2020/12/26
【自衛隊】「統合幕僚監部」って知っていますか?【前編】
今回、統合幕僚監部のTwitter企画「統合幕僚監部声優報道官」に参加する上坂すみれさん、中村桜さん、井澤詩織さんの3人が統合幕僚監部を訪問。現職の統合幕僚監部の幕僚たちから、その組織や役割について説明を受けた。今回はその様子をご紹介しよう。
「統合幕僚監部」って知っていますか?
声優報道官がインタビュー!
「統合幕僚監部」とはどんな組織?
上坂すみれ
今日はよろしくお願いします。「統合幕僚監部」という名前は聞いたことがあったんですが、どんなことをする組織なのでしょうか?
中村3等陸佐
簡単な例を挙げると――災害派遣を思い浮かべてください。皆さんはおそらく、緑色の迷彩服を着た陸上自衛隊の隊員が活動する姿をイメージされると思うのですが、被害の規模が大きく、長期間におよんだりすると、陸上自衛隊だけでは効率よく対応できなくなることがあります。
被害地域に多くの物資や隊員を送る場合は、海上自衛隊の輸送艦や航空自衛隊の輸送機を使ったほうがより早く、よりたくさん送ることができます。このように陸・海・空それぞれに得意分野があり、その得意分野を把握したうえで、さらに政府や関係省庁と調整を行ないつつ、自治体とも連携しなければなりません。これらを担い、自衛隊の運用を一手に行なっているのが「統合幕僚監部」なのです。
災害派遣はひとつの例ですが、国民の皆さんの安全・安心を守るために自衛隊がもっとも効率的・効果的に活動できるよう陸・海・空自衛隊の役割を調整しているわけです。
上坂すみれ
なにか災害や緊急事態が起きたときに活動する組織なのですか?
中村3等陸佐
北朝鮮の弾道ミサイル問題や、東シナ海における中国海軍の活動が活発化していることは、テレビや新聞の報道でもご存知だと思います。また、新型コロナウイルス感染症の流行もいまだに収束の兆しが見えません。自衛隊は、こうした事態の変化に対応できるよう、常に備えを万全にする必要があります。
統合幕僚監部では平時から警戒監視活動や対領空侵犯措置をはじめ、「我が国の平和と独立を守り、領土・領海・領空を守り抜く」という使命を果たすため、さまざまな任務に携わっているんです。
統合幕僚監部──誕生と役割
解説:菊池雅之
- 新しい組織
あらゆる任務をシームレスかつ実効的に遂行するため、陸海空自衛隊が一つとなるべく誕生したのが「統合幕僚監部」だ。英語表記は「Joint Staff Office」で、頭文字をとって「JSO」と略されるが、防衛省内では「統幕」と呼ぶほうが一般的だ。中央“統”の文字をあしらった桜の徽章がシンボルであり、紫色をイメージカラーとしている。
統幕は、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部と並び防衛大臣を補佐する幕僚組織であり、陸海空の統合運用※を担う。トップを務める統合幕僚長は、これまで陸海空の幕僚長経験者から選ばれており、自衛官の最高位と言える(なお、陸海空持ち回りのポストとなっている)。
統幕が発足したのは2006年と、意外に歴史は浅い。自衛隊ではかなり以前から一元的に部隊を指揮する司令部や指揮官の必要性が論じられてきたが、自衛隊に力を持たせすぎることへの警戒感から、こうした組織は忌避されてきた。とはいえ、陸海空共同の統合作戦遂行のために、冷戦時代には「統合幕僚会議」が設けられ、統合幕僚会議議長が置かれている。しかし、同議長は陸海空幕僚長による会議の“まとめ役”であり指揮官ではなかった。
自衛隊の統合運用を促し、一枚岩となって日本を護るためには、陸海空自衛隊を指揮できる強い権限が必要であるとの声は強く、2006年にようやく統合幕僚監部というかたちで実現する。
- 有事には陸海空の部隊を指揮
統幕誕生後の2013年に閣議決定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について(25大綱)」では、『統合機動防衛力』という新しい防衛力の概念が提示された。
統合幕僚長の役割は、防衛大臣の補佐であり、大臣の命令は統幕長を通し、陸海空幕僚長へと伝えられる。有事に統幕長は、陸海空幕僚長から部隊を預かり、陸自の陸上総隊司令官や各方面総監、海自の自衛艦隊司令官、空自の航空総隊司令官を指揮して、任務を遂行する(このように部隊を預かり指揮する者を専門用語でフォースユーザーという。また、陸海空幕僚長にように部隊を提供する者をフォースプロバイダーという。フォースプロバイダーは部隊の育成や維持に責任を持つ)。
- 組織
統幕のスタッフは陸海空自衛官で構成される。統幕長を補佐するのは統幕副長と総括官である。統幕副長は陸海空将が、総括官は事務官が就く。また、統幕最先任という、自衛隊曹士のトップと言えるポストもあり、陸海空自衛隊で最先任曹長などを務めた者から選ばれる。
セクションとしては、総務部(J-1)、運用部(J-3)、防衛計画部(J-5)、指揮通信システム部(J-6)があり、各部長は将補が充てられる。さらに参事官、報道官、主席法務官、主席後方補給官といったポストもある。
J-3には、防衛警備、防諜、カウンターインテリジェンスを担当する運用第1課、災害派遣を担当する運用第2課、統合訓練等を担当する運用第3課が置かれている。統幕は、それ自体で装備を有する実働部隊を持たず、あくまで部隊運用を行なう指揮組織だが、J-6には、自衛隊指揮通信システム隊という情報通信の実働部隊がある。来年度(2021年度)以降、同部隊は自衛隊サイバー防衛隊へと再編成される計画だ。
教育機関である統合幕僚学校は、陸海空の1佐、2佐を対象に、防衛学や統合運用を教えている。また国際平和協力センターが併設され、国際平和協力活動に必要な知識を養うための教育も行なっている。
このように、我々の目に触れることの少ない組織ではある、自衛隊の運用において非常に重要な役割を担っているのだ。
※陸・海・空など、複数のサービス(軍種)にまたがることを「統合(Joint)」という。統合運用とは陸海空にまたがる部隊運用である。統合幕僚監部の「統合」も、陸海空にまたがる組織であることを意味している。
ここまでで統合幕僚監部はさまざまな役割を担っていることが分かった。次回は、代表して3人の幕僚の方々に、それぞれが担当する業務について伺う。
▼後編はこちら▼
取材協力:菊池雅之
撮影:葛貴紀(井上写真スタジオ)
この記事は月刊アームズマガジン2021年2月号 P.44~47を再編集したものです。