実銃

2023/07/29

【実銃】SAAレプリカを販売し続けた「シマロン」――ウエスタンブームが始まる以前のオールドウエストな銃の魅力【中編】

 

CIMARRON

PISTOLERO .45LCTos

 

 

 オールドウエストガンには何故か惹かれるものがある。とりわけシングルアクションリボルバーはその筆頭だ。安全性を最大限に高めた現代のシングルアクションも機能的で素晴らしいが、4ポジションのクラシックハンマーはもっと魅力的だ。

 テキサスのシマロンは、低価格ながら押さえるべき部分はしっかり押さえたSAAレプリカ。147年前はSAAが最先端のファイティングリボルバーだった。この銃を手に、あの当時、これを手に戦った男達に想いを馳せてみたい。

 

前編はこちら

 


 

~ シマロン ~

 

ウベルティのSheriff s(シェリフズ)モデルと。バレル長が3インチと短く、エジェクターロッドを持たないウエスタン時代のスナブノーズだ。オールドモデルのためベースピンはネジ1本留め。ウベルティ製はクオリティが断然に高いが、ケースハードンの色合いはシマロンが勝つ


 シマロンは、オールドウエストなレプリカ銃を輸入販売している会社だ。創立は1984年。Mike LouHarveyという人物が、Allen Firearmsというレプリカガンの小さな輸入業者を買い取って始めた。未完成の銃をイタリアから輸入し、時代考証に合った独自のフィニッシュを施して売るのが商売の形。本拠地はテキサスにある。


 84年と言えば、カウボーイガンのブームがまだ起こってない頃だ。The Single Action Shooting Society(SASS)が創設されるのは3年後の87年の話。先見の明が有ったか。

 

細長く、如何にも華奢なルックスのトリガー。巨大なハンマーとのギャップが激しい。鋳造の丸いマークが浮くのはやや興覚めか。トリガーガードの幅は19.3mm


 創業当時@イタリアのレプリカ銃は基礎の作りも品質もイマイチなものが多かった。シマロンとしては、ベースガンの良し悪しは死活問題となる。そこでシマロンは、自社のコルトSAA 1stジェネレーション等を携えてイタリアへ乗り込み、古参のレプリカメーカーであるウベルティ(Uberti)社を訪ねて直接技術提携を結び、どこまでもオーセンティックなベースガン作りを目指した、というのは業界では有名なエピソードだ。

 

SAAっぽい、背の高いフロントサイト。厚みは2.5mmある。バレルとの接合が甘く、ややぐら付くのが玉にキズ。もしも、もげて落ちてしまったら、「俺は『シェーン』のピーメを真似たのさ」と、うそぶくつもり


 恐らくウベルティとしては、当初は迷惑千万な話だったろう。何しろウベルティはガルドーネに本拠を置く1959年創立のレプリカガン最大手。かつてのマカロニ・ウエスタン全盛期には多くの銃器を映画会社へ供給して盛り上げた自負もある。新製品作りとかならともかく、すでにコマーシャルベースに載った既製品に対して色々文句と注文を付けに来たのだから面白いワケがない。

 

 またコストの面で考えても、企業としてはやりたがらないのが普通。しかし、シマロンの情熱が勝ったのかそれともウベルティに理解があったのか、両社のコラボレーションは実を結んで共に発展する運びとなり、やがてカウボーイシューティングのブームが起って、以後大いにもてはやされることになった。

 

ガター式のリアサイト。ノッチはスクエアで極めて小さく、狙いにくい。オールドウエストの時代は、サイトを覗いてるヒマなどなかったのだ


 米国内には、シマロンの他にもイタリアから銃を輸入し、仕上げ直して売るメーカーは昔から幾らもある。Taylor's、Dixie Gun Works、USFA、Navy Arms、Stoeger等々、皆基本的な形態は一緒だ。しかしシマロンが違うのは、上記の直談判に加えて、ウベルティ本社に品質管理のスタッフを常駐させている点である。コレにより、一歩抜きんでた高品質を維持しているというワケ。


 ちなみに社名のシマロンは、映画『シマロン』からきているのだそうだ。社長がこの映画のファンらしい。自分は以前ビデオで見たが、1931年製作の古い米映画のため原作者も俳優陣も監督もまったく知らず、内容も生粋の西部劇ではなくて、オクラホマを舞台にした1889年から第一次大戦勃発辺りまでの40年間の西部開拓史とスケールが大き過ぎ、個人的にはどうもイマイチ。

 

 1960年にはリメイクもされており、そっちは自分がお気に入りのグレン・フォード(オリジナルの1957年版『決断の3時10分』(3:10 to Yuma)の主演俳優)が出ているから馴染み易い。

 

 シマロンの社長は新旧どっちがお好みなのか、それとも両方好きなのかは知らないけど…。

 

ハンマーをハーフコックし、ローディングゲートを開けて弾込め。SAAの独壇場だ。コックが先かゲートを開けるのが先かはいつも悩みどころ。自分は何となくコックがいつも先。でも、流れとしてはたぶんゲートが先のほうが良いかもしれない


 さて、会社の勉強が一通り済んだところで、翌日再びお店へ出向いた。この店は、鉄砲を触る際にはラテックスの手袋をはめる決まりになっていて(コロナの影響)、コレまた微妙にムズい感じを味わいつつもめでたく購入。ああ嬉しい。


 自宅へ帰っていじり出したら、いきなり一個、大切な事実に気付いた。ベースの銃が、ウベルティではなくてPietta(ピエッタ)製なのである。自分はてっきりウベルティかと…。
 やっぱりウエスタン音痴の一夜漬け勉強だと、このレベルなんだよな。そこで慌てて調べ直すと、どうやら10年くらい前からピエッタもベースに使っていたとのことだ。知らなかった。

 

トップの様子。光を当て過ぎ、フレームのケースハードンの反射で目がチラチラする。マカロニのギラギラした情熱世界を感じてください


 ピエッタは、1963年創業の中堅どころのレプリカガン会社だ。本拠地はイタリアのGussago(グッサーゴ)。創立者のGiuseppe Pietta(ジュセッペ・ピエッタ)は14歳の頃から鉄砲作りを習い始め、22歳で会社を興した。先ずはショットガンから初めて、ほどなくオールドウエストのレプリカガンの製作を開始。最初のモデルはコルトの1851Navyで、1万挺ほどを作ったらしい。


 現在、同社のウエスタン系レプリカリボルバーは口径違いも含めて30種もあり、2020年にはアリゾナの有名ディストリビューター、デビッドソン向けの別注SAA(黒金のツートンでシリンダーがノンフルート。口径は.45と.357。コレが渋い。520ドル)を手掛けるなど品質も高い。

 

マカロニ・ウエスタンにはオートの銃もちょくちょく登場し、ASTRAのM400(9mmラルゴ)が出てきた作品もあると聞く。そこで、手元のASTRA M300(.32ACP)を並べてみる。M400はコレの大型版だ。古めかしくてややアンバランスなシェイプが、マカロニに結構似合いそうだ


 個人的な印象としては、ずっと昔にショップで見たピエッタは、どこかチープで嘘くさい雰囲気が漂い、レプリカと言うよりはフェイクの匂いが強かった。しかし今回はどうやら違う。きっとこの会社もウベルティと同様、シマロンとのコラボレーションによって格段に質が向上したということなのだろう。

 

続きはこちら
 

Text&Photo:Gun Professionals サウスカロライナ支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年2月号 P.156-160をもとに再編集したものです。

 

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