2020/08/14
リエナクトメントのススメ vol.3【WEB版:アロハ桜植樹式編】
月刊アームズマガジンで連載している「リエナクトメントのススメ」。そこでは「リエナクトメント」を歴史的な事象の再現と定義し、テーマを第2次世界大戦としている。現在、世界中で第2次世界大戦をテーマとしたさまざまな「リエナクトメント」が行なわれているが、比較的参加しやすい国内のイベントを中心に紹介するとともに「リエナクトメント」の楽しさを伝えたいと考えている。WEB版第3回では本来のリエナクトメントの要素にのっとって行なわれたイベントを紹介することにする。
本来のリエナクトメント「アロハ桜植樹式編」
欧米で行なわれているリエナクトメントは、本来歴史の継承や慰霊を目的として始められた。かつての戦場跡において戦闘があった日に行なわれるイベントには、再現する時代に生き、死んでいった人々を偲ぶとともに、先人たちへの敬意があるのだ。現在行なわれているイベントには、観光資源として行なわれているものもあり、見せる事を重視したものや、参加者が楽しむ事を目的としたものもあるが、本来は慰霊祭的な要素があったのである。
今回は、かつて国内で行なわれた本来のリエナクトメント「アロハ桜植樹式」の様子を紹介する。
アロハ桜植樹式
2018年3月10日、京都府舞鶴市余部の共楽公園にて、アロハ桜保存会主催によるアロハ桜植樹式が実施された
アロハ桜とは、太平洋戦争終戦後の1950年に旧帝国海軍の軍港があった京都府舞鶴市に駐留したハワイ出身の日系二世の兵士から「荒廃した日本人に、心の豊かさを取り戻してほしい」との願いを込めて、私費を投じて共楽公園などに植樹された100本の桜のことである。
現在も共楽公園には「ハワイ日系二世をしのぶ、友好平和のサクラ」と彫られた石碑とともに、4本の桜が現存しているが、その保存と再生のために、2017年12月に「アロハ桜保存会」が結成された。そして、2018年に舞鶴の地に駐留経験のあるアメリカの退役軍人らも招き、当時の米軍軍装をしたリエナクターを含む参加者により10本の桜の苗木の植樹が再現された。
植樹式は英語の同時通訳がなされ、司会の進行により参加者は起立し、米国国歌に準ずるラッパ譜「To The Colors」(国旗掲揚、降下時等に使用する曲)と、ラッパ「君が代」の吹奏で始められた。
ラッパ吹奏の後に執行者挨拶があり、後述の来賓挨拶と続いた後に再現植樹が行なわれた
ここで共楽公園について少し触れておく。現在の共楽公園は、京都・舞鶴市の桜の名所となっているが、軍港であった舞鶴東港を見下ろせる位置にあり、戦前は一時立ち入りが制限された丘にある。当時の大日本帝国海軍舞鶴鎮守府が市民への開放を決定した後に公園として整備され、「市民との憩いの場に」という意味を込めて「共楽公園」と名付けられたという逸話が残っている。
来賓のハワイMIS(情報部)ベテランズクラブ会長エノモト氏
以下、来賓に招かれたハワイMIS(情報部)ベテランズクラブ会長を務めるエノモト氏による挨拶である。
「今日、この場所に会長である私以下、退役軍人会をお招き下さり大変感謝しています。特に私の前に整列しているアメリカ軍の制服を着ている人々に敬意を表します。あなた方は日本とアメリカを代表し、太平洋と欧州で命をかけて戦った人々をも代表している事を忘れないで下さい。ここに日本占領時代にMISとして舞鶴で勤務したMISのアラカキさんを紹介します。彼はこの舞鶴で勤務したMISの方々を代表して出席に尽力し、またこの桜を植えた記念の代表でもあります。今日ここにリエナクトメントとして桜の植樹が行なわれること、その記憶が受け継がれる事を大変光栄かつうれしく思います。そしてこの物語を記憶に残す活動に感謝します」
日本占領時代にMISとして舞鶴で勤務したアラカキ氏と、ハワイMIS(情報部)ベテランズクラブ会長エノモト氏、リエナクトメントグループ「BCo/100Bn」のメンバーによる植樹シーン
再現植樹には、アロハ桜保存会、リエナクトメントグループ「BCo/100Bn」のメンバー家族、ハワイMIS(情報部)ベテランズクラブの関係者など約50名が参加した。
再現植樹に参加した、リエナクトメントグループ「BCo/100Bn」のメンバーと、ハワイからお越しになられた元アメリカ陸軍情報部に所属されていた退役軍人の方との記念撮影
今回のリエナクトメントは、約70年前に日本国内で実際にあった出来事を再現したものであった。現存する歴史的な桜の木の保存と再生を目的としたもので、一般市民の有志や協力者も参加し、インターネット上で寄付も募って行なわれた。
今回紹介した「アロハ桜植樹式」の様子はYouTubeにもアップされている。
URL:https://www.youtube.com/watch?v=I9qy0lKrzQk
取材・写真協力:アロハ桜保存会
TEXT:STEINER