実銃

2023/07/23

【実銃】狙撃銃の新たなる活路を見出した「KIVAARI」その実射性能とは?【後編】

 

DRD Tactical 

KIVAARI
Takedown Rifle

 

 

 .338 Lapuaマグナムカートリッジを一役有名にしたのは、やはり2009年にイギリス軍王室騎兵隊のCraig Harrisonがアフガニスタンで達成した2,475mの最長狙撃達成記録(当時)であろう。

 このミリタリーのスナイパー向けに開発されたカートリッジには、.50BMGと.300ウィンチェスターマグナムの狭間を埋めるという役割もあった。1,000m以上を撃つスナイパーライフルといえばボルトアクションライフルが一般的だが、この.338 Lapuaマグナムを使用するARスタイルセミオートライフルも存在する。その一つとしてDRD Tactical 社のKIVAARIを紹介したい。
 

中編はこちら

 

 


 

実射


 今回の実射は、LA近郊では長い距離が撃てる“エンジェルス シューティングパーク”のパブリックレンジを使った。ここで撃てるのは600ヤード(549m)で、これ以上の距離を撃とうとすると、車で3時間以上は走らなければならない。

 

エンジェルス シューティングパークのライフルレンジ


 できれば1,000ヤード(914m)以上を撃ってみたかったが、いかんせん.338Lapuaマグナムは20発入り1箱が120ドル以上するので、そうそう気軽にテストはできないのだ。そこで知り合いにお願いして、プライム社の300gr.HPBTを3箱(税込みで400ドル超えだ!)だけ手に入れて、大事に撃たせてもらった。

 

100ヤードでのサイトイン。6発で済ませてしまった


 まずはオーナーであるジェイソンにサイトインをしてもらう。始めの3発は左下に着弾した。ジェイソンはすかさずiPhoneに入ったバリスティックアプリで計算しスコープをアジャスト、次の3発はほぼセンターに入ってきた。さすがは現職のスナイパーだけある。

 

サイトインのターゲット。左下の3発が本日最初に撃ったもの、その後アプリを使ってスコープのクリック数を割り出し、4発目が右側8点、5発目が10点ライン上、そしてブルズアイまで持ってきた。その後バレルを外し、また付け直して撃ってみたのが黒点上の3発だ。ジェイソンが、いくらなんでもこれはおかしいともう一度各部の増し締めをした。スコープのボルトがほんの少し緩んでいたのと、バレルナットの締め付けが不十分が、異物が入っていたのだと思われる


 ここで試しに1度バレルを外して再度取り付け、どのくらいゼロが出ているか試してみた。結果はやや落胆の、2インチほど上に着弾した。それも少しグルーピングが広がってきたのでバレルナット、スコープ周りを増し締めしてまたトライした。次の3発はほとんどはじめと変わらない場所に7/8インチほどに集弾する。これは期待が持てる。

 バレルをクリーニングし、再度挑戦すると、なんと今度は0.75インチに3発が集まってしまった。残りの7発も、1発をのぞき確実に1インチ以下に入っている。

 

これは増し締めをする前の100ヤードターゲット


 私も撃たせてもらう。リコイルそのものは、ボルトアクションで撃つ.300ウィンチェスターマグナムよりはるかに楽なものだ。重いリコイルはストレートに後方に来るが、勢いに欠けるというか、角が取れているのだ。これなら連射も楽だと思っていたら、スコープ内がモヤモヤしてきた。バレルの過熱によるかげろうが発生しているのだ。さすがは.338Lapuaマグナムだと、妙な納得をしてしまった。

 

左から、7.62×39mm、6.5 Creedmoor 130gr. HPBT、.308Win 150gr.SP、30-06 Springfield 150gr. SP


 バレルを休ませ、再挑戦。今度は600ヤード先の18インチ(45.72cm)と12インチ(30.48cm)に5発ずつお見舞いする。18インチは4発、12インチのほうは2発外してしまったが、少々風があったので、風のせいに違いないと思うことにする。

 

トリッシュの100ヤード。上手い


 一緒に撃ちに行ったトリッシュは、10発のうち9発ヒット、悔しがっていた。「これは私の6.5クリードモアより弾着が散る気がする」との豪華かつ貴重なコメントを頂いた。彼女はバリバリのシューターで、6.5クリードモア、.260レミントン、.300ウィンマグ、といった錚々たるカスタムボルトアクションライフルを所持しており、ロングレンジライフル競技にも参加している猛者なのであった。

 

100ヤードターゲットの位置からシューティングベンチを見る。奥の白いラインがシューティン
グベンチだ

 

5発目。もうほとんどポイントオブインパクト(着弾点)を掴んでしまっている


 さて、このKIVAARIは、どんな場面で使われるライフルなのか。


「ミリタリー用しかないね。500-1000ヤードの連隊支援には最適だろう。ただしテイクダウンの機能は使わない(常に組み上げた形で運用する)。砂漠や荒野といった環境では、どうしても砂や異物が紛れ込む可能性がある。あのバレル/レシーバー部分に砂が入ったら、目も当てられない。イジェクションポートのカバーも必要だ」

 

とジェイソン。

 

上がトリッシュが100ヤードで撃った3発。7/8インチにまとまった。下はジェイソンが撃った7発。1発は右上に行ったのがわかったそうだ。人的ミスというやつだ


「そうね。テイクダウンである必要はどのくらいあるかしら。ミリタリーなら、ユニットごとに運ぶ手段があるだろうし、必ずゼロが出ているという保証もないと思う。現場で組み上げて問題が起こる可能性を考えると、組み上げたままショルダーバッグに入れて持ち歩くというのがロジカルだと思うな」

 

とトリッシュ。

 

バレルを冷ます。さすがは.338Lapuaと言いたくなるほどバレル周りが熱くなる


 悩ましいところだ。600ヤードでの精度は確実に出ている。今回の結果からみても、ゼロが狂う可能性は確実にある。1,000ヤード以上を試してみたいところだ。人命が掛かる場で、そのリスクを負うべきなのか。


 でも、.338Lapuaマグナムの連射、気持ちよかったなぁ。

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年9月号に掲載されたものです。

 

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