エアガン

2023/12/13

「Vz.61 スコーピオン短機関銃」サソリの名を持つチェコスロバキアの名銃【無可動実銃】

 

 

この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。
数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。
発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。
時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。
その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 

冷戦下に登場した東欧圏のPDW

 

 東西冷戦下の1958年、チェコスロバキア内務省内の秘密警察SNBは特殊治安活動用の多目的短機関銃を必要とした。
 当時すでにVz.24というトカレフ弾を使用する短機関銃があったが、SNBは任務の性質上より拳銃に近いサイズのものを求めた。依頼元が秘密警察であったため、二次被害を出しにくい.32ACP弾が採用されている。

 

Vz.61の本体構成はプレス鋼板のレシーバーに切削のフレームという、AKシリーズに似たオーソドックスな作りを採用。操作レバー類は極力低く設置されていて、携帯性を重視した設計なのが見て取れる

 

 .32ACP弾は当時のヨーロッパでは警察用拳銃弾薬として一般的なものであり、SNBが採用していた拳銃Vz.50の弾薬でもあった。1961年に完成し採用されたVz.61は当初のSNBでの使用のみとなる予定が、過酷なテストをパスしたことにより軍隊の車輌搭乗員や特殊部隊、通信兵といった一般兵にまで使用されるようになっている。

 

 また拳銃サイズの短機関銃であることは、テロリストが隠し持つにも最適で、多くのテロ事件でも使用され、AKと同様に悪名も付いてまわってしまった。しかし使い勝手の良さは群を抜いており、東側のPDWとして真っ先に思いつく名銃なのである。

 

 

 

Vz.61 スコーピオン短機関銃
(ブルー仕上げ)

  • 全長:270mm/520mm(ストック展開時)
  • 口径:7.65mm×17(.32ACP)
  • 装弾数:10/20発
  • 価格:¥121,000

 

 

重工業国チェコから来たサソリの名を冠されたSMG

 

 Vz.61といえば「スコーピオン」のニックネームが有名であろう。その名の由来はストックがサソリの尻尾のように上方に折り畳まれる姿からきている、というのが通説なのだが、実はVz.61の試作品であるM59の段階ですでにスコーピオンという名称は付いていたという話もある。

 

極限まで小型化された本体にストックを収納するスペースはなく、マズルを避けて収納されるようにデザインされている


 いずれにせよ小型で敵に見つかりづらく、近接戦闘では充分な戦闘力をもつVz.61に猛毒のサソリを冠した名はよく似合い、説得力もあった。Vz.61には作動機能面においても画期的なシステムが導入されている。それは高レートである発射速度を抑制し、命中精度を上げるレート・リデューサーである。

 

 この装置はボルトが後退すると後端部がフックに掛かり、連動するグリップ内に垂直に配置されたプランジャー・ユニット内のプランジャーをスプリングで上下させ、ボルトの前進を遅らせることにより、発射速度をコントロールする仕組みだ。ソ連のスチェッキン・マシンピストルなどにも採用されているレート・リデューサーであるが、Vz.61のものはマガジンのレイアウトに工夫を凝らし、より優れたものである。

 

真上に排莢するシステムは隣の人間に火傷をさせないメリットがある。この時期のチェコの軍用銃ではよく採用されていた


 Vz.61の開発時期にはベテランデザイナーは他のプロジェクトを抱えていたために、若手のデザイナーが中心となった。若手のリーダーとなったミロスラブ・リバーツは、Vz.61を完成させた以降も、大口径化などVz.61のさらなる改良に尽力したが1970年に46歳の若さで亡くなってしまい、自身が設計したVz.61が長く活躍したことを知ることはなかった。

 

 彼の死後、チェコが西側と関係を持つようになってからは東側陣営を飛び越えて西側でも人気を博した。Vz.61は現代においても民営化されたCZが再生産をするほど需要がある。

 

マガジンは本体にキツく固定されるのだが、それはマガジン自体をフォアグリップとして使用することを考慮したためである

 

 近年、スコーピオンの名はより大型のSMGサイズになったEVO3に引き継がれた。しかしスコーピオンの名前で真っ先に連想されるのはVz.61のほうであろう。それほど強烈なインパクトを与えたVz.61は小さな生き物の名ながらも大きな存在となって現在に至っている。

 

グリップは木製が採用された。セーフティを中心にセレクターを操作するのも当時のチェコ製軍用銃の標準的な配置だ

 

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TEXT:IRON SIGHT

 

この記事は月刊アームズマガジン2024年1月号に掲載されたものです。

 

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