実銃

2024/01/05

【実銃】SAIGA-12アメリカへ輸入の歴史&元となったAKと内部機構の違い【Part3】

 

SAIGA-12 Custom

 

 

 カラシニコフライフルをベースにしたセミオートマチックショットガンSAIGA は、AR 系ショットガンより大幅にスリムで軽量という魅力がある。確実な作動を実現させるには、手を加える必要があるが、それに成功すれば最高のパフォーマンスを発揮する。SAIGA は高いポテンシャルを秘めているのだ。

 

Part1はこちら

Part2はこちら

 

 

AKスポーター


 冷戦終結後、各国のAKシリーズはセミオートの市販ライフルとして西側諸国で好調に売れた。大きな理由に為替レートの関係で元共産圏の国々からの輸入品がかなり安価に購入できたためだ。最も安かった中国製ノリンコで、当時200ドルを切り、削り出しレシーバーで高価だったブルガリア製でも500ドル程度だった。

 

通常分解の手順。上面にあるリリースラッチボタンを解除しながらリコイルスプリングガイドのラッチを押し込む

 

レシーバーカバーを取り外す

 

 

リコイルスプリングとガイドを取り外す


 一口にAKと言っても仕上げや加工法など細かな違いがあり、ロシアが生産協力をしたエジプトのMaddiは加工法など細部までオリジナルに最も近いとも言われたが、筆者はきれいな仕上げの市販品を見たことはなかった。

 

ボルトキャリアを取り外す。

 

ボルトを取り外す。通常のAKと同じ流れだ


 旧共産圏は自由化により貿易ビジネスが活気づいていく。ロシアの工業都市であるイジェフスクにあるイズマッシュは、ロシア軍にAKシリーズを供給しつつ、西側諸国にも盛んに輸出した。

 しかしアメリカへの輸出には障害があった。ソビエト連邦時代の器関連の貿易制裁によって輸出が禁じられていたからだ。ただこれも1997年11月に米ロが会談し、翌年には1998 VoluntaryRestraint Agreementが締結し、一部の市販向け銃器に関しては制約を解除するという貿易協定が交わされた。

 

基本構造は全く同じだ。AKは元々ボルト後退ストロークが長く、ショットシェルをエジェクトさせるのにも充分であった

 

レシーバーカバーの比較。形状の違いからSAIGA-12のエジェクションポートがかなり大きいのが解る

 

 この頃クリントン政権は、89年規制以降に輸入された軍用ライフルベースのスポーターを再検証し、ハイキャパシティマガジンが挿入可能なモデルなどを改めて輸入禁止にした。イズマッシュは意図的にSAIGAのマガジンの寸法をAKと僅かに変更する事で互換性ををなくし、この問題をクリアしてようやくアメリカにも輸出が実現した。

 

ボルトとボルトキャリアの比較

 

ガスピストンの比較。発射弾のバレル内圧力の違いからSAIGA-12ではよりチェンバーに近い位置からガスを導きガスパックを挟むのでピストンも短い


 そしてイズマッシュはショットガン化したSAIGAシリーズも開発した。特にロシア国内ではスムースボアの銃の所持許可を得るのは容易で、より販売がしやすい事情もあったからだ。

 AKレシーバーの寸法を殆ど変えずに12ゲージまでに対応した設計で回転式ボルトのガス作動方式は継承しつつも、ショットガン化に際して、ガス流量調整機能やボルトの再設計を含めて、これまでにない大幅な内部メカの変更を行なった。.410と20ゲージ、12ゲージのすべてでボックスマガジンが使用できる。

 

ボルトの比較。回転式ボルトの基本動作は変わらないが、SAIGA-12ではショットシェルの大きさに準じてボルト自体もかなり大型化している。そしてボルトの前後が二分割されていて(.410モデルのみ固定式)、ロッキングラグは後方のボルトに存在し、先端部のボルトヘッドは独立して可動するのでボルト回転中もエキストラクターの位置は変わらない

 

ボルトの回転運動の様子。弾がバレルから発射されてバレル内圧が安全なところまで下がるまで、ボルトとバレルの閉鎖を維持する。そのためボルトキャリアが後退し始めても即座にボルトは回転しない。ボルトキャリア内側の傾斜した溝に沿ってボルトは回転してロックを解除、ボルト前進時に再び回転してバレル後方のロッキングリセスと噛み合いロックする。ボルトヘッドは通常のAKのボルトより前方に位置している


 ショットガンバージョンのSAIGAは、狩猟用としてより販売網が広がっただけでなく、ロシア国内を含めて規制の緩やかな国や軍/警察用として軍用スタイルのタクティカルモデルなども製造され、欧米や中東の法執行機関でも運用されている。


 輸入規制のため、やはりアメリカに入ってくるのはハンティングモデルだが、やはりオリジナルスタイルに差し戻して所持したいAKファンが大半だ。そこで922rコンバージョンキットが登場、ライフル版の全てのパーツと互換性がある訳ではないが、そこはAKを得意とするカスタムAKビルダー達の腕の見せどころとなった。

 

 

SAIGA-12のボルトは、ショットシェルを保持するボルトヘッド部とロッキンラグを持つボルト部が独立して回転するため、ボルトが回転中でもエキストラクターを含めたボルト先端は回転しない。AK 系ショットガンのガンスミスによっては、この周辺パーツを念入りに研磨するサービスも行なっている


 ロシアのイズマッシュが製造するオリジナルAKは、本家本元、最高品質のAKという付加価値によりアメリカでもSAIGAファンは少なくない。ところがロシア政府がウクライナ情勢に介入、クリミア危機と呼ばれる状況に発展。政治的制裁として当時のオバマ大統領が署名し、2014年7月16日付で有効となった大統領令の中にはロシア製銃器の輸入禁止も含まれた。

 

射手から見て、右斜上方向にエキストラクターが備わり、レシーバー側に固定されているエジェクターを支点にひねられて排莢される

 

カートリッジを保持している状態の比較

 

 これが報じられると全米でロシア製AK系銃器の駆け込み購入騒ぎが勃発した。特に他国製コピーが少ないショットガンバージョンAKを購入しておかなければという焦りが大きくなった。しかし、2011年にフロリダ州に設立されAKスタイルの銃器を国内製造していたカラシニコフUSAが、この制裁を受けた翌年にSAIGAのクローンを含めたモデルを製造すると発表した。

 

SAIGA-12のガスシリンダー前面のねじ込み式ガスプラグには1と2の2つのガス導入量の設定が選べる。斜め下のロック用のガスレギューレターディテントを押し込みながら回転させるもので、1がガス量を限定させた圧力の高いマグナムロード、スラグ、バックショット向けだ。2はフルガス設定で一般的なターゲットロード、バードショットでの設定になる

 

内部にバレルからシリンダーにガスを流し込むガスポートが確認できる。今回のカスタム化を行ったガンスミスがテスト射撃したところ大型マズルブレイクが効き過ぎて作動が不安定だったのでガスポートを若干拡張したとのこと

 

 この会社自体はイズマッシュから独占的にアメリカにAK系製品を輸入していたRWC(ロシアンウエポンズカンパニー)の小会社であるが、イズマッシュとは資金面での繋がりはない。同社は2020年のSHOT SHOWで全パーツ100%アメリカ国内製でAK-103を製造したKR-103を発表して話題になっている。

 

2のポジションでは裏面の傾斜している部分が下を向き、そこが丁度ガスポート直上に来るのでより多くのガスをピストン方向に導ける。高圧な弾を使用する1の設定ではその傾斜部分とは反対側が来るのでガスの流量が減る。カスタムパーツ会社がより細かな設定が可能なガスレギュレーターを販売し、CSSパフォーマンス製では6段階に変更可能で、回転角により3インチシェル、強装な2-3/4装弾、同ヘビーバックショット、ハイブラスなハンティングロード、一般的な装弾に対応する。余談だがガスポートを完全に塞ぎセミオート機能を取り除いて手動操作式にする事で現在のカリフォルニア州でも合法的に所持できるようにするガスポートプラグも存在する

 

ピストンは発射ガスに直接押される訳ではなく、シリンダー内ではガスピストンパック越しに後退させられるのでピストン先端部はさほど汚れない。その意味ではショートストロークピストンだともいえる


 心配されていたAKタイプのショットガンであったが、KS-12というモデル名でかなり近いモデルが入手できるようになり、そんなに焦って購入しなくても良かった‥という声もある一方、やっぱりイズマッシュ製造モデルに価値があるとする人もいて、感じ方は様々だ。

 

レシーバーの比較。従来サイズのレシーバーを踏襲しつつショットガンに設計を改めているため、80年代設計されたイタリアのフランキ社SPAS-15など過去のボックスマガジン式セミオートコンバットショットガンにありがちな極端に大型で取り回しが悪いといった問題が少ない

 

 2013年8月にイズマッシュとイジェフスク機械製造工場がカラシニコフコンサーン(Kalashnikov Concern)として合併、同社はアメリカという一大市場は失ったが、その後も輸出は好調で2017年だけでも10万挺以上ものAKシリーズを輸出したと公表している。

 

 アメリカ国内メーカーもSAIGA-12をフルオートに改造したり、カスタムパーツ、加工サービスの提供を行ない、ロシア製の輸入は途絶えたものの、SAIGA-12は国内でまだまだ盛り上がっている。
 

トリガーメカニズムは基本的にAKシリーズそのものだが、MAK-90はオリジナルのダブルフック方式のハンマー/トリガーで、SAIGA-12はAKM以降、簡素化されたシングルフック方式だ。両者ともに充分な耐久性があり優劣はない。セイフティレバーを上げてオンにするとトリガーの動きをブロックする

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Gun Professionals LA支局

 

 この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年10月号に掲載されたものです

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×