2024/01/21
【実銃】ワルサーの英知が結集したダブルアクションオートの名銃「WALTHER PP」【後編】
ワルサーの英知が結集したDAオートの始祖
WALTHER PP
ワルサー ポリッツァイ・ピストーレ(PP)が登場したのは1929年だ。実に92年前!もはや立派なヴィンテージピストルとなっている。
しかし、PPK、PPK/Sの影に隠れて、PPはイマイチ影が薄いのも事実だ。この銃が持つ渋い魅力に気が付くには、ある程度年齢を重ねていく必要があるのかもしれない。そんなPPにやっとたどり着いた。
インターアームズPP
そんなワケで、やっとこまともなPPをゲットだ。喜ばしい。購入後、付属する二本のマガジンの内の一本にPPK/Sの刻印を見付けて幾分ガッカリしたけどね。口径の表示は7.62mmなのでまあ許す。
オリジナルのマガジンはレア化が進んでおり、単体だと100ドルじゃ利かない。それを思うと、ちょっと惜しいけどさ。
じっくり眺めれば、流線型ですっきりスマート。長スライドが余裕ある雰囲気。落ち着いた大人の中型拳銃といった風情だ。『ドクター・ノオ』では、恐らく画面映りを考えて、やや大きめの見栄えするPPを持ってきたのだろう。この流麗な物腰が、野性味溢れるコネリーにピッタリ似合っていた。
また共演のジャック・ロード(米国CIA局員フィリックス・ライター役)も同じくPPを使用。「CIAの標準装備だ」のセリフがこれ見よがし且つ粋だった。
スライド右側面にインターアームズのロゴが大きく入る。このド派手な刻印は、ウエスタンアームズの影響で大好きの筆者。聞けば、戦後のワルサー復興の裏で暗躍したのがこのインターアームズらしい。
PPおよびPPKの米国への輸入は、当初はサンフランシスコのThalson Co社が53年ごろから開始。当時はワルサー復活前でマニューリン製だったわけだが、それが56年ごろにインターアームズ(当時はInterarm-coの名称)がExclusiveを獲得すると、マニューリン社にスライドのマニューリン印を消してワルサーバナーを入れるよう指示(Made in FranceのMarkⅡモデル)。コレが当たってセールスが大幅にアップしたという。
ワルサーのブランド力に着目した辺り、頭がいい。
その後、ワルサーが再建してウルムに新工場を建てると、スライドにインターアームズロゴをデカデカ入れさせて輸入し、遂には米国内工場でのライセンス生産まで引っ張っていった。ワルサーとインターアームズは、まさに盟友と呼ぶにふさわしい間柄だった。
おっと、話を元に戻して、チェンバー部のプルーフマークの左に69の文字が見える。コレがプルーフされた年を示しており、同時に製造年と考えて差し支えないそうだ。当時の新品価格は96ドル。遠い昔のお話。薄く、角をサラッと落とした流線ボディには何とも言えない一体感がある。初期のイーグルマークが浮いた樹脂グリップもゴージャス且つ快適な握り心地。
リアサイトは戦後の台形シェイプだ。戦前のブレード型よりもビューにメリハリがあり、見た目もリッチ。スライドにはガタもなく、引いた感触にブレもなく、サムセイフティが助けになって引きやすい。PPシリーズは壊れる箇所がほぼ無いらしいが、強いて挙げるならこのサムセイフティの軸のブリッジ部、ハンマーの衝撃をもろに受ける箇所は長年酷使するとヒビ割れ等がくるそうだ。
ただ、あくまでも酷使が前提。それほどにスキのない、軍用に持ってこいの堅牢な作りを誇る。
一つ自分が苦手なのは、分解法だ。コレは過去に何度も書いている。トリガーガードを分解ラッチとする構造はクレバーそのものではある。しかし、分解中にトリガーガードがうっかり戻らないよう指で押さえる必要があるし、またスライドを抜く際にハウジングでチェンバーを擦ってしまう危険性もある。毎回ヒヤヒヤ、神経が磨り減るのだ。
それともう一つ。PPではよく言われることだが、昨今の銃に比べてDAのプルが悪い。正直言って、とても硬い。何しろ古い設計だから致し方ないけどね。自分としては、その分安全なんだと受け止め、DAの機能はあくまでもバックアップ的なものと捉えるようにしている。
以上。細かい注文は別として、基本、素晴らしい銃だ。濃くて深くてリッチなブルー仕上げもコッテリ酔わせてくれる。このスタイルに慣れちゃうと、松尾副編ではないがPPKが寸詰まりに見えてくるから不思議。立ち位置の違いで見方も変わってくるってもんだ。
それでは実射のその前に、PPに使えるクリムゾントレースのPPK/S用レーザーグリップ(LG-480)は、少し前に生産終了でレア化が進んでいる。 元々は300ドル前後だったのが、今じゃ新品箱入りなら倍のプレミア価格だ。自分は地方のガンショップ等で売れ残りがないか探しているけど全然出会わない。運良く見つけた人は、買っておいて絶対損はないと思いますよ。
PP実射編
では撃とう。
撮影時は2021年。コロナ過の弾不足で.32ACPなんて全く見つからない。備蓄しているPPU(セルビア製)のFMJ弾(71gr)を一箱だけ用意。これでダメなら、実射はスキップする覚悟で射場へ向かった。
先ずはマガジンの弾込めで少々不安がよぎる。トップの弾が微妙にお辞儀をするのだ。マガジンをトントンと叩いて弾列を整えようと試みるが、あんまし変化なし。予備のマガジンも同じ症状。う~ん、どうなんだろう。
その一方で、初弾のチェンバーへの装填は至極滑らかなんだよね。何の淀みもわだかまりも感じられない。お辞儀は悪い兆候じゃないのかな。
準備完了。
チェンバーホットを知らせるインジケーターに改めて感心しつつ、発射!
わあぁ~、イイ。とても軽くてあっけなくて淡泊な手応え。あっさり感が逆にテイスティ。.380と違い、.32口径はホントにまろやかで気負いなく撃てる。そして、調子がまた良いこと。まさに円熟の領域。弾のお辞儀は多分必然に違いない。トリガーも、SAで引く分には全然大丈夫。少々遊びは多いけど目くじら立てるほどじゃない。やはりDAは、不発とかの緊急時のみと考えたほうがよさそうな塩梅。
あと、コレまたPPシリーズではよく指摘される、スライドで親指の付け根を切るスライドカットはなぜか今回起きなかった。.380口径のPPK/Sでは嫌というほど切れたのにと思いつつ、よくよく手を見るとほんのり赤い線を確認。痛くはないし、血も出ていない。口径の違いが影響したのか。いずれにしても、昨今のPPKやらPPK/Sに観られるあの恥ずかしいテイルの延長は、自分は断固反対ですね。S&Wはホント、要らんことしてくれたよね。
あまりにも調子が良いので、実射は30発ほどで終了。ジャム等、一切なし。貴重な弾もセーブできた。90年以上の昔に、こんなにもプロポーションが美しく、しかもDAで作動も抜群のオートを設計してたなんて、ワルサーには尊敬以外ない。ああ、無理して買って良かったわ。
自分のPPシリーズのコレクションも、既に結構の数が集まっている。TPHも買ったし、一応、残すところ黒のPPK/Sで完了の運びとなった。
PPK/Sは、モデルガン時代にウエスタンアームズとマルシンの両方を購入。また、渡米直後に初めて触れた実銃も、実はPPK/Sだった。きっと近々、良いのが見つかる予感がする。その時のためにジャンク銃やらをせっせと処分し、金を貯めて愉しみに待つとしよう。
Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年11月号に掲載されたものです
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