75インチのグループを達成している。

 また、ウィンチェスター115grでは、平均初速が1,200fpsほど出ており、ライフリングの摩耗による初速の低下などはほとんどない状態と思われる。

 

狙点を決めるための、25ヤードからの試射ターゲット。よくまとまっている

 

ウィンチェスター115gr FMJの銃口初速。このアモをグロック等から撃った場合は1,100fpsを超えることはない。


 ここでストックを試してみる。このテストガンでは、ストック/ホルスターに装着するレザーハーネスは喪失しているが、たぶんオリジナルだと思われる木製ストックはホルスター機能もしっかりしており、がたもなくガンを収納することができる。それぞれのノッチを合わせてスライドするだけで、装着は完了だ。この金具部分は少々ガタがあり、ルガーP08のようにレバーを回せばほぼ完全に固定する仕組みでもなく、少々期待を裏切られた感がある。まあ百年も前に作られたモデルだけに、オリジナルはもっとしっかり固定していたのだろう。

 

50ヤードからの精度テスト

 

クロノグラフを通して、50ヤードを撃つ

 

 ここで15ヤード先のターゲットに、ガキっとストックを固定して撃ってみる。素晴らしい安定感とともに、先ほどまでのマズルジャンプがほとんど感じられないことに気付く。連射しても2発目のコントロールがしやすいのだ。

 

 特に左手でマガジンの前をぎゅっと握りしめると、さらに安定感が増すのがわかる。距離を25,50ヤードと伸ばしていっても、その安定感は持続し、50ヤードでシルエットターゲット内に集弾させるのに苦労しなくて済んでしまうのだ。ピストルカービン恐るべしだ。これなら100ヤードも楽々こなしてしまうのではないかという気がする。

 

長いバレルだが、時に盛大なファイアボールを噴き上げる

 

200発ほどを撃ったが、3回ほどジャムがあった。これは不完全閉鎖


 そこで後日、実際に100/200ヤードを撃ってみることにした。

 100ヤードはシルエットターゲット、200ヤードは15インチのラウンドゴングである。まずはタンジェントサイトを100mにセットし、シルエットのヘッドを狙って撃ってみる。ターゲットに弾痕はない。下に行ってしまったようだ。もう1発撃っても結果は同じだったので、今度はサイトのアジャストを150mにしてみる。

 

50ヤード先のターゲットを狙って、グイっと握りストックを引き付けて撃つ。この後、
「痛ててっ、ハンマーに挟まれたぁ!」となった。ハンマーバイトだ

 

ストックを装着すると、マズルフリップもはるかに小さい。

 

片手でホールドすると、盛大にマズルが跳ね上がる


 へそのあたりに着弾したのが見えたので、ほぼ同じ位置を狙って残りの7発、さらに10発を撃ってみた。結果は写真を見ていただきたいが、上下20インチほどに散ってはいるが、何と全弾ターゲット内に入っているではないか。さすがにリアVノッチ、フロント山形サイトというのは慣れない分狙いにくいが、立派な結果である。

 

連射してもらった際、徐々にグリップのホールド位置が上がっていき、2度目のハンマーバイトとなった

 

肩付けスタンディング、100ヤード20発のターゲット。最初の2発は着弾点がつかめず外してしまったが、そのあとのグループは素晴らしいといえる。ピストルカービンと対決するのは勘弁願いたい


 200ヤードの方は少々手強かった。最初の10発は250m、次の10発は300mにアジャストして撃ってみたが、300mポジションの時に1度ヒットしただけで、あとはどうアジャストしても15インチターゲットには当てることはできなかった。砂煙の上がり方からすると、ターゲット周り2 ~ 3mの範囲に着弾していたようなので、やはり射程は100 ~ 150ヤードということになりそうだ。

 

200ヤードターゲット射撃の際のライフルレンジ。一番手前が50ヤード。バンクの前が100ヤード、その奥の丸いターゲットが200ヤード15インチだ

 

 それにしても恐ろしい結果といえるのではなかろうか。もしこれにRDS(レッドドットサイト)を載せることができたら、もう少しストックが安定してくれていたら、もしこれがオリジナルの7.63×25mm口径であったなら、いろいろと考えると寝られなくなってしまいそうだ。

 

 恐るべし、マウザーC96。もし相手がストック付のピストルカービンを持っていたら、これはもう裸足で逃げるか、バリケードに隠れて微動だにしない、この手で行くしか無かろうと確信してしまった。

 

 

TEXT&PHOTO:Hiro Soga

 

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年1月号に掲載されたものです

 

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