2022/09/12
【実銃】新型小銃HK433の. 300ブラックアウト口径バージョン「HK437 .300 Blackout」【ユーロサトリ】
HK437 .300 Blackout
フランスで毎年行なわれている軍事展示会『ユーロサトリ2022』が、今年も6月にフランスのParis Nord Villepinte Exhibition Centerで開催された。ここでは筆者が会場で気になったHK437の取材レポートを公開する。
HK437 .300 Blackout
ヘッケラー&コックは満を期してG36の後継小銃であるHK433を今年3月にドイツのニュルンベルグ市で開催されたエンフォースタックに続いて展示した。その.300ブラックアウト口径バージョンのHK437が展示されると聞き、早速ヘッケラー&コックのブースに足を延ばした。まずはHK437を初めて手にした感想を述べてみたい。HK437は2017年に発表された新型小銃HK433の.300ブラックアウト口径バージョンだが、外見は似ていても中身が全然違う。もちろん実際に手にする機会は今回が初めてである.
H&Kと.300ブラックアウト口径
ヘッケラー&コックの詳しい社内事情はわからないが、同社は.300ブラックアウト口径の可能性を重視していなかったように思える。というのも、ヘッケラー&コックのOEM生産を手掛けるB&Tは、2016年の段階ですでに.300ブラックアウト口径の小銃、APC-300とボルトアクション狙撃銃SPR-300を完成させている(両銃とも改良を加えられ、現在はPROシリーズとして提供されている)。そういった意味で、ヘッケラー&コックは.300ブラックアウトの市場で大きく出遅れた。FNHですら、2019年にSCARの.300ブラックアウト口径バージョンを発表している。B&Tに対して6年、FNHに対して3年の遅れである。だがヘッケラー&コックには、この遅れを取り戻すだけのエンジニアリング力と製造力がある。長い年月を要したHK433をベースにHK437を作り上げた。
.300ブラックアウト口径・弾薬の重要性を文章で説明するのは難しい。筆者自身、どんなに説明されても実際に撃つまでわからなかった。だが撃った瞬間にその実用性と重要性に気付く弾薬である。狙撃というと長距離というのが固定観念だが、現実はそうでもない。近距離・中距離の場合も多々ある。そのような距離で(例えば警察の狙撃班)7.62mm弾や5.56mm弾を撃つと、オーバーキルになってしまう。そういう状況下、亜音速で最大のパワープロジェクションを出せる弾薬が.300ブラックアウト弾なのだ。ヘッケラー&コックに限って言えば、前世代のMP5SDシリーズがその役割を担っていた。だが9mmサブソニック弾では有効射程距離は75m程度でパンチ力不足だ。その点.300ブラックアウトのサブソニック弾ならば、150mの射程距離があり、MP5SDシリーズのほぼ倍の距離をカバーできる。ちなみにサイズもリトラクタブルストックを装着したMP5SD6とHK437はほぼ同じ全長だ。射程距離が足りない場合はスーパーソニック弾を使う手もあるが、筆者は混乱を避ける意味と.300ブラックアウト弾薬の効果を最大限に保つ意味で、サブソニック弾のみの使用を推奨する。
まとめ
結論だが、今後.300ブラックアウト弾の需要は大きく伸びていく。その証拠にヘッケラー&コックはHK437だけでなく、G36ユーザー向けにHK237、HK416ユーザー向けにHK337を追加発表している。それぞれのプラットフォームを使用している部隊が特別な訓練なしで.300ブラックアウト弾を使用しやすくするためだろう。正直、「ここまでやるか?」と思ったが、「ちょっと出遅れたが、これから.300ブラックアウト弾の市場を独占してやる」というヘッケラー&コックのやる気が感じられた。それが可能かどうかは別問題として、.300ブラックアウト弾の短距離狙撃銃/小銃が各Tier-1/Teir-2部隊の武器庫に必要不可欠なツールとして配備されていくのは疑いの余地はない。というか、それが常識となっていくだろう。筆者も.300ブラックアウト弾を撃った瞬間に、直観としてそれを感じた。
HK437がその市場においてどのようなポジションを確保できるかどうかは、ドイツ陸軍次期制式採用小銃のトライアルにかかっている。もしHK433が採用されればHK437も自然とそのポジションを確保できるが、不採用となった場合、その立場は苦しくなる。ヘッケラー&コックもそれを承知しているからこそ、保険の意味もあってHK237とHK337を製作したのだろう。筆者の個人的意見だが、ドイツ陸軍制式小銃の座を60年以上保持しているヘッケラー&コックの政治的影響力は凄まじく、新興メーカーのヘーネルが勝利するのは極めて難しいと考える。今後の動向に注目したい。
TEXT&PHOTO :飯柴智亮
この記事は月刊アームズマガジン2022年9月号 P.210~213をもとに再編集したものです。