2021/07/19
【実銃】自衛隊の拳銃「9mm拳銃」とは?
1982年に採用され、陸海空自衛隊の制式拳銃として多くの自衛官に愛用されてきた9mm拳銃。ここでは航空自衛隊仕様の実銃を見ながら、その特徴について解説していく。
9mm拳銃
- 使用弾:9mm×19
- 全長:206mm
- バレル長:112mm
- 重量:830g
- 作動方式:ショートリコイル、ダブルアクション
- 装弾数:9発
日本人が選んだオートマチックピストル
自衛隊の9mm拳銃は、1950年(昭和25年)の警察予備隊創設以来装備してきた11.4mm拳銃(M1911A1)が日本人には大きく扱いづらいとされたことなどから、9mm×19弾を使用する拳銃を中心としたトライアルによりSIG SAUER P220を選定(ほかに新中央工業M57A1、FN ブローニングハイパワーなどが参加)。1982年(昭和57年)に採用され、現在も陸海空自衛隊に配備されている。
構造と特徴
日本でのライセンス生産は新中央工業(現ミネベアミツミ)が担当。原型であるSIG P220の製造上の特徴であったプレス加工製スライドを切削加工に改め、グリップパネルを日本人向けに再設計する等の仕様変更が行なわれ、日本仕様の刻印などと併せて外観上の差異が見られる。
作動方式はショートリコイルで、ダブルアクション式の撃発機構を備えている。また、自動撃鉄固定子(オートマチックファイアリングピンブロック)や撃鉄解放レバー(デコッキングレバー)により、採用当時に要求されたより高い安全性が確保されている。マガジンキャッチはボトムキャッチ式(コンチネンタルタイプ)で、底部左側にランヤードリングを装備。マガジンはシングルカアラムで装弾数は9発と、現代の水準から見るとキャパシティは小さめである。
各部表面処理の違い
9mm拳銃を工業製品として観察する際、その製造技術に着目したい。主要部品であるスライドは鉄(スチール)製で防錆用にパーカライジング(リン酸マンガン処理)、フレームはアルミ製でアルマイト(陽極酸化処理)が施されている。この表面処理の違いからツヤ消し灰色のスライドと、ツヤ消し黒色のフレームが微妙なコントラストを成すのである。銃身や各部レバー類、マガジン(弾倉)等も鉄製で黒染め(四三酸化鉄皮膜加工)が施され、色は青みがかった深い黒。いずれの表面処理も塗膜の厚みはなく、各部品が結合し合う寸法精度を保っており、潤滑と防錆のためにオイルの塗布が欠かせない。
運用状況
9mm拳銃は陸海空自衛隊の幹部自衛官や警務官などが装備するほか、陸上自衛隊では車輌やヘリの乗員、無反動砲や誘導弾の射手などが装備。中央即応連隊など一部の普通科隊員は小銃と併用している。また、海上自衛隊では立入検査隊や陸警隊、航空自衛隊では基地警備隊や高射部隊の隊員が装備しており、近年のタクティカルメソッドの普及で小銃との併用も見られるようになった。
小銃と比べ扱いに難しさはあるものの、全長が短くコンパクトであることから屋内などの狭い場所での取り回しには有利で、充分な訓練を積んでいれば有効な火器となりうる。また、整備性と信頼性の高さには定評があり、現在まで多くの自衛隊員に愛用されているようだ。
新拳銃SFP9の採用
なお、陸上自衛隊では2019年に新拳銃としてH&K SFP9の採用が発表され、調達が開始された。ストライカー式撃針を備えたこの銃にはより積極的に射撃をするためのコンセプトが見られ、従来のSIG P220が持つようなダブルアクション機構やデコッキングセーフティといった安全機能は大胆に省略された(もちろん、SFP9は充分な安全装置を備えてはいるが)。これは専守防衛を掲げて、過剰なまでに安全性にこだわり続けた自衛隊の進化と見るべきなのかもしれない。
TEXT:神崎 大/アームズマガジンウェブ編集部
PHOTO:笹川英夫
この記事は月刊アームズマガジン2021年7月号 P.59~61より抜粋・再編集したものです。