実銃

2024/05/11

【実銃】「DETONICS COMBAT MASTER Mk VI」と「SA V10 Ultra Compact」【中編】

 

DETONICS

COMBAT MASTER Mk VI

feat. Springfield Armory V10 Ultra Compact

 

 

 1970年代、コンシールドキャリーガンといえばスナブノーズドリボルバーという時代に、画期的な大口径サブコンパクト1911が産声を上げた。

 デトニクス コンバットマスター。3.5インチブッシングレスコーンドバレル、マルチスプリングリコイルシステム、さらにはステンレススティールフレーム/スライドという現代ではスタンダードな仕様を、世界で初めて採用した先進のサブコンパクトピストルだ。

 

前編はこちら


 

コンバットマスターの通常分解。3種類のスプリングを使ったリコイルシステムがファンクションのキモだ

 

 いくつかのパテントも取得しているが、コンバットマスターの優れた要素には次のようなものがある。

 

  • 世界最小の.45ACP口径1911ピストル
  • まともにファンクションする初めてのステンレス製セミオートピストル
  • 当時のセミオートピストルの中でも工作精度が高く、フィーディングランプも鏡面まで研磨してあることもあり、精度、信頼性ともに優れている
  • 画期的ともいえるブッシングレス、コーンバレルデザイン
  • トリプル(一時的に2スプリングになった時期もあったが)スプリングによる、優れたリコイルスプリングシステム
  • 全長を短くできるグリップセイフティレスデザイン
  • エジェクションポートは、後方下方共に大きくカットしてあり、スムーズな排莢を実現している
  • マガジンウェルは削り込まれ、マガジンがインサートしやすくなっている

 

通常分解比較。V10のリコイルスプリングは1本だ。これは結構頻繁に交換する必要がある

 

 手を入れないとまともにファンクションしてくれなかった当時の1911からすると、ほぼカスタムガン並みの仕様ともいえる。こんな1911が1970年代に存在したという事実に驚きを覚えてしまう。だが見方を変えれば早すぎた登場といえるかもしれない。
 以下に、当時のモデル仕様と価格を列記しておく。

 

  • MkⅠ:カーボンスティール ブルー仕上げ フィクストサイト $360.00
  • MkⅡ:サテンニッケル仕上げ $390.00
  • MkⅢ:ハードクローム仕上げ $488.00
  • MkⅣ:ミラーフィニッシュ ブルー仕上げ $499.00
  • MkⅤ:ブラッシュド ステンレス $498.00($626.00 in 1983)
  • MkⅥ:ポリッシュド ステンレススライド アジャスタブルリア $575.00($635.00 in 1983)

 

 当時のコルト純正ガバメントは大体300ドルくらいだったので、約20~60%増しの価格帯ということになる。感覚的には、当時の400ドルが現在の千ドル強に値するのではないだろうか。

 

マガジン比較。左のデトニクス社製は6発装填すると、ボトムからマガジンフォロワーのボトム部分が少し露出する。これによってその部分を指で触るだけでフル装填かがわかる


 スライド、フレーム、バレル、ハンマー、リコイルシステム、グリップセイフティ、グリップパネルといったところが独自のパーツで、スライドストップ、サムセイフティ、マガジンリリース、トリガー、シア、ディスコネクターといったパーツは、1911と互換性がある。

 またマガジンは、コルト用なども使用できるが、オリジナルマガジンは6発ロードするとマガジンベースからフォロアーの後端部分が突き出る仕様になっているため、フルロードしてあるマガジンを容易に認識することができる。

 

グリップ&マガジンの厚み比較。V10の方が長く分厚いが、指のおさまりがよく、握り易い。装弾数は左が6発、右が10発となる


 こうした優れた意匠を持ってリリースされたコンバットマスターだが、マーケット的に大成功かというと、やはりその需要は限定的だったようだ。当初“Detonics(.45 Associatesの刻印が入る個体もある)Seattle, Washington”と刻印されていたコンバットマスターも、途中で社名が変わり“New Detonics Belleview, WA”となる。

 

 その後、1987年にはアリゾナ州の投資グループに買われて移転、しかしこの会社は長続きせず1992年には倒産してしまう。しばらく宙に浮いていたデトニクス社は、2004年に別の投資家グループに買われ再登場してジョージア州に移転し、現代版コンバットマスターをリリースしたが、これも数年後には消滅してしまった。

 

Springfield Armory V10 Ultra Compact & Detonics Combat Master MkVI

 

 ワシントン州にデトニクス社が存在した1976年から1987年の間に、資料上では2万挺以上の1911が生産されたことになっている。中には新口径である“.451Detonics Magnum”(ケースを.050インチ長くしてより多くのパウダーを入れられるようにし、185grの弾頭を1,300fpsで飛ばす)弾を使用する“スコアマスター”というモデルも存在した。

 

 これら1911史上稀有な存在であるデトニクス社の各モデルには注目していきたいところだ。個人的には5インチフルサイズの“スコアマスター”モデルに憧れていた時期があったので、絶対数は少ないが何とか手に入れたいと考えている。

 


 

SA(Springfield Armory) V10 Ultra Compact


 今回ゲストとして登場願うのは、すでに製造中止になって久しいスプリングフィールドアーモリーV10ウルトラコンパクトモデルのダブルカラアム仕様だ。

 このモデルは少々変わっていて、同じV10 ウルトラコンパクトという名称にシングル(6 or 7発)カラアムとダブルカラアム(10発)マガジンの2モデルが存在する。


 たまたま友人がこのダブルカラアムモデルを所有していたので、コンバットマスターと同じ3.5インチバレル.45口径サブコンパクト枠としてゲスト出演してもらうことになった。

 

Springfield Armory V10 Ultra Compact
全長:152.4mm
全高:127mm
銃身長:3-1/2”(88.9mm)
重量:992g
使用弾:.45ACP
装弾数:10+1

 

 V10モデルの大きな特徴は、バレルのもはやチェンバーの直後ともいえる場所からあけられた左右5個ずつのポートの存在であろう。撃発すると、ここから盛大な発射炎/ガスを噴出し、その勢いでマズルライズを抑え込もうというコンセプトの小さな巨人である。

 

バレルのロッキングラグのすぐ前からポートが始まっている。マズルライズを抑える効果はあるが、音が大きくなる、火薬カスや金属片が飛んでくるという弱点があり、キャリーガンには向いていない

 

この10個のポートから発射炎と火薬カスなどが噴き出てくる

 

 あとは、コンバットマスターと同じ3.5インチバレルのサブコンパクトでありながら、10発もの装弾数を持っているという大きなポイントもある。このスティール製ワイドフレームは、パラオードナンス(Para Ordnance/後のPara USA)社のP-10とよく似ており、マガジンにも互換性がある。この2モデルの関連性は不明だが、このオールスティールフレームはいくつかの会社で採用されているため、細部にはデザインの違いがある。

 

左が付属してきたSA社製マガジン。右はPara Ordnance(パラオードナンス)社製P-10用マガジンだ。問題なく使えた

 

この大型のグリップセイフティが、握り心地をグッと向上させている

 

 リコイルをトリプルスプリングシステムで抑え込んでいるとされるコンバットマスターとの比較は面白いことになりそうだ。

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年5月号に掲載されたものです

 

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