2021/02/19
【実銃】アメリカ在住ライターが選ぶ自衛用銃器「Scoped M4 Carbine」
アメリカの都市部に住む市民にとって、必要なファイティングツールとは何か? スキルを身に付けるのが難しいピストルや、弾倉に限りがあるショットガンではない。自衛するためには扱いやすく、また充分な弾数がある銃でなければならないのだ。今回は筆者のアメリカでの体験を語りつつ、自己防衛に最適だと判断した銃をご紹介しよう。
1992年「LA騒動」
2020年5月のジョージ・フロイド事件に端を発し、全米都市部で「BLMプロテスト」の嵐が吹き荒れたことは、記憶に新しいはずだ。プロテスター(抗議する人)のほとんどは平和的なデモ活動に終始したが、一部の急進的なグループや騒ぎに乗じた犯罪者たちが暴徒化して略奪を繰り返すなど、一時は州兵までもが出動するアメリカ史上最大のプロテスト運動にエスカレートしてしまった。
この騒動で思い出されるのは、もう25年以上も前に起きた1992年の「LA暴動」である。一部警官によるアフリカンアメリカンに対する暴行事件に端を発し、サウスセントラル(ロサンゼルスのダウンタウン南側)で暴動が起きて、市街に急速に広まっていったのだ。
当時私はLAのダウンタウンにあるオフィスで働いており、急遽帰宅命令が出て、取るものもとりあえず家に帰った。ニュースによればサウスセントラルで始まった暴動は急速に広まり、すでにコリアタウン(サウスセントラルの北側に位置)あたりでも死者が出ているという。当然のごとく発砲事件も頻発しており、一部では銃撃戦が展開された。家はダウンタウンから車で20分ほどのところにあり、帰宅して屋根に上ってみると、南西方面に幾筋もの黒煙が上がっているのが見え、恐ろしくなった。背筋が凍るとは、まさにこのことだろう。
私がここではたと気づいたのは、我が家のセルフプロテクションが、果たしてこの緊急事態において有効なのかどうかだった。当時用意していたのはベッド下のレミントン870ショットガン(6連チューブマガジン)と、枕元のコルトガバメント(7連マガジン)くらいのものだ。他の武器は不安が残るため、とりあえずありったけのガバメントのマガジンにカートリッジを装填してガンベルトに挿し込み、ガバメントはフラップ付きのホルスターに突っ込んで腰に吊った。
しかし、テレビには店舗やその周りの住宅を襲っている暴徒の群れが映っていた。数人でドアを破ると、あちこちからわらわらと人が湧いてきて略奪を始めている。あんな風に襲われてショットガンにロードした6発を撃ってしまったら、リロードする余裕はまったくないだろう。それに犯罪者は暗がりを好む。当時はウェポンライトなどというモノはなく、私自身暗がりの環境でまともなファイトができる自信もなかった。
その心細さを感じた経験から自己防衛に最適と判断したファイティングツールは、暗がりにも効果的なイルミレーションレティクルを備えたスコープを搭載する「M4スタイルカービン」であると実感させられたのである。
GEISSELE Super Duty GA-15
- バレル長:11.5インチ
- 口径:5.56mm×45
スコープを備えた「M4スタイルカービン」として代表的なセットアップといえるのが、このガイズリー(GEISSELE AUTOMATICS)のスーパーデューティ・モデル+スーパープレシジョン1-6×26mmスコープだ。
何故、このようなM4カービンが自己防衛に最適なのか? それについてはスカウトスナイパーの経歴を持つインストラクターで、元海兵隊員のVictor Lopezがその理由を語ってくれた。
「考えてみてほしい。夕方の裏庭にマウンテンライオン(カリフォルニア山間部に住むネコ科の動物。大型の猫に近い)が侵入し、小さな子供やペットを襲おうとしているとしたら。あるいは冬眠前のブラウンベアが裏庭のごみ箱を漁り、住居に侵入しようとしたら…。そんな時、光量をアジャストできるドット付きのスコープを搭載したライフルがあれば、急所に正確な1発をお見舞いできる。距離は未知数なのだから、ズームスコープがあれば言うことなしだ」
確かに、現在私が住む地域ではコヨーテやスカンクの姿も見られるし、10分も山側に走るとマウンテンライオンやブラウンベアが裏庭に出没する場所もある。一番恐ろしいのは人間なのであるが、襲ってくるのは人間だけとは限らないのだ。
このセットアップであれば確かに申し分ないが、扱う者のスキルがなければ意味がない。LA暴動以降、自分と家族を守るためにせっせとコンバットシューティング競技に参加するようになり、AR15やAK47といったミリタリーライフルを手に入れ、機会さえあればトレーニングに精を出すようになっていったのだ。2000年代になるとあちこちでタクティカルトレーニングなる一般向けのクラスが開講され始め、こいつにものめり込んでいった。
次回のレポートではそのタクティカルトレーニングについてのレポートをご紹介しよう。
Text & Photos: Hiro Soga
この記事は月刊アームズマガジン2021年3月号 P.58~65より抜粋・再編集したものです。