実銃

2024/07/11

スプリングフィールド究極のコスパ9mmキャリーガン「SPRINGFIELD ARMORY XD-S Mod.2 OSP」【前編】

 

SPRINGFIELD ARMORY

XD-S Mod.2 OSP

 

 

 シングルスタックでスリム、そして余分なでっぱりを極力排したスムースなボディ、さらにダットサイトもセットという究極の9mmキャリーガンを手に入れた。それがXD-S Mod.2 OSPだ。載っているダットサイトはクリムゾントレースの安価なものだが、実に狙いやすい。時代はどんどん進んでいる。

 

 


スプリングフィールド再び

 

 狙ったわけではないのだが、先月のRONINに続いて今月もスプリングフィールドの銃がネタだ。ポリマー9mmオートのXD-S である。


 たまに行く大型スポーツ量販店のウェブサイトでセール中の表示を発見。549ドルから100ドル引きのプロモーション価格に加え、同店発行のクレジットカードを申請し支払えばさらに50ドル引きの計150ドルもお得という買わせたいベクトル全開の商魂の逞しさに、自分はまんまと乗っかった次第だ。

 

 

 おっといけない、初っ端から下世話な話になってしまった。
 スプリングフィールドのXDには、自分はイマイチご縁が薄い。知り合いから借りたり、射場のレンタル銃を試射したりのニアミスはあれど、リポートの機会は皆無。購入も今回が初だ。


 一挺くらいは揃えなきゃと思ってはいた。しかし、バリエーションが豊富過ぎて、もうどれが良いやらで流し続けていたのだった。

 

スプリングフィールドアーモリーのXD-Sだ。最新版のMod.2 OSPだ。コンパクトなボディに、​​​​​オプティカルサイト対応のイマドキのスタイルが小粋でカッコイイ。コレはいけそうです

 

 XD(Xtream Duty)の登場は2002年だ。
 ご存じのように、クロアチアのI.M.Metal(2001年にHS Produktへ社名変更)が99年に開発したポリマー銃HS2000がその元ネタである。

 

 I.M.Metalは、91年にPHPピストル、95年にはHS95を出したメーカーだ。PHPはベレッタとP38を足して割ったようなスタイルの9mm DAオート。旧Gun誌97年11月号に床井さんの記事が載っている。自分はイリノイ在住時代、ウイスコンシンおよびイリノイのガンショーで実物を観た。激レアと言われつつも、クロアチアから放出されたサープラス物がボチボチ出回っていたのだ。価格は確か400ドル前後。ガンショー日記にも書いたと思う。今思えば買っときゃよかった。

 

スリムなスライドのせいで、ずいぶん面長なマズル風景。ライフリングは6条右回り、クラウンはすり鉢型だ

 

 スライドにPW Arms(外国銃輸入業者)辺りの刻印があったように記憶する。HS95に関しては、これまた床井さんが旧Gun誌99年5月号でリポート。徹頭徹尾SIGの海賊版のような、低品質な様子ばかりが印象に残る。

 

 そんなI.M.Metal が、グロックを大いに参考にしつつポリマー銃に挑戦。トリガーを素直なシングルアクションとし、安全面(グリップセイフティの追加)と丈夫さ(バレルもスライドもロッキングブロックも太い)と握りやすさ(グリップアングルが緩い)と利便性(コッキングインジケーター等)を追求して生まれたのがHS2000だった。

 

バレルは4インチ。他に3.3インチのバージョンもある。仕上げはMelonite ferritic nitrocarburized finish(メロナイト フェリティック ナイトロカーバライズド フィニッシュ)。なんだかよくわからないが、メロナイトと呼ばれるフェライト系窒化炭化処理らしい。サビや擦れに強いとのこと。先端から3cm弱ほどの範囲に、スライドとのタイトなフィットを狙った僅かな膨らみを設けてある

 

 米国へは2000年頃にIntrac社が輸出しHS.America LLCがディストリビュートする形でデヴュー。知名度ゼロながら専門筋には好意的に受け止められ(旧Gun誌2000年10月号でタークさんが称賛していたのはさすが)、また本国クロアチアでは軍および警察に採用されるほどのその実力に早速スプリングフィールド社が着目。

 

 米国向けの販売ライセンスを取得し、XDの名で国内市場へ売り出したという流れである。スプリングフィールドにとっては、研究開発費をセーブしつつ積年の願いであったポリマー銃の穴埋めができ、他方HS Produkt側はスプリングフィールドの知名度を生かした販売が見込めるという両社ウインウインの関係だった。

 

フラットなトップ。OSPモデルでは旧来のローディードチェンバーインジケーターは省略され、代わりにチェンバーのフードに残弾確認用の切り欠きを入れた


 実際、XDは価格が比較的安かったのもあって順調に売れ、各種口径の追加やらグレードアップモデルのXD-M(2007年)等々、徐々にバリエーションを展開。そして2012年に、シングルスタックのXD-S(Sは"single-stack."の頭文字)が登場する。コレはコンシィール市場を狙った小型軽量モデルで、バレル長は3.3インチ、口径は9mm と45A CPを用意。後に4インチのXD-S 4.0も追加された。 

 


XD-S Mod.2

 

 XD-Sは、薄さとコンパクトさを徹底すべく、単なるXDの縮小版の枠を超えて各所がドラスティックに変化していた。


 例えば、スライドを薄くするためXDでは内装式だったエキストラクターを露出式に変更。スライド後面のコッキングインジケーターもあっさり省略した。またトリガーも大幅に改修し、XDではストライカーのコックによるトリガーの位置変化が無かったのが、XD-Sではグロックのように明らかにポジションが変化する、といったようにだ。かなり思い切った野心作に仕上がっていたことは確か。


 ところが、発表直後の2013年8月にリコールが掛かってしまう。チェンバーへのローディング時の暴発(いわゆるスラムファイア)と発射時のダブルファイアの症状が報告されたのだった。改修版がすぐに出たものの、相当に評判を落としてしまった。

 

白点入りのフロントサイト。クイックエイムを意識し、ブレードの幅は3.8mmと厚め。

 

リアサイトは“Tactical Rack”。机の角等に押し付けて、片手でのスライドの操作が可能だ。ブレード面にはセレーションも入る。ノッチはU字型だ

 

 その5年後の2018年、更なる改良を加えたXD-S Mod.2が完成。旧XD-Sとの違いは、

 ①グリップのブロックタイプの滑り止めをテクスチャータイプに変更。3種の異なったテクスチャーを織り交ぜることで確かなグリッピングを実現し、且つコンシールする上での不快感の軽減を図った。なお交換式のバックストラップは廃止。


 ②コンシールに不向きなブロッキーな二段重ねスライドの角も部分的に落とした。


 ③グリップセイフティにメモリーバンプを追加。切れを良くした。

 

機関部の様子。スライドの仕上げはバレルと同じMeloniteだ。スライドキャッチやテイクダウンレバーはコンシール性を重視した極々薄い作り。元祖XD時代からの伝統であるアンビのマグキャッチも健在だ

 

 ④サイトもアップグレード。フロントはAmeriGlo Pro-Glo Tritiumなど選択の幅が広がり、リアは旧XD-S ではノバック風だったものが、ワンハンドでのスライド操作が可能な“Tactical Rack”サイトを新たに採用。


 ⑤エキストラクターも短くなり、旧XD-Sの割ピン止めから後部で止めるプランジャー式に変更。

 

エジェクションポート。コレがショートリコイルのロッキングを兼ねる。エキストラクターはプランジャー式だ。弾が装填されると僅かに浮くが、インジケーターとしては分かりづらい


 ⑥トリガーにも改良を加えてリセットをショートにした。また細かい部分では、スライドのハウジング部に内蔵したストライカーブロックなども改良。


 ⑦9mmモデルでは、旧XD-Sに比べてバレルも細く軽量化した。コンシィール用の小型銃は9mmに流れる傾向が強く、それに特化した措置だ。旧XD-Sは45ACPの大口径に引きずられた傾向が強かった。

 

同社のRONINと。先月号でご紹介した45口径の1911クローンだ。レトロっぽい白黒ツートン仕上げにミニマムのカスタムパーツを散りばめた、控えめなテイストが絶妙。ポリマー銃に疲れたら、全鉄製の古風なオートに安らぎを求める。スプリングフィールドならそれが可能だ

 

 といった具合に、ずいぶん多岐に渡った。旧XD-Sに比べると、Mod.2は一皮むけてスッキリ垢抜けた印象だった。

 そんなXD-S Mod.2のスライドのトップへ、昨今流行のオプティカルサイトを直付け出来る加工を施したモデルが、今回ご覧のOSP(Optical-Sight Pistol)だ。

 

Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年6月号に掲載されたものです

 

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