2018/11/01
カラシニコフ社 次世代ライフルに迫る!【2018年12月号掲載】
AK-12
ベールに包まれた次世代ロシア軍制式小銃をついに実写!
「ARMY2018」開催前日の8月20日の夕刻、我々は愛国者広場のはずれにあるカラシニコフ社射撃レンジを訪れた。この日、カラシニコフ社に招待されたごく限られたメディア向けに、新型ライフル「AK-12」、「SVCh」を含む同社銃器の試射会が開催されたのだ。日本のメディアとして招待されたのはNHKモスクワ支局と我々だけ。日本の雑誌社としては独占と言ってよいだろう。カラシニコフ社の前身であるイズマッシュ社時代より、私の取材に惜しみない協力をしてくれる同社幹部であり私の友人、Andreyが今回もまた我々を特別待遇で迎えてくれたのだ。
AK-12
- 口径:5.45mm×39
- 全長:880~940mm(ストック折り畳み時690mm)
- 銃身長:415mm
- 重量:3.5kg
- 装弾数:30発
ロシア軍制式採用を巡る不透明さ
ソ連・ロシア軍において長く制式歩兵小銃の地位を占めるAK-74(AK-74M)に代わる存在として2011年に姿を現した「AK-12」。だが、発表以降も軍への採用を巡っては性能面での不満が伝えられるなど不透明な状況が続いていた。また、兵器ショーなどでは展示されるたびデザインが変化し、どうにも実態の見えないライフルと言えた。そんなAK-12の初となるメディア向け試射会ということもあり、集まったメディアの注目はこの新型ライフルに向けられた。
AK-12を試射する筆者。とても素直な撃ちごたえに驚かされた。これまでのAKシリーズで感じた独特のクセが無く、非常に撃ちやすくコントローラブルなライフルに仕上がっていた
リコイルのクセが無くコントロール性が向上
撃ってみて、まず気付いたのはAK-12が非常に撃ちやすい、コントローラブルな銃であるという点だ。従来AKシリーズのライフルには、ねじれるようなリコイルが感じられたが、それがまったく消えていた。この点についてOnokoy氏はマズルブレーキの改良の効果だと言う。
「リコイルの抑制は、ひとえに新設計されたマズルブレーキの効果が大きい。内部機構のシステムは以前のAKシリーズと大きな変更をしていない。なぜならAKシリーズの信頼性の高さは誰しもが認める長所であり、ここにあえて手を加えるようなことはしなかった」
確かにマズルブレーキをよく観察すると、大型化し形状も変更されている。また、マズル先端あたりに不等間隔で3mmほどのガス抜き穴が4つ追加されていることがわかる(AK-74Mでは基部寄りに等間隔で穴が設置されていた)。
さらに付け加えれば、エルゴノミクスデザインのピストルグリップの採用、新設計のハンドガードの握りやすさもコントール性向上に大きな効果があるのではないだろうか。私に続いてAK-12を試射した本誌編集者 綾部氏も初めて手にしたAK-12で、立て続けにターゲットをヒットさせていた。軍用小銃として誰にでも扱いやすいことは最も重視される点だろう。
AK-12の注目度はやはり高く、多くの招待客がただ撃つだけでなく、インストラクターに質問を行ない、彼らの話に耳を傾けていた
現代的な光学機器に対応
精度という点でも大きな改善が見られた。AK-12はバレル基部の接合が見直され、ハンドガードがバレルと接触しないこと(フリーフロート化)で精度が向上したと言う。また、かつてのAKシリーズでは連続射撃によりハンドガードが過熱するという話が多く聞かれた(私も以前、AK-74を撃ったとき、60発以上の連続射撃で木製のハンドガードが焦げて煙が上がっていた)が、今回の試射会では招待客が次々に射撃をしても、最後までハンドガードが過度な熱を帯びることはなかった。
トップカバーは前側で固定され安定感が高まり、上面にはピカティニーレールが設けられている。上面レールはトップカバーからハンドガードまで一直線に配されており、現代戦には不可欠なドットサイト、ブースター、暗視装置などを取り付けることができる。これら光学機器への対応は、ロシア軍歩兵装備近代化計画「ラトニク」の要求に沿ったものと言える。
また、注目したいのはアイアンサイトだろう。AK-74Mまでのアイアンサイトは、フロント側をバレル先端に、リア側をトップカバー前方に置いていた。AK-12では、サプレッサー装着の関係からフロント側はガスブロックの上に移し、リア側はトップカバー後端となっている。従来、フロントとリアの間隔が短いことでサイティングの精度が劣っていたが、長くなったことで改善された。
上面にはハンドガードからトップカバーまで一直線にピカティニーレールが設けられている。固定されたトップカバーは後端がヒンジになっており、前部のラッチを外すことで上に開くことができるそうだ
レシーバーには「6П70(6P70)」と刻印されている。これはGRAUコードと呼ばれるものでロシア国防省による兵器分類記号である。「6」は個人装備を現し、「6P」で小火器を意味するそうである。なお、AK-74は「6P20」である
AK-12は残弾をチェックできるシースルーの小窓がついた新型の樹脂製マガジンを採用した。また、この新型マガジンはプローン射撃時に地面と接触する底部がカットされている。AKマガジンは長いので、こうした工夫がなされたのだろう
ロシア軍歩兵火器の次世代を担うか?
全体として見たとき、カスタムメーカーのAKモダナイズを追う、AKの手堅いフルモデルチェンジと言えるだろう。ただ、この点に関しては以前から「旧来のAKとの違いが乏しく、わざわざ新規採用する必然性がない」との批判も多いことも事実だ。 私は思い切ってOnokoy氏に、軍への採用・配備状況はどうなっているのか――と問うてみた。この点に関して、彼は今までの歯切れのいい説明とは異なり「国防省に承認されており、今後は軍への配備が進むだろう」との曖昧な返答のみであった。
ただ、メーカーとしてはAK-12を主軸としたファミリー化にも力を入れていく方針であり、カービンモデルAK-12Uや7.62x39mm弾仕様のAK-15、分隊支援火器型RPK-16を進めているとのことだった。
国防予算の優先順位などもあり、短期間でのAK-12への更新は見込めないだろうが、国家的な後援を受けて再編された国策企業カラシニコフ社が作り出したAK-12が今後のロシア軍歩兵火器の中心となっていくことは間違いないのではないだろうか。
AK-12バリエーションズ
※アームズマガジン本誌では、以下の派生モデルについても詳細にレポートしています。ここでは一部の画像のみ掲載いたしましたが、くわしくはぜひアームズマガジン12月号(P.42~47)をご覧ください。(WEB編集担当)
RPK-16
AK-200 Series
SVCh
Report :
Hideo Sasagawa 笹川英夫
Special Thanks :
Kalashnikov Concern
Mr.Andrey Vishnyakov
Mr Mark Razenkov
この記事は2018年12月号 P.36~47より抜粋・再編集したものです。