実銃

2023/12/03

【実銃】AMTシリーズの中での唯一のブラックモデル「オンデューティー 9mm」【後編】

 

44オートマグだけがAMTじゃない

GUNS OF AMT

 

 

 今回のレポートではオートマグを設計したハリー・サンフォード氏が生みだしたサポーティングプレイヤー(脇役)たちを一挙公開する。地味かもしれないが……いや間違いなく地味だが、そんな脇役達は、噛めば噛むほど味わいがあるのだ。

 

中編はこちら

 

 

オンデューティ9mm


 AMT脇役軍団のラストを飾るのは、オンデューティだ。9mm口径の多弾数DA/SAオート、いわゆるワンダーナインの一種である。数あるAMT銃の中でも、コイツは異色の存在だ。何しろ色が黒。銀色じゃないのだ。20年ほどのAMTの歴史の中で、黒はマジでこの一挺だけ。

 

ラストはオンデューティ。9mm口径の多弾数DAオートだ。AMTらしからぬ掟破りの黒仕上げ。どうにも中途半端でダサい外観は、他のどのメーカーの9mmオートにも似ていない。データは、全長203mm、全高139mm、スライド幅27mm、フレーム幅26mm、グリップ幅33.3mm、バレル長117mm、バレル先端径 mm、装弾数15+1発、重量963gといったところ


 加えて、フレームの素材にアルミ合金を投入したのも初めてだし、DA/SAのトラディショナルなダブルアクションも初めてだし、多弾数のマガジンも初めてという異例尽くしのモデルでもある。

 

 登場は1991年。先行で.40S&W口径のDAOモデルが出て、その一年後にご覧の9mm版が続いた。異例尽くしと書いたが、この銃の一番異例な点は、同社のそれまでの趣味銃的な要素を極力控え、当時のトレンドを取り入れてローエンフォースメント系に特化した形に作り上げたことだろう。名称のオンデューティがそれを物語っている。

 

機関部。恥ずかしいほど長いスライドキャッチレバー。オートマグⅢ似のトリガーガードの付け根にマグボタンが付く。トリガーの形は何となくRUGER似か

 

 外観は、S&WとRUGERを足してSIGで割ったような感じだ。要するに、イマイチ個性が薄い。握れば、アルミフレームとは思えないほど重く、全体にツルツルで厚ぼったい感触。スライドの側面に切削加工の削り跡が思いっきり残るなど、仕上げは随分粗い。


 特徴と言えば……う~ん、取り立てて見るべき箇所があまりない。作動はSIG風のショートリコイルでDAのメカもSIG風。マガジンはイタリアのMECGAR製で、ちゃっかりS&Wのモデル59用を流用。ボトムプレートだけ替えて体裁を整えてある。また前後サイトは白点三個ドットのダブテイル留めで、ココも至って普通。

 

エジェクションポートがバレルのロッキングを兼ねる。スライドのあちこちに加工時の削り跡が浮くのには閉口


 強いて特徴をと言うなら、フレーム左側後部のデコッキングレバーか。しかしこのレバー、動きが非常に硬く、作動後の跳ね返りで手が痛くてどうもダメ。位置は斬新に見えるが、動きが固いからその恩恵が少ない。なお、DAOモデルではデコッキングレバーの代わりにサムセイフティが付いていたが、アレのほうがよっぽど使い易くて良かったかも。

 

バレルはショートリコイルで思いっきり上へティルトする。ライフリングは6条左回り。ブッシングは無しだ。フロントサイトは白点入りのダブテイル留め。ベース部が薄くて頼りない


 その他、操作レバーの配置に合わせて、樹脂製のグリップの形状が複雑怪奇になっている点も特徴か。グリップはやはりシンプル形状が望ましいだろう。設計段階での煮詰めが全然なってない証拠と思う。

 あとはあとは……おっといけない、肝心な褒め部分を忘れていた。トリガーのアクションが良い。ダブルもシングルも意外なほどに滑らかで切れも爽快。RUGERよりもSIGよりも上だ。ココだけは感心。

 

デコッキングレバー。わざわざシルバー仕上げでアピールするも、動きも位置も悪くてちょっと残念。リアサイトは白点二個のダブテイル留めだ


 以上、総合的に見ると、どうにもドッチラケの銃だ。行儀よくまとめ上げようと腐心し過ぎて、弾ける要素が何もない。作動のほうも、以前の実射では時折ジャム。特にJHPの弾に弱い。デューティー用には難しいだろう。この手の多弾数DAオートなら他に幾らでも良いのがあった。また、会社の経営が安定してなかったのも、メンテナンスも含めて官給用としては使いにくい。


 ただそれでも自分は、発見時は相当興奮した記憶がある。AMTらしさが全然漂わず、面白くないところがかえって面白い感じで。購入価格は箱無しの予備マグ1個付きで399ドル。2012年の話だ。登場時の価格は470ドルほどだった。

 

RUGERのP89と。オンデューティと違い、こちらは一応Wisconsin State Patrol 等々、ぼちぼち採用実績がある。見るからにタフでストロングでデュラブル。しかしトリガープルの滑らかさは、オンデューティが勝つ


 しかしどうして、このモデルだけ黒だったのだろう。心境の変化か。白黒の両方を用意すれば選択もできたはずだ。サンフォードはすでに故人だから無理だが、彼の片腕だったラリー・グロスマン(Larry Grossman)はご存命だ。いつかお会いする機会があれば、その辺りの事情を是非伺ってみたい。

 


 

AMTエピローグ


 5挺のAMT銃を駆け足でご紹介した。改めて眺めれば、どれも個性的だ。中にはオンデューティのように個性を消して世間におもねたモデルもあるが、それも含めてそれぞれに作り手の情熱をヒシヒシと感じる。

 

5挺をサラッと撃った。バックアップ380はカチカチに固い手応え。鉛むき出し弾でもちゃんと動いてくれる


 今回の5挺以外に、同社の主役級である44オートマグやらハードボーラーの各種バリエーションおよび長物までを加えると、その数は膨大であり守備範囲も相当に広い。そういった事実を考え合わせると、AMTを率いたハリー・サンフォードは実際の知名度以上に偉大なガンデザイナーだったことは疑う余地がなかろう。

 とりわけ、会社が倒産やら身売りを繰り返す中でも最後まで果敢に挑戦し続けたのは偉かった(1996年没)。ジョン・ブラウニングとまではいかないにしても、ビル・ルガーとは同等かそれ以上だろう。

 

火を噴くバックアップ.38スーパー。リコイルはシャープでハード。この口径をコンパクトな銃で撃つのはかなりきつい


 AMT社はとにかく経営が安定せず、Irwindale Arms Inc (IAI)やらGalena Industries やらに権利が移った後、2001年以降はHigh Standard社がライセンス生産を続けていたが、ココも2018年に会社が消えた。現在、44オートマグに関してはサウスキャロライナの新オートマグ社が復刻に奔走。しかしそれ以外のモデルに関しては、復活の可能性はゼロに近いだろう。

 

オートマグⅡは撃つと大層面白い。火が大きいし、.22マグナム弾の長い薬莢が宙を舞う様は見応え充分


 しかし、だからこそ手元のAMT製品は大事にしたいし、できればハードボーラーくらいはまともなヤツを揃えたい。以前持っていたのは借り物なんだよね。どうせなら初期のMICROサイト付きがいいかな。
 44オートマグ以外は安価系だったAMT製品も、今じゃそのすべてで希少化が進んでいる。コレは一刻の猶予もならないぞ。それではこの辺で。

 

ライトニングは軽やかな手応え。ブルバレルのおかげでバランスも最高。調子も抜群だ

 

空カートを飛ばすオンデューティ。ごつくてボテボテの撃ち心地。ワンダーナインの悪い部分だけを固めて作ったような塩梅だ。トリガーの滑らかさ以外、褒める箇所が全然見当たりません

 

Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 

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