ミリタリー

2022/09/25

軍事展示会で見た新型戦車「ラインメタルKF51新型MBT」

 

ラインメタルKF51新型MBT

 

 2022年6月に行なわれたフランスの軍事展示会、ユーロサトリは各メーカーが新製品を売り込む場だが、今年は業界が大きな転換期に差し掛かっているという印象を受けた。理由を話せば長くなるのですべてはここで語れないが、その中の1点に絞って紹介してみたい。それがラインメタルが発表したKF51新型戦車である。

 

 

120mm砲から130mm砲へ大型化

 

 KF51戦車の何が特別なのか。それはまず主砲の口径にある。西側NATO諸国において、MBT(メイン・バトル・タンク:主力戦車)の口径は120mmで統一されている。いつからかというと、1979年にラインメタルがRh-120主砲を開発してからだから、もう40年以上になる。かくいう日本の90式戦車にもこのRh-120主砲が搭載されている。Rh-120主砲が開発された背景には、当時の政治的な時代背景が大きい。米国とソ連によって世界は西側と東側に分断され、特に欧州においては『鉄のカーテン』と呼ばれる頑強な国境線が引かれていた。それは国境線というよりも、西側と東側の軍事境界線といったほうが正確かもしれない。そして西側では、東側諸国の戦車部隊がある日突然に『鉄のカーテン』を突破し、攻め入ってくると考えられていた。

 現在のような情報社会ではなかった1970年代において、敵側兵器の性能を正確に把握するのは難しく、モスクワの『赤の広場』で毎年行なわれる軍事パレードの映像を見て、専門家が分析するしかなかった。ソ連側もディスインフォメーションを目的として、まだ開発中の兵器などをあたかも完成したように、わざと公開することもあったので、キツネとタヌキの化かし合いだったのだ(ちなみにT-72戦車から東側は最新のT-14を含めて125mm滑空砲を使用し続けている)。
 そんな中、当時としては最新式のT-72戦車が登場した。これは素人目に見ても現行のT-62戦車と比較して、明らかに改良がおこなわれてるのがわかり、西側の関係者を驚愕させた。そのような状況下で、現行のロイヤルオードナンスL7・105mmライフル砲ではT-72の強化された新型装甲を無力化するには明らかに力不足と思われた。そういう流れで開発されたのが120mm滑空砲であり、それ以降は西側NATO MBTの標準口径として活躍してきた。だがその後、冷戦終結に伴って戦車自体の存在が危ぶまれている中での口径巨大化だったので、関係者を大きく驚かせた。しかも一気に10mmもである。結果、威力にして約3倍、射程距離は約50%の増大に成功している。

 またこの130mm・FGSには、12.7mm重機関銃がコアキシャルマシンガン(同軸機銃)としてマウントされている。これはおそらくFCSによってゼロイングし、コンピューターが標的までの距離をLRFで計測、瞬時に主砲か12.7mmが適当かを判断し、射手に伝えるシステムと予測できる。もしくは130mm砲弾を撃ち込んだ後に、12.7mm重機関銃で周辺の残存兵を機銃掃射するといったような攻撃が可能となっている。今までは12.7mm機関銃は射手がハッチから半身を出して目視で狙って射撃していたため、命中精度が比較にならないほど向上しているわけだから、想像するだけで恐るべきシステムだ。

 

パワーアップと軽量化・K F-51のネーミング

 

 戦車の火力をあげるためには、それに耐えるだけの質量が必要だ。だが、今回紹介するラインメタルの戦車はそれの常識に反発し、逆に軽量化に成功した。KF-51のネーミングは、基本車体重量が51トン(※1)なのだ。戦車に詳しい読者ならご存じだろうが、現行の120mm滑空砲を搭載したMBTは、重量が60トンに近くなる。10mmも口径をボアアップしつつ、車体重量が5トン以上の軽量化に成功している。ラインメタルによる恐るべきジャーマンエンジニアリングの結果である。

 

※1:オプションの搭載によって車体重量は変化する。ラインメタルの担当者は『51トンイッシュ』という表現で説明していた。何々イッシュというのは、だいたいそのくらい、という俗語である。ただし武器弾薬燃料を満載したコンバットロードは、KF-51でも59トンとなる。現行のレオパルド2戦車のコンバットロードは62.5トンだから、3.5トンの軽量化ということになる。

 

サイドからのシルエット。やはり主砲が大型化しているのがわかる。一見バランスが悪そうだが、走行しているデモ映像を見ると、意外とそうでもない。もちろんこの辺はラインメタルのエンジニアリングによってカバーされているのだろう

 

後方のシルエットは、もはや戦車というよりもランボルギーニのスーパーカーを彷彿とさせる斬新的なデザインだ

 

両サイドには、側面のブラインドスポットをカバーするモーションセンサー付き小型CCDカメラが搭載されている。これによって誤って友軍のディスマウント兵を轢いてしまう可能性が格段に縮小した

 

HERO 120を発射するランチャーシステム。HERO 120は対空時間60分、航続距離60㎞+の自爆突撃型UAVである。どちらかというとトマホーク巡航ミサイルに近い。遠隔操作されながら目標に向かって突撃するため、標的を外す率が極めて少ない

 

130mm・FGSの右横から12.7mm機銃のバレルが出ているのが確認できる。これがコアキシャルマシンガンと呼ばれる新システムで、マズルが常に主砲と同軸上に向いており、より効果的な二段階攻撃が行なえる。装弾数は250発

 

砲塔上には二機のクワッドコプター型式UAVが搭載されている。これによって周辺の警戒が容易になり、ウクライナの戦場のように対戦車兵が簡単に戦車に近づくことは不可能となった

 

砲塔後部にはNatterRCWS(リモート・コントロール・ウェポン・システム)ドローンプロテクションシステムが搭載されている。これによって友軍でないドローンを発見次第、瞬時に撃ち落すことができる

 

第四世代MBTの誕生

 

 現在まで、明確に第4世代MBTと定義される戦車は存在しなかった。だがKF51の登場によってMBTが第4世代に入ったといっていいと思う。もちろんこれは筆者の個人的な見解だが、ラインメタルの説明を受けて、そう確信した。ちなみに筆者は戦車に関しては素人ではない。筆者の最初のMOS(ミリタリー・オキュペーショナル・スペシャリティ=軍人としての職業上の専門分野)は対戦車歩兵であり、戦車を破壊する側の専門である。ではどのような点でKF51が第4世代のMBTと判断できるのだろうか。主砲のボアアップと軽量化以外に筆者の目に付いた改良点・進化点を挙げてみたい。

 

  • 小型UAV搭載によるシチュエーショナルアウェアネス(状況認識)の強化

 

 まず目についたのが、砲塔上に搭載されていた小型UAVである。この用途は説明の必要がないくらいだ。車内からは目視できないエリア、例えば丘の反対側や森林の中など、敵兵が潜んでいそうな場所をスクリーニングできる。もちろんUAV小隊がDS / GSで付いているが、やはり自身で確認したい場所を細かく確認できる強みは大きい。いうまでもなく、ここで収集した映像情報は戦車個体だけでなく司令部が同時に拝見可能であり、情報収集に大きな役割を果たすこととなる。

 

  • トップアタック対策

 

 砲塔上の撮影は禁止された。これはラインメタルが独自に開発したトップアタック対策『TAPS』(=トップ・アタック・プロテクション・システム)の機密保持と思われる。ウクライナの戦場においてもロシア軍戦車がトップアタック式の対戦車ミサイルによって大きな被害が出ているため、この対策は必要不可欠であった。MBTを含めたすべての装甲車両の弱点は上部と後部である。これは古今東西かわっていない。

 

  • HERO120ランチャー

 

 この兵器が搭載されたことにより、戦車がただの戦車ではなくなった。つまりこういうことだ。7㎞先に敵部隊が待ち伏せしているのを偵察部隊が発見し、報告してきた。通常であれば155mm火力支援か、空軍によるCASを要請するところだが、その必要がなくなったのだ。KF51がHERO120を発射し、正確に7㎞先の敵部隊を叩くことができる。ここまでくると、KF51は戦車というよりもISR(インテリジェンス・サーベイランス・リカナサンス=情報・監視・偵察機能)アセットの一部であり、同時に火力支援の能力をも備えた多用途主力戦車:MBTマルチパーパスと言えるかもしれない。

 

まとめ

 

 KF51の登場によって、40年以上続いたMBT主砲の口径であった120mmが130mmに更新されていくのか、それともこのまま120mmのままで残るのか…その運命はまだ誰もわからない。だが戦車砲を製造する筆頭企業であるラインメタルが130mm主砲を搭載したKF51を発表した意味は大きい。筆者は戦車大隊同士がぶつかり合うような戦闘は、今後は起きることはないと予測している。特にNATO諸国が関わる紛争ではなおさ
らだ。近年のアルバニアとアゼルバイジャンの紛争のような、局地的な紛争ではまだその可能性はあるだろう。
 だが今回のKF51を視察して、第4世代MBTの可能性が見えてきた気がする。C4(コマンド・統制・通信・コンピューター)ISRアセットの一環として、多用途兵器として生き残りの道を模索していっている状態なのだろう。
 対戦車兵器側もうかうかしていられなくなった。ウクライナではロシア軍戦車を撃破し、対戦車兵器の実用性と有効性が話題になってはいるが、第四世代MBTが実戦配備された後も同じことをやっていたら、片っ端から順番に排除されてしまうだろう。筆者が士官候補生時代に中佐の教官から『陸戦兵器で最強なのは戦車』と習った。第4世代MBTの登場によって、今後の陸戦、特に対戦車戦闘がどのように変化していくのか非常に興味深いところだ。

 

TEXT&PHOTO :飯柴智亮

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年9月号 P.214~217をもとに再編集したものです。

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