2019/11/30
ツァスタバM56【無可動実銃の魅力】
鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫
この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。
パルチザン精神のたくましい国家
ユーゴスラビアは、6つの共和国に5つの民族が集まった「モザイク国家」として1929年に誕生し、1992年の内戦を皮切りに分裂を繰り返し消滅してしまった国家である。
第二次世界大戦ではドイツ軍に占領されたが、パルチザンの粘り強い抵抗によりソ連や連合軍の直接関与なしでドイツ軍を追い出し、冷戦時代になると東西両陣営どちらにも属さず、外部からの圧力と侵略の危機状態を維持することで国を1つにまとめている。
特に社会主義でありながら独自路線を取るユーゴスラビアをよく思わないソ連の侵攻対策に国軍の強化は必要不可欠であり、そのなかでパルチザンがそのまま国軍になったユーゴスラビア軍は、武器や装備に関しても援助物資や敗戦国のドイツから譲渡された兵器を使用。国産での武器製造が急がれるなか、ドイツから戦争賠償として、兵器製造機械の贈与を受けナチスドイツ式の武器を生産し制式採用した。
スターリン亡き後、ソ連と和解して東側の軍事支援を得ると今度は東側の武器体系に変更されるなど、武器に関しては調達が容易なものに柔軟に対応している。
ユーゴ M56 短機関銃
(複数在庫品、#D-44318)
- 全長:870mm(591mm)
- 口径:7.62mm×25
- 装弾数:35発
- 価格:¥55,000
妖しい雰囲気の短機関銃
ツァスタバM56はユーゴスラビア国産SMGとして1950年代中頃に設計されたマイナーなSMGである。
ドイツのMP40に似ているがMP40をコピーしたのは外観のみで、機関部はどちらかといえばベレッタM1938と同様である。これは前作のM49SMGと同一の構造で、M49自体は信頼性が高く性能にも満足がいっていたようだが、ソ連のPPSh-41のコピー品のためドイツ式の銃器生産のノウハウを手に入れたユーゴスラビアにとって、木製ストックや切削レシーバー等の製造コストが掛かるM49は効率の悪いものであった。
そこで、構造はM49をそのままに生産効率を上げる新型に切り替えることになったが、当時はソ連との関係悪化による技術援助もなく、ドイツ式の製造に慣れていたためソ連製のPPS43ではなくMP40の特徴を数多く取り入れたM56が開発された。
M49と同様トカレフ弾を使用するためマガジンは大きくカーブを描いたものになっている。ロアレシーバーの樹脂はMP40がベークライトを採用しているのに対しM56はより安価で量産に向いた黒色プラスチックに変更された。そのため、レシーバー内部の空間には割れ対策の緩衝材として、木製のスペーサーが内蔵されている。
MP40と大きく違い別の印象を与えるのが、このバナナマガジンだろう。マガジンハウジングの丸穴はマガジン側にも付けれており、この丸型が一致しないと使用できない。これはM49や仮想敵国であったソ連陣営のPPS43のマガジンと間違えないように視覚と感触で確認させるためのものだ
エジェクションポートは真上に排莢される方式を採用。光学機器の搭載が想定されていない前世代型の銃器に見られるレトロな作りだ
レシーバー上部にはユーゴスラビア連邦の国章にモデルナンバーとシリアルナンバーが入る。今はなきユーゴスラビアを感じられるノスタルジックな部分だ
200m程度の近接戦闘を想定したため、発射炎を抑制するハイダーなどは排除され、接近戦用として銃剣が装備される。
参考にした多くのSMGがフルオートオンリーと割り切った設計で簡素化させたが、M56は開発の遅れた拳銃を補うべく後方部隊にも支給されるためにセミオートを装備したままとした。
ハイダーやバレルジャケットは不要と判断され排除されたが、代わりに着剣ラグは新たに追加装備されている
コッキングハンドルはセーフティも兼ねており、90度回転させるとボルトをロックさせる。MP40型のセーフティを改良したオリジナルデザインだ
一見無駄と思える装備も自国防衛に徹した思想に基づく設計と考えれば理にかなっており、それを具体化させるためにあらゆる東西両陣営のSMGの要素をごちゃ混ぜにしたのであろう。結果としてM56は通常のSMGには見られない特徴を多く備えた、妖しい魅力を放っている。
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TEXT:IRON SIGHT
この記事は月刊アームズマガジン2020年1月号 P.110~111より抜粋・再編集したものです。