実銃

2020/01/31

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

 

21世紀まで使われた、簡易サブマシンガンの最高傑作

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

 

 M3サブマシンガンは戦時型短機関銃としてアメリカで開発されたものである。それまでの銃とは異なり、優雅さをまったく感じられない外観は徹底した合理主義から生まれたものだ。セレクターもなく、フルオート射撃のみの構造は、民間市場をまったく意識していない、軍用兵器に特化した設計になっている。

 フルオートのみのため、一線を外れた今も民間に払い下げられることはなく、現在でもアメリカ軍の資産として保管され、要請があればいつでも倉庫から持ち出せる。

 特に予算に厳しい事態で活用される傾向にある。デルタフォースの創設時には、CIAが前身のOSS時代に発注した消音仕様のM3サブマシンガンを訓練用に使用したり、2004年にはフィリピン特殊部隊の要請により、近代改修されたモデルが確認されている。世界中に供与されたものもあり、日本においても戦車部隊の自衛用火器として2010年ごろまで長きに渡って使われていた。

 

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

 

M3 Sub Machine Gun(Grease Gun)

  • 全長:747(567)mm
  • 口径:.45in
  • 装弾数:30発
  • 価格:¥350,000

 

 

アメリカの工業力の産物

 

 WWIIが勃発するとアメリカは自国はもとより連合国に与する他国の分まで大量のサブマシンガンを必要とした。当時の採用銃であるトンプソンは優秀な短機関銃だったが、生産性が悪く、とても前線の需要を満たすことができなかった。

 そこで省力化を図った戦時型のM1/M1A1型に改良し、低コスト化は実現できた。しかし他国の簡易型SMGに比べると充分な性能とは言えなかったため、より近代的で生産効率の高い新型短機関銃への更新を計画することになる。

 

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

戦中モデルらしく、溶接箇所は外観を気にすることなく、本体中心というもっとも生産効率のいい場所が選ばれた

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

連合国への供与を視野に入れ、さまざまな口径のバレルに交換できるように、大型のレシーバーキャップでバレルが固定されている

 

 

 弾薬はトンプソンと同一の. 45ACP弾とし、主力短機関銃の座をトンプソンからスムーズに移行するために、自動車産業から、船舶、航空機など軍需産業にまで幅を広げたゼネラルモーターズが手がけた短機関銃がM3サブマシンガンだ。

 プレス加工のレシーバーを溶接し、厳密な製造公差を必要としないボルトは2本のリコイルスプリングで確実に作動し、冷間鍛造で作られた銃身や安全装置を兼ねたエジェクションポートカバーなど、参考にしたMP40やステンSMGよりも合理的な設計であった。

 

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

グリップのプレス成型と滑り止めのチェッカーの製造方式は、M3より以前に携わったFP-45「リベレーター」の製造経験が活かされた結果だ

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

側面にクリップされた整備用のオイラーは、ゼネラルモーターズで生産していたM1カービンと同じものが流用された

 

 

 製造にあたってはゼネラルモーターズ国内製造部がM1カービンの製造を開始していたため、デトロイトではなく、同じような製造方式の簡易拳銃FP-45「リベレーター」の製造を経験していた、インディアナ州アンダーソンにあったガイドランプ部が担当。同部門のプレス加工技師も設計に携わっていたため、製造はスムーズに行なえるはずであった。

 しかし実際に生産を開始してみるとプレス加工部品がレシーバーの溶接で発生する熱によって歪んでしまい、期待されたほどの生産性を発揮できず、当初の20,000挺分の納期に対し、わずか900挺しか納入できなかった。

 

 

M3サブマシンガン【無可動実銃の魅力】

右側面のクランクハンドルを回してコッキングするという発想は自動車会社らしいものだったが、ボルトを引くのに8kg以上の力が必要で、実際には使いやすかったとは言えない

 

 

 その後も製造工程の改善は随時進められたものの、米軍が当初の300,000挺分の調達が終了したのは、なんと朝鮮戦争時代であった。

 前途多難なスタートを切ったM3サブマシンガンであるが、トンプソンと同様に大口径で敵の反撃を許さない打撃を与えられる効果の高さから「グリースガン」の愛称で世界中の兵士達に愛用されたのだ。

 

 

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TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:VILLAGE 2

 

 


この記事は月刊アームズマガジン2020年3月号 P.108~109より抜粋・再編集したものです。

 

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