実銃

2024/01/06

【実銃】カスタムSAIGA-12の実射性能&タラン・バトラーによるSAIGA-12カスタム【Part4】

 

SAIGA-12 Custom

 

 

 カラシニコフライフルをベースにしたセミオートマチックショットガンSAIGA は、AR 系ショットガンより大幅にスリムで軽量という魅力がある。確実な作動を実現させるには、手を加える必要があるが、それに成功すれば最高のパフォーマンスを発揮する。SAIGA は高いポテンシャルを秘めているのだ。

 

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実射

 

今回のテスト弾(全て2-3/4装弾、銃口初速/エネルギーの順)。左から
①ウィンチェスターXTRA - LITE 8(1,094fps/1,162f t- lbs)、
②Federalターゲットロード(1,067fps/1,244ftlbs)、
③ウィンチェスタースーパーX 00バック(1,015fps/1,107ft-lbs)、
④フィオッキ1オンススラグ(1,045fps/1,061ft-lbs)。

 

テストの3種類の装弾では00バックしか作動しなかったが、マズルブレイクの効果で想像よりも撃ちやすい

 

マガジンの挿入。AKと同じく前方の爪の部分を先に入れて回転させて挿入する

 

組み上げたガンスミスによれば、マズルブレイクが効き過ぎたのでガスポートを広げて調整を行ない、試射ではターゲットロードでも作動したとの事だった。しかしOOバック以外の装弾はスタンダード設定でもボルトの後退力が弱く全く作動しなかった


 AKタイプのセミオートショットガンの人気は高く、現在KS-12に限らず選択肢が多く存在する。SAIGA-12と双璧をなすのが、同じくロシア製のMolot Oruzhie社が製造するVERP-12で、初期生産はイズマッシュが行なったとされる。

 他にはSDSインポーツのLYNX-12、JTSグループのM12AK、インターオードナンスKral XP、シタデルRSS1など結構色々あり、それだけAKプラットフォームは人気があると言える。

 

マズルブレイクから噴射する発射ガスはかなりのもので効果は確かに感じる

 

フォアエンドの保持が不十分で、ネジ穴部分から千切れてしまった。この取り付け方法には無理があった。フォアエンドはマズルブレイクのところでぶつかって止まるので抜け落ちる事はない


 今回テストしたSAIGA-12はカリフォリニア州のブレットボタンを禁止するアサルトウエポン規制が開始される前に所有者に返却するためにガンスミスが短時間で作業したため、調整が十分とは言えない状態で、00バック以外の装弾では作動せず、さらにマグプルのフォアエンドの取り付けも不十分で反動で外れてしまった。

 

1ガロン(約3.8L)ボトルをそれぞれの装弾で撃つ。これは②のターゲットロード

 

大柄なイメージが強く、敬遠されがちなボックスマガジン式セミオートショットガンが多い中、AKスタイルのスリムさをほぼそのままで維持して撃てるSAIGA-12の魅力は大きい。

 

④の1発弾のスラグ

 

スラグで2Lのソーダボトルを撃ったところ

 

00バック(手前)が最も破壊力を見せた。水の飛び散り方はターゲットロード(左上)の方がやや派手だったが、スラグ(右上)の方が破壊力は大きく感じる


 大柄なイメージが強く、敬遠されがちなボックスマガジン式セミオートショットガンが多い中、AKスタイルのスリムさをほぼそのままで維持して撃てるSAIGA-12の魅力は大きい。


 身近なところにSAIGA-12のヘビーユーザーがいた。3ガンマッチの覇者タラン・バトラーだ。しかし聞いたところ歴代のトロフィーを勝ち取ったSAIGA-12は現在カスタマイズ中で、そのまま映画撮影で使用するので今回の記事には間に合わないだろう‥と思われていたが、実射撮影には間に合ったので今回併せて紹介したい。

 

今回のカスタムSAIGA-12はチョークは組み込まれていないスムースボアでターゲットロードを7mから撃つとこのくらい拡散する

 

15mではこの程度

 

25mではここまで散らばる


 タランはナショナルズで初めてボックスマガジンのセミオートショットガンをオープン部門で使用して注目され、2012年のマルチガンナショナルズでは優勝を飾った。このことがSAIGAやVERPユーザーを増やす切っ掛けにもなった。


 しかし、この優勝時もジャムで20秒のタイムロス(それでも優勝はすごい!)があったため、数人のガンスミスの手で改良を重ねてきた (これまでこのSAIGAに費やした総額は多分1万5000ドル以上になるとか)。

 

タラン・バトラーが3Gunマッチで使用してたSAIGA-12が度重なるカスタマイズを終えタイミングよく戻ってきたので実射撮影に参加。映画『エクスペンダブルズ』のキービジュアルでテリー・クルーズが持っているのはこのタランの私物で、関係者に貸したら、いつの間にか撮影で使われていたとか(笑)。
その後何度かの改良が行なわれて、ジェイミー・フォックス主演のNetflixのヴァンパイアコメディー映画『Day Shift』の撮影で使用されたという。アダプターでAR系のBCMガンファイターストックを装着。軽量化の効果で5連マガジン付きでの全体重量は約3.9kgと僅かに軽い。ドットサイトはトリジコンSROより良いとタランが評価するSIG Romio3XL

 

 

ダストカバーをカットし左側面にもチャージングハンドルを追加。17-4ステンレス製スタッドをボルトキャリアに挿入、ノブ部分は6160アルミ製で、構えたままでも操作がしやすい


 かなり前に半分解状態のSAIGAを前に試行錯誤するタランの姿を見たことがある。SAIGAの可能性を信じて捨てきれなかったのだ。そこで現在競技でSAIGAユーザーから多くの信頼を得ているテキサスのディジデントアームズ(Dissident Arms)が全面改修を担当し、素晴らしい信頼性をまとって戻ってきたのだ。

 

M-LOKを持つアルミ製で198gの軽量フォアエンド。掴む部分はシリコンカーバイド処理で滑りにくい。マズルブレイクはピンどめ溶接され、ちょうどショットガンの最低銃身長18インチの長さで固定されている。取り回しを優先し、無駄な全長の増加を抑えている

 

AKタイプのセイフティ操作を圧倒的に容易にするレースセイフティエクステンション。オンにしやすいだけでなく握り込むと人差し指の付け根が自然にレバーを押し上げる形になりスムーズに解除する事ができる。グリップはHOGUE製。刻印からこれはEAAとの契約が切れた2005年以降にロシアンアメリカンアーモリーが輸入したモデルだ。ボルトの隙間を覆うカバーも撤去された


 ベネリにはないSAIGAの利点を聞くと、やはりボックスマガジンの装弾数に加えて、リロードが簡単かつ敏速にできる事だという(タクティカルオプティックス部門ではボックスマガジン装弾式ショットガンは使用できず、あくまでオープン部門用になる)。

 ただマガジンが大きく突き出すのでトランジション(銃の切り替え)の際にバケツに入れる時にやや突っかかりやすい事が難点だそうだ。

 

本来SAIGA12には組み込めないALGディフェンスのシングルステージトリガーを加工して取り付けてJTE パフォーマンスパワーハンマースプリングを導入、トリガープルは僅か573gまで軽量化されリセットも短縮されている

 

 

VERP-12用マガジン(SGMタクティカルの12連にDA+3エクステンションを装着し15連にしたもの)を使用。こちらでは前方の爪はなくそのまま真っ直ぐに挿入できるのでリロードが圧倒的にしやすい


 飛び入り参加となったタランの新型カスタムSAIGA-12だが、これはハッキリ言って素晴らしいカスタムショットガンに生まれ変わっていた。トリガーもこれまでのAKとは一線を画する軽さと、ショートリセットで連射がとにかく容易で、より効果の高いマズルブレイクとの相性もバッチリだ。

 タランも自前のレンジのプレート倒しでタイムを計測したところベネリでも成し得なかった0.95秒を2度もマークし、記録を出したタラン本人も吃驚していた。

 

H(ハイ)とL(ロー)の2 段階切り替えのガスプラグ。ガスブロックにも手を加え、さらにガスポートを広げて1,200fpsの1-1/8オンス弾でも快調に作動するように徹底的なチューニングを行なっているという

 

SAIGA、VERP用に設計されたDAフィニックスワンコンペンセイター。こちらの方が反動抑制効果を感じられた。ガスの多くが上方に吹き出す


 AKの弱点だったセイフティやマガジンキャッチの操作性の悪さも克服しており、スリムで軽量なボックスマガジンのセミオートショットガンの魅力が引き立ってくる。ARタイプのショットガンもあるが、どれも大型だ。このタランのカスタムガンを撃てたことで、SAIGA-12の魅力とポテンシャルを堪能できた。

 それなりにカスタムにお金をかけた結果でもあるが、間違いなく欲しくなる魅力的なセミオートショットガンだと感じた。

 

マズルブレイクの効果。こちらの方が明らかに跳ね上がりが少なく、確かに撃ちやすい

 

ようやく完成したカスタムSAIGA-12を撃つタラン。ベネリの方が僅かに撃ちやすいが、ボックスマガジンの装弾数の多さが強みとなるステージでSAIGA-12は真価を発揮するという。
オープン部門で勝ちたいならSAIGA-12などボックスマガジンタイプしか選択肢がないということだ。ライバルのVERP-12も良いが、切削加工レシーバーは重く、強度は高いといってもSAIGAでも全く問題ないので特別な利点でもないという意見だ


 SAIGA-12は軍用としては大きな採用には至っていないが、ヨーロッパやアメリカ国内の一部の法執行機関でも運用していると聞く。そしてカスタマイズによるポテンシャルが高く、競技の世界では様々なスポーティなカスタムSAIGA-12を見ることができる。
 イズマッシュ製は輸入禁止のあおりで価格も高騰している。現在の国内製クローンモデル達も優秀だと聞くが、やはりオリジナルのSAIGA-12を手にしたいものだ。

 

 

Photo&Text:Gun Professionals LA支局

 

 この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年10月号に掲載されたものです

 

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