2023/01/26
PDWの創成期に生まれた、特殊部隊でも使用されるP90【無可動実銃】
この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。
設計本来の脅威相手とは違う活路を見出されたPDW
P90はNATO軍の要請によって生まれた特殊な銃である。戦争が発生した場合にソビエトの特殊部隊が通信や兵站といった後方支援線を破壊すると想定していたため、近距離でソビエト製のボディアーマーを貫通できる性能が要求された。その要請に沿って専用弾とともに開発されたのがP90である。通信兵、砲兵、戦闘車輌の乗組員など専門部門では大柄な銃は邪魔になるため、P90はコンパクトさを重視した異様な形状となっている。
新進気鋭ともいえたP90だが、完成すると同時にソビエトが崩壊し、当初の脅威が消えてしまった。本来ならP90も消えてしまう運命であったのかもしれないが、新たな脅威のテロリストもボディアーマーなどを装備していることから特殊部隊での活路が開かれた。砂漠の嵐作戦で初めて実戦に投入されたと言われるが、我々日本人にはペルーの日本大使公邸占領事件においてペルー特殊部隊員が使用していたことでP90の実戦を目の当たりにした印象が強い。
FN P90 (#FN027748)
- 全長:500mm
- 口径:5.7mm×28
- 装弾数:50発
- 価格:¥825,000
唯一無二のPDWの完成形
P90は開発当初からユニークなスタイルであった。試作品の中にはグリップの下にバレルがあるモノや、スコップのような形状のモノまであった。それから考えれば現在のP90は非常に合理的な形状をしている。
意外だがバレルの上にマガジンを配置するレイアウトは当初から採用されていたようだ。コンパクトにするために創意工夫を尽くしたP90はまさに未来を象徴するような銃器であったのだ。
大量採用を目的としたP90にはライバルとしてH&KのMP7が立ちはだかった。どちらも貫通力の高い専用弾を使用し、新たな世代の銃器として注目されたモデルである。2002年には要望を出したNATOにより試験が行なわれ、結果としてP90の5.7mm×28弾が優れていることが判明したのだが、NATOが5.7mm弾を標準弾薬と定めたのはテストから19年後の2021年になってからのことだった。
5.7mm弾がNATO標準弾薬になっていなかったため、P90はNATO軍の後方部隊用の採用銃になることはなかった。汎用性が低い5.7mm弾は値段が高く、民間向けのセールスが難しいP90はFNの主力製品から外れてしまいバリエーションモデルなどは少ない。
大量配備は逃したものの、火力と貫通力に優れたP90は特殊作戦とテロ対策部隊のために12カ国以上で採用され、カウンターテロの現場で使用される一線級の銃器となった。
製造国であるベルギーだけは、本来の目的である後方部隊にP90を採用している。全体としてかなり完成された銃であることは間違いないが、コストや汎用性、また5.7mm弾の能力が限られているといった要因で従来のSMGを完全に置き換えることはできなかった。
それでも個人用防衛兵器の創成期にP90が登場したことはその後のPDWの発展に大きな影響を与えている。個人用防衛兵器がPDWと呼ばれ始め、拳銃弾を使用した小型のSMGが主流であった時代にこれほどのモノが作られたことは称賛に値する。しかしP90の価値は従来の枠にとらわれることなく、新たな銃の形に希望を繋いだ未来にこそあるのかもしれない。
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この記事は月刊アームズマガジン2023年2月号 P.234~235をもとに再編集したものです。