2021/06/02
ミリタリーシミュレーションに託した夢【MFE01主催者インタビュー】
新型大規模イベント「Milsim」
主催者にインタビュー!!
Milsimとは?
みなさんはMilsimというイベントをご存知だろうか? サバゲーをやっている方でも恐らく耳にする機会は少ないはずだ。
Milsimとは「軍事模擬戦闘」の略称であり、長時間にわたって戦闘を行なうリアルシチュレーションイベントである。規定された被弾判定、メディカルルールの下、指揮系統からの指示で昼夜を問わず行なわれる。サバイバルゲームと似ているようで一線を画した、本格的なイベントであるのがお分かりいただけるだろう。
2021年5月3日から4日にかけ、NMVA朝霧高原野営場においてそのMilsimのイベント「MFE01」が開催された。MFE01は、日本のミリシム普及活動を行うMilsimFarEast主催で開催され、数少ない国内で体感できる本格的なミリシムイベントの一つである。全国からミリシムユーザーが集結し、白熱したイベントを楽しんでいた。
今回、MFE統裁部のひとりである名村岩さんに、日本最大のミリシムイベントMFE01についてインタビューした。名村さんは「本来イベントを通して意図や目的は伝えるもので、映画監督が思想を語らず作品に反映させるのと同じで種明かしをするのも如何な物かと思っていたが、参加者も増え、1ジャンルとしてミリシムが定着し始めた今であるからこそ、大きな軸のようなものは私の考えの範囲で示したい」と仰り、インタビューに快く応じてくれた。
Interview
Q.MFEを開催されたきっかけや理由をお聞かせください。
率直にイベントを始めた理由は、巨大なミリタリーイベントが無くなりつつあったからです。実はMFE統裁部の3名はミリシムイベントのハートロックを未経験で、リエナクトには参加したことがありません。装備系サバゲーイベントのギアログやギアフェスに参加して友達を増やした世代です。実は、リエナクトがどんな事をやっていたのかについては人伝いにしか知りません。イベント運営やミリタリーイベントの運営技術がロストテクノロジー化した後に生まれたのがMFEなのです。
Q.MFE01は、すぐに開催ができたわけではなかったのですね。
私が始めたイベントとしては、MFEの前身となるメイソンロックも含めると5回目になります。このメイソンロックがMFEにつながるイベントでした。1回目はほぼ貸切サバゲーでしたが、2回目は突然始まった砲迫の要請システムが追加され、かなり現場は混乱したもののMFEの基盤が構築されました。そしてV3Phase2を開催し、ここでDRC無線の登場、野戦ドリル履修者の参戦など、イベントとしての幅が広がりました。イベントとしてのアイデンティティを確立したのは、開催4回目となるV3Phase4と認識しています。ここでATAKが導入され、MFE01でも使用したCASから味方との連携まで網羅されている現代のツールでの戦闘ができるようになりました。
Q.開催の回を増すごとにミリタリー色の強い本格的な内容になっていますが、ミリタリーイベントをどうお考えですか?
私は、巨大ミリタリーイベントをとても重要視しています。
単純に自分が参加したいからというのもありますが、イベント自体が直前の買い物とか装備を更新するなど、イベントという区切りがあることで装備好きな方々のモチベーションの向上が狙えるからです。もちろん好きなことだから、ずっと誰とも関わらず資料を集めてナイロンを熱心にコレクションする、みたいな人もいます。ですが、この趣味は人との関わりが必要だと思います。この趣味が好きな人たちが関わることができる場所があってもいいなというのもMFEを始めた理由の一つです。
そこで、せっかくやるならやりたいことをやろう、と思いあれこれと考えた結果、軍 VS 軍の戦闘という設定になりました。
初期のテーマは「RobinSage」でした。これはグリーンベレーの選抜課程訓練の名称ですが、この訓練過程に近い要素をイベントに取り入れていこうと、ある種共通のメタファーとしてこの単語を使っていました。もちろん、一般歩兵の行動もできない私がSFの真似事をできるはずがないので、あくまで要素というか方向性を固めるためのテーマでしたが(笑)。
Q.現代戦に必要不可欠なデジタル技術と本格的な軍事訓練の要素を取り入れたことで、MFEはどういうイベントになったのでしょうか?
世界は再びグレートゲームの時代に向かい、対露戦を意識した合同訓練が欧州全土で定期的に実際されています。そこでポストハートロックのイベントとして、時勢に合わせた「対巨大共産国家による侵略行動に向けたNATO諸国の合同訓練」というコンセプトが生まれました。国家の勢力に架空の国を用いる、とかはRobinSageの時から今まで存続していますね。なので、今のところ我々がやっていることはその合同訓練のようなことをやるイベント、になります。
Q.MFEの構成要員についてお聞かせください。
MFE運営の常駐メンバーは9人です。ここに最新系陸自装備好き集団の緑之会さんが運営の手伝いをしてくれています。Ippisouさんが企画、運営、JTAC関連の整理全般、文豪さんがATAKなどネットワーク関連、私が事務作業や会計などをやっております。
このイベントを続ける上で、特に緑之会さんに担っていただいている「補助官」という担当が必要不可欠です。
イベントの特色としてCASや被弾判定等の状況付与がありますが、安全管理からCASの現示(簡単に言うと爆弾落としたところに爆竹を鳴らします)、参加者の誘導に至るまで全てが補助官によるものです。
当然複雑な森の中でゲームは行いますので、補助官は高いスキルを備えた方々になります。実際私のやっている事は、参加者集計とか広報とか、細かい応対とかですので、ご協力いただいている皆様には頭が上がりません(笑)。
また、協力者は他にもおりまして、今回の架空国家レヴォニアとウトロムスクについては国家デザイン並びにパッチ/ステッカー制作は3MADE ISSUEさん、運営側の使用している識別パッチはAlice gearさん、参加者が個別に発注しているコールサインパッチはRainbow Adventure Designさんなど、各装備関連の業者様にもご協力いただいております。
Q.MFEは自分たちがやりたかったサバゲーだった?
かなり根底的な話になりますが、MFEで「何をやりたかったか」という方が正確かもしれません。
私たちがサバゲーを始めたきっかけというのは、映画やゲームを見る、あるいは、プレイして「自分もこんな動きがしたい!」と思ったのが始まりではなかったでしょうか? ゲームの中だと無線が飛び交い、戦場で扉を爆破したり、ヘリから降りたり、仲間を呼んだり、作戦を遂行したり……と、撃ち合い以外の要素が楽しみの1つであったと思います。
よく自分が勤める会社の人からも「サバゲーしたい!」って声は受けて、さぁやろう!となるのですが、「俺は木登りが得意だから木の上から敵を監視したい!」とか「作戦を立てる司令塔になりたい!」とか未経験の人がそういうことを言うことが多いですよね。
実際にサバイバルゲームをしている身としては「そんな時間ない」って思いますよね(笑)。サバゲーはスタートダッシュして、たくさん撃ってフラッグゲットすれば勝ち、という流れですから、かかる時間は15〜30分ぐらい。そんな中でスナイパーとかアタッカーみたいなポジションもあってないようなものですし、まして木に登って偵察する時間があったら1つでもバリケード潰す方が勝てるわけです。
でもこの感覚ってとても大事だなと思いました。我々も元々はそういう「役割」とか「時間の経過」とか「作戦」を感じられるものをやりたかったのではないかと思うのです。
だからMFEは勿論軍事作戦の再考とか、戦術を研究するとか、SUT(小隊/分隊の戦術)を極めていく、とか目的はそれぞれあると思いますけど、根幹には本当にやりたかったサバゲーのようなものがあると個人的には思います。
Q.本当にやりたかったものが、見えてきた感じなのですね。
そうですね、従来のサバゲーから踏み込んで、「よりリアルな「演習っぽいこと」ができるためにはどんな知識やテクニックが必要なのか」とか「どんな要素があるとより面白くなるのか」をこれからも参加者のみなさんと一緒に考えたいと思います。
実は、MFEに至るまでは前途多難でした(笑)。初期の頃、我々のやりたい事はまさに絵に描いた餅だったからです。具体的な話をしますと、9line(負傷者救護)をやりたいが全然できる人がいない、あるいは、小隊行動もその日初めて会った人と分隊組んで撃ち合うものの連携が満足に取れないなど、いろいろなことがありました。
そんな中でこのイベントの主催の一人にして総監督のIppisouさんが「定期的に同じ参加者でやり続ければ練度が上がるからやり続けよう」と提案をしてくださったのです。裏話になりますが、V3にPhase2とかPhase4とかステージがあったのもそういう目的があったからです。Ippisouさんの熱意とパワーは、我々を勇気づけてくれ、それ以降の開催でphase分けしたことで転機となりました。結果的にPhase2が入門編、Phase4が本番、といった形になり、順調にイベントが進行していくようになりました。
その後、JTACはMFE01で各分隊にアタッチして全員がCASを呼べる段階にまで進化し、分隊に関しては主に東海と関西方面ですが、野戦ドリルなどの練習会でめきめきと実績を積んでいき、今日に至るわけです。
紆余曲折ありましたが、確実に参加者の練度、技術は向上し、我々のやりたい本物のミリシムに近づきつつある、と感じつつあります。
Q.MFEが目指すものとは?
世界最高クラスのミリシムイベントです。
アジアは台湾、香港から、西はアメリカからでも参加者が集まり、本職も顔負けのイベントゲームをやってのける空間を作ることです。もちろん、我々のソースは限られています。アメリカのような広大な土地もありませんし、ロシアのように軍用車を自家用車のように乗り回している人が沢山いるわけでもありません。なので、迫力で追い抜くことは難しいかもしれません。しかし知識や技術はどこのフィールドであっても磨くことができると思うので、よりクオリティの高く、リアリティを追求したイベントになっていけたらと思います。
JTACはCASを要請し、各部隊は高い練度で遭遇戦をこなし、地雷が有ればEODが撤去をし、リーコンは一日中弾を撃たなくても敵情を確実に本隊に伝えていく……のようなことを自然な流れで行なうことができれば1つの完成かなと思います。
ここにどこまでの完成度を求めるか、あるいは、どこに楽しみを見出すかは正直、私もわかりません。こんな辛いことして何が楽しいのかなって思うこともあります。お金払って土嚢を積んで、夜の19時まで戦って朝の3時に起きて4時に整列して早朝に敵の基地を強襲しているわけですし、ふと我に帰ると何やっているのだろう……って感じだと思います(笑)。
Q.自分が満足できるまでとことんこだわる、ということですね。
そうですね(笑)。やっぱり、何も分からず最新の装備だからとスマートフォンケースを胸につけていたときと、ATAKを運用している今とでは装備に関する考え方も変わった気がします。また、私自身が色んな人の作戦会議に出たり、実際に参加者の活動を見ていて凄いと感心することが多々あり、すごく刺激になりました。
Q.イベントに参加した方々は、自分が楽しめたから継続して参加するのでしょうか?
MFEは、100人参加して100人が大満足ってイベントじゃないと思います。3割ぐらい熱狂的なミリシムおじさんがいて、そこに引っ張られている人とやや引いている人、みたいのに分かれている気がします。
脱線しますが、メイソンロックV2は新要素のCASを取り入れた革新的な回でしたが、ズブの素人の私とめちゃくちゃ経験者の運営サポート、みたいなバランスの悪さも相まって満足度は2点って感じだったと思います。あれでよくついて来てくれる人がいたな、と思うくらいに。あのV2を経験してからも参加を続けてくれている方には頭が上がりません。あの時に関係者に相談したことがありました。こんなイベントでいいのだろうか、どうやって満足度を上げていけばいいだろうか、と聞いたら、「そもそも運営が求めているハードルが高すぎるからいっそ下げないで、参加した奴がすごい、みたいなイベントにすればいい」と言われました。
結果として今日に至るまでイベント内で判定や勝ち負けにおいても一切の忖度を行っていないガチンコバトルをやっております。かくして今回のMFE01も3つの状況で3回ともBlueチームが負けたわけです。普通のイベントなら事故案件となりそうですが、ミリシムはこれもミリシムと捉えております。ここで何か調整してしまうと演習としての方針がブレてしまいますし、本当の実力発揮ではなくなってしまうので、たとえイベントが壊れそうでも基本は守る、という信念を貫いていきます。
Q.一切の妥協がない分、参加者にとって過酷な場面がありそうですが。
確かにかなり過酷な場面もあります。特に分隊長小隊長クラスの人にかかるプレッシャーはすごいものだと思います。仕事でもないのにどうして責任がこんなにのしかかるの? と思ったこともありました。
あとはIppisouさんの「演習なんて本職でも失敗するし、失敗してもいい。失敗しても何かを得るのが演習」といった言葉に後押しされてV3をやれた気がします。
今回の参加者の中にはたぶんもうやりたくない! という人もいるかもしれませんが、個人的には乗り越えただけでも凄いことじゃないかなと思います。
たとえば、海軍はメイソンロック、メイソンロックV2、メイソンロックV3まで3連敗でしたが、そこから追い返して現在屈指の最強のチームの1つになっています。その勝利の裏には、恐らく並々ならぬ分析や演習の成果もあると思いますが、やっぱり敗北から何かを得たチームはその後凄まじい活躍をする傾向にあります。
逆に勝ち負けに固執すると本質を見失ってしまうイベントかなとも思います。ミリシムは作戦開始前のミッションブリーフィングから始まり、AAR(活動後報告)で全てのミリシムは完結します。このプロセス全てがミリシムなので、戦闘箇所の結果だけが全てになるわけではありません。それこそ統裁官が来たら散開するとか、敵の数は参加者から逆算して50人ぐらいだから今見えるAORはたぶんシールズで10人ぐらいの分隊! みたいなメタ的なやり方をすればいくらでも裏をかいて有利に進められてしまいます。だから、本質がリアリティの追求みたいなところから外れてしまうとやっぱりサバゲーに回帰していってしまうのです。
ミリシムの本質は余計なルールをサバゲーにくっつけて装備のアドバンテージを引き出しているだけなので、何か結果や価値を見出そうとするとミリシムは楽しくなくなってしまうと思われます。
Q.MFEの今後の展開をお聞かせください
次のステージとして「BB弾からレーザーへ」を掲げています。良くも悪くも今のミリシムはサバゲーで、勝敗の分かれ目としてサバゲーの上手下手のファクターが大きいので、少しでもリアリティを出せる工夫ができたら……と頭を悩ませておりました。しかしながら100名クラスで導入可能なレーザーデバイスはこれまでなかったため、なかなか進まない案件でした。しかしついに先が見えてきましたので、着々と進めていきたいと思います。
また、新規参加者増も目指しております。ゆくゆくは200名ぐらいまでは対応できるように準備する予定です。
さらに敷居が高い、新規の参加者だとうまく立ち回れない、などの課題については、MFEを1年に1度のビッグゲームにし、それ以外では「日帰り、CASの現示はなし」など一部ルールを絞りつつもMFEに準じたライト版を計画しています。せっかく新規で参加していただいたのに楽しめないのはもったいないので、ぜひそういった機会をご活用いただけたら幸いです。
興味はあるけど……みたいな声はよく聞きます。
自分も何回もハートロックに行こうとして諦めたのでよくわかります。MFEに関しては装備が実物でもレプリカでも動ければ問題なく参加していただけます。確実に動く銃や伏射時に邪魔にならない装備など、身軽な動きができるセットアップでぜひお越しください。
マインドセットとしては、とにかく失敗して当たり前なので、上手くいかない事についてはそういうものだと割り切って続けることが大事です。特に分隊長、小隊長になって作戦が思うように進まなかったとしても、誰しもが狙ったように進んでいませんし、相手のいる事で不確定要素も多いので一個人の責任ではありません。10人〜50人規模の人間を短時間で指示を割り振り、動かすことなんて仕事でもまずやらない事でしょうし、珍しい経験と思って気軽に参加いただければ幸いです。
最後に、MFE01に参加いただいた皆様、ご支援いただいた皆様、誠にありがとうございました。また次回より一層楽しいイベントになるよう知恵を絞って参りますので、引き続きお付き合いください。
まとめ
インタビューに対応してくださった名村岩さんからは、そのお話の内容はもちろん、発する熱意から新しいサバゲーを構築していく新世代の力を感じさせた。MFEというミリシムイベントは、FPSなどを楽しむユーザーが参加してリアルさを体験できるイベントだといえる。開催予定であるMFE02やMilsimFarEast主催のミリシムイベントについては、公式HPから情報が配信をされるので、興味を持った読者はぜひサイトをチェックしていただければ幸いだ。