2025/02/25
ベレッタM9A1の真価【続 撃たずに語るな!】
続 撃たずに語るな!
ベレッタM9A1の真価
by Captain Nakai
Photo by Henry
Gun Professionals 2012年10月号に掲載
M9に変わり、アップデートされた米軍制式軍用拳銃M9A1。
その実力をユーザー目線で検証する


女房とベレッタM9(92FS)系
射撃屋の仕事に関わった22年で、既にベレッタM9(92FS)系を累計で推定15万発以上の実射と整備に費やした。その間、累計10挺のM9(92FS)系を使い、色々なトラブルも経験したが、現在も、レンジでは3挺がフル稼動している。レンジは、銃にとって過酷な耐久レース場であり、その弱点が分かり易い環境でもある。だから、ベレッタM9(92FS)系についての感想を聞かれたとき時、一緒になって22年の女房を、今更、どう思うかと言われる感覚に近いものがあるが、逆に、素直に認めなければならない点も多い。
名立たるメーカーの銃を相手に選考トライアルに勝利し、1985年に栄光の米軍制式拳銃の名声を勝ち取ったベレッタM9が登場して四半世紀が流れた。その間も、各銃器メーカーが送り出す新型ポリマー・フレーム系のハンドガンを相手に、栄枯盛衰の道を辿るどころか、21年ぶりにM9A1としてアップデートされた。ところが、そんなメジャー路線を歩くM9系を、米国では、コンペティティションで使うシューターも少なく、我々の様なレンジ関係者に支持されていないことが多いのも現実だ・・・。
今回は、米軍で採用されているM9A1をヘビー・ユーザー目線で追い、その真価を語ってみたいと思う。



アカデミックな9×19mmオート
今回、テストで使ったM9A1は、厳密に言えば、M92SFのM9A1バージョンである。左側のスライドには、MOD.92FSと刻印されてあるのだ。制式採用銃である限り、米軍への納品用と、ある程度の住み分けは必要であるが、M92FSとM9のスペックがほぼ同一モデルであるので、米軍のM9A1同等のモデルとして考えれば良いだろう。M9との大きな相違点は、フレーム下に1913レールを搭載したことであり、グリップ部分のチェッカリングやトリガーガードの形状など、実にマイナーな部分のアップ・デートが施されているだけである。
気になるのは、2006年にM92FSの後続版の90-Twoで採用された、一体型されたリコイル・スプリングとリコイル・スプリングガイドがオリジナル状態に戻っていることや、ウィーク・ポイントの一つであったフレーム強化の為の、ブリガディア・フレームの生産は完全に休止され、軍にも採用されていないことである。射撃屋の分際で、偉そうに重箱の隅を突く気はしないが、M9系のスライド破損事故も、既に過去のモノになりつつある様だ・・・。


既に米軍のM9の導入までの経緯は、幾度も語られているので、その辺りは省かせて頂くが、射撃ツアーという環境で他の銃を比べても、M9系が、未だにアカデミックであり続ける理由もよく分かる。軍では、ハンドガンの持つパフォーマンス(精度)の他に、耐久性と作動性も重要であるが、我々、レンジ関係者には、実銃の性能を体感してもらうために、極力、精度の良い銃を薦めることも必要だ。破損の可能性が高いからと、初心者に丈夫な銃ばかりを選んで撃たせるのでは、射撃屋としての筋も通らない・・・。だから、デザート・シューティング・ツアーの初心者向けコースで射撃体験する場合は、まず、S&WのK(L)フレームリボルバーと、M9(92FS)系の使い方を教えている。先ほど述べたとおり、どちらも、25yd先で初弾からターゲットのど真中を撃ち抜くパフォーマンスを持っているからだ。


その意味でM9系は第一世代のDAオートであるワルサーP38からプロップ・アップ式の血統を引継ぎ、大成を遂げたハンドガンであると言える。しかし、P38のシステムを踏襲してはいるが、P38自体の精度は、同時期の1911A1とほぼ同じレベルで、精度自体は平凡なものである。その点ではM9が、ダブル・カラム式となって装弾数を倍にしただけでなく、命中精度を飛躍的に伸ばしたことは意外に評価されていない。
デザート・シューティング・ツアーにはM9(92FS)をベースにエポックな視点で開発された90-Twoもレンタルしている。90-TwoはM9A1と同時期に開発され、発売当時、洗練されたSF的フォルムは次世代の92FSを予感させた。ベースが同じなので性能はM9A1同等であるが、撃った時はM9(92FS)系とは微妙なトリガー・プルの違いを感じた。トリガーを引いたときに、トリガーバーが新型の交換式グリップの内側と干渉している感覚を指先に感じたからだ。その時は、“シューターを舐めるなよ!”と卓袱台をひっくり返したくなった。トリガーを引いたとき、最初に指先に感じるのは、トリガー・バーがシアへ当たる感覚だけで、その間には何も干渉して欲しくないのがシューターの心情であるからだ・・・。ファンの方には申し訳ないが、一度、スライド内のシア・レバーを介するブローニングHP系にも言える事だ。話を戻すと、90-Twoに関しては、グリップを交換式にしても、販売時は交換パーツが存在していなかったばかりか、グリップを取り出すのに尋常ならぬ力を要した。このあたりは、ベースを92FS系を主体に大手を振って米国市場を歩くことが出来るベレッタUSAらしさを感じた。


