2020/11/19
【実銃】銃をDIYしよう【カスタムM4アッパーの製作】
今や、実銃のM4/AR-15シリーズライフルのバラエティたるや、もはや枚挙にいとまがない。しかも、モジュラリティ(結合や組み合わせが容易)の高いARシリーズなら気に入ったロアフレームがあれば、アッパーレシーバーは自由に組み合わせることができるほどだ。今回は実際にM4をカスタムして、理想のアッパーを自分で組み上げる様子をレポートしていく。
※このレポートは月刊アームズマガジン2018年8月号に掲載されたものを再編集したものです
実銃をDIYする
M4(M16)/AR-15シリーズといえば、USミリタリーの制式銃となって50年以上、その高い精度や信頼性もあって、ここアメリカではもはや小口径ライフルの代名詞ともいえる存在である。
その人気の理由のひとつに、このシリーズはパーツの規格が統一されているという点が挙げられる。そのため、パーツの結合や組み合わせが容易にできるのだ。たとえば、お気に入りのカスタムトリガーアッセンブリーを組み込んだロアフレームを所有していれば、銃身長やレールのセットアップ、ピストンやガスインピンジメントといった好みのアッパーレシーバーを載せ換えることが簡単にできてしまう。もはや、銃もDIYできてしまう時代なのだ。
私はかねてよりピストンシステムのアッパーに憧れていたが、お値段的に到底、手が届かない。なので今回は自分だけの理想のアッパーレシーバーを作成し、それをM4にカスタムしようと思いついた。
今回製作する銃。自前で組み立てるといえども通常分解はもちろん可能。掃除だけならハンドガードを外す必要もないだろう。今回作成するのは、この一番上にあるアッパーレシーバーだ
STEP1:パーツを集める
今回、製作するにあたって協力してもらったのは、友人のベテランガンスミスであるジムだ。彼にはトリガーのチューンやバレルの交換など、素人の私には手に負えないカスタムワークを長年お願いしている。彼曰く「必要な治具や工具、そして最低限のマシンがあればARアッパーを作るのは簡単だよ」だという。
早速、彼監修の元、まずはパーツ集めを行なう。ピストンアッパーを作りたいというと、彼は頷いてすぐ説明してくれた。
「まずは、ARシステムの精度の要になる、高品質のバレルとフリーフロートのセットアップが必須だな」
フリーフローティングバレルとは
「フリーフローティング バレルというのは、バレルが機関部とのみ結合されており、それ以外のパーツがバレルに触れていない構造を指す。外力の影響が少ないので、精度が出しやすいんだ。
たとえばM16などは、ハンドガードがバレルに固定されたA2ポストに装着されている。これではフリーフロートとはいえないね。ハンドガードを握り締めれば、バレルに力が掛かってしまうことになる」
上が今回使用したメロナイトコーティングのセミブルバレル。下はM4用だ
こちらがピストンシステム。今回使用したものはガスの流入量がアジャストできるタイプだ
ジムの言葉に従い、14.5インチバレルとスーパーレイティブ アームズ社のピストンシステム、バレルナットに固定する方式のハンドガード、その他フレームなども用意した。
STEP2:組み立てる
「じゃあまずバレルとガスシステムの装着からいこう。アッパーの製作で、難しいのはここだけだ。ステップごとにポイントを押さえていこう」
1.バレルを挿入して、バレルナットで締め込む
「バレルナットの締め付けトルクは指定されているので、その数値に沿ってトルクレンチで締め付ける。このシステムの場合はバレルナットの溝をピストンロッドが正確にトレースするよう締め付ける必要がある」
強固に固定するために必要なツールがこれだ。フレームを挟み込んで固定するツール(左)とアッパーの内部を固定するツール(右)
バレルをフレームに差し込む
挟み込んだ上で万力で固定。そのまま、定められたトルクでバレルナットを締めていく
2.バレルに開いているガスポートと、ガスブロックのガス導入口がしっかり一直線になるようにする
「このバレルのステップ部分からガスポートまでの距離をきっちりノギスで測って、確実に2つのホールが重なった場所でガスブロックを固定する。2本の固定ボルトをロックタイトで固定し、精度の高いドリルを使ってロックピン用の穴を開ける。これはガスブロックからバレルの一部を貫通させる穴だ。その後、テーパーリーマー(貫通穴を円錐状に削るツール)でホールに角度をつけてピンを打ち込み、固定する」
ガス/ピストンブロックを固定していく
ドリルで穴を開ける場所のガイド
下のバレルにはロック用のピンがインストールされている
3.ハンドガードをデザインにしたがって装着し、ボルトキャリアを組み上げる。
ハンドガードを装着
ここまで入れば、あとはハンマーで叩き込んでくっつけるだけ
4.マズルブレーキを装着する
「法律上、ライフルの銃身は16インチ以上となっているので、14.5インチバレルの場合、1.5インチ以上のマズルデバイスをピン留めした上で溶接して外せないようにする必要がある」
マズルブレーキはファーフランス社製を用意した
5.各部の調整
調整が終わり、完成したアッパーをロアと組み合わせ、さらにサイトやグリップポッド、ダミーの60連マガジンを装着。それっぽくドレスアップしてみた
STEP3:作った銃を撃ってみる
今回は通常時、HK416を制式装備しているLAPDのSWATオフィサーにも撃ってもらった。
「自分で組んだのか? バランスがいいネ。フロントが軽いし、リコイルもマイルドだ。100ヤードで1.5インチにまとまったって? たいしたもんだ」
との言葉をいただいた。LAPD SWATでは順次HKへと世代交代が進んでいるそうだ。ピストンARは、やはり耐久性に問題があるかもしれないというハナシも出ているようだ。
この完成したARだが、HK416よりはリコイルが軽いとはいえ、それでも肩の骨に「びしっ!」とくる激しさを持っている。100ヤードでの精度テストは、PRIME社の55グレインFMJを使うと、1.5インチに集弾させることができる。これは初めてのDIYアッパーとしては優秀であろう。今後もこのアッパーをどんどん撃ちこんでいきたい。
ファンクションテストをしてもらった。ジャムなし!
100ヤードから10発を撃った。2発をフライヤーとすると、約1.5インチにまとまっている
DIYの失敗例
最後にジムが実射中に破損させてしまったパーツを紹介する。パーツの選定や組み合わせを間違えると非常に危険だということが分かる。
不幸にも、タイト過ぎるチャンバーのせいで変形してしまったアッパーとボルトアッセンブリー
不完全なヒートトリート(熱処理)が原因で折れたと見られるボルト
ケースのリム部分が切れて張り付いてしまっている。ボルトキャリアも裂けてしまった
「重要なポイントは、クオリティの高いパーツを使うことだ。全米には、星の数ほどのARパーツメーカーがある。そのクオリティはまちまちで、パーツの精度誤差が大きかったり、固定穴がきちんとした角度に開いていないメーカーなどもあるんだ。ユーズドのパーツも避けたほうがいいし、名前も知らないようなパーツメーカーの製品も、やはり避けたほうが良さそうだ。
私も後生大事にとってあるが、タイト過ぎるチャンバーが原因で、ケースセパレーション(薬莢が千切れること)、フレーム、ボルトの変形を経験している。ライフルカートリッジのエネルギーは想像以上に強力で、ちょっとしたことで被害が大きくなってしまう傾向がある。気をつけてほしいところだな」
日本では銃をDIYする機会はないだろうが、もし海外などで挑戦する機会があれば、このジムの言葉を参考にしていただければ幸いだ。
Text & Photos: Hiro Soga
この記事は月刊アームズマガジン2018年8月号 P.32~39より抜粋・再編集したものです。