2025/10/26
SUZUKI COLT GOVERNMENT M1911A1【ビンテージモデルガンコレクション24】

Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2014年3月号に掲載
かつて鈴木製作所というメーカーがモデルガンを製造供給していた。ブランド名はスズキで、その実態はよくわからない。そんなスズキは、1981年末にショートリコイルガバメントを突如発売している。これは先に製品化を発表していたMGCより半年も早かった。


諸元
メーカー:製造元=鈴木製作所、発売元=レプリカ
名称:コルト ガバメントM1911A1 /コルト コンバットコマンダー
主 材 質:耐衝撃性ABS樹脂
発火機構:カートリッジ内発火、サイド・ァイアー
撃発機構:シングルアクションハンマー
作動方式:PFCブローバック、疑似ショートリコイル
カートリッジ: PFカートリッジ(のちにインテンスシート追加)
使用火薬:7mmキャップ火薬
全長:219mm / 201mm
重量:500g / 500g
口径:.45
装弾数:7発
発売年:1981年(昭和56年)
発売当時価格:ガバメント ¥7,500 /コマンダー¥8,000(各カートリッジ7発付き)
バリエーション:
ガバメント=メタルフィニッシュ/ニッケルフィニッシュ 各¥11,500-
コマンダー=メタルフィニッシュ/ニッケルフィニッシュ 各¥9,500-
※ smG規格(1977年)以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー, イエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※ 全長や重量のデータはメーカー発表によるものです。また価格は発売当時のものです。
スズキは、たぶん多くの人にとってよくわからないモデルガンメーカーだろう。ボクもよく知らない。正式名は鈴木製作所だ。確か初めてその名を意識するようになったのは、プラスチック製の.357マグナムのブラックホークと.44マグナムのスーパー・ブラックホークからだったように思う。そして、その後プラスチックのガバメントとコマンダー、ワルサーPPスポーツ、最後に伝説的傑作ベレッタM92SBを作って、忽然と姿を消してしまった。わずか数年の活動期間。
しかし、何人かの古くからモデルガンを知っている方々に話を伺ったところ、もっと以前から活動していたことがわかった。今回はちょっと話がそれるが、鈴木製作所というメーカーにも触れてみたいと思う。
話は1960年代後半(昭和40年代前半)にまでさかのぼる。モデルガンは空前の大ヒット、売れに売れまくっていたという。シェア6割以上と言われたトップメーカーのMGC、1社だけで年間に25万挺ほどを製造・販売していたらしい。MGCは自社のほか、関連会社である新日本模型や島製作所(のちのKSC)でも分担して作っていたが、それでも追いつかないくらいの状態だったという。
その当時、おもちゃ問屋が集まる東京の蔵前でモデルガンを一手に扱っていた問屋が小茂田商事(コモダ)だった。そして、全国から寄せられる膨大な注文に対してMGCの供給体制(製造能力)に限界があることから、MGCの人気商品を参考にした類似品を密かに作り始めたらしい。その製造を担当したのが鈴木製作所だったようだ。
もともと鈴木製作所は玩具雑貨などを作っていた会社だそうで、自社で生産設備や加工・組み立て工場を持っていたわけではないらしい。しかし関連する会社をうまく使って製造から組み立て、パッケージングまですべてできた。それで、ノーブランドの指アクションのPPKやチーフスペシャルなどの金属モデルガンを作り、小茂田はそれで不足分を補った。
当然それはMGCの知るところとなり、小茂田が発注したのかはハッキリしなかったものの、小茂田にクレームが入った。それでPBSS(Produced By Suzuki Seisakushoの意)というブランドが作られたらしい。よくわからないところが作っているというわけだ。しかしMGCの追求は止まず、小茂田としてもMGCとのつきあいがあるから、おおっぴらに流通に流すこともできず、やがて手を引いてしまった。
そんなわけで、その当時はノーブランドやコモダ、PBSS、スズキなどのブランドが入り乱れていたらしい。
この辺からさらに推測の部分が多くなってくるのだが、1974年にはモデルガン製造協同組合ができて、加盟していないと流通に流せなくなった。販路を持たないスズキは困って、当時MGC以外のほとんどのモデルガンを手掛けていた六研の六人部登さんに相談した。モデルガン第二次法規制も迫る中、事業を拡大したいと思っていた六人部さんは「コピーではトラブルのもとになるから、どこも作っていないものを作ろう」と、プラスチック製シングルアクションアーミー(SAA)の製作を提案したらしい。
というのも、ちょうどこのとき六人部さんはこのプラSAAをCMCに提案していたものの、MGC以外はまだプラスチック製のモデルガンに懐疑的で、自社生産ではなく六研で作って納品してくれるならCMCで販売すると言われていた(月刊Gun 2011年1月号参照)。六研には量産モデルガン、特にプラスチックモデルガンの製造設備はなかった。どこか製造してくれるところが必要だった。スズキは製造・加工・組み立て・パッケージングまでが可能で、まさにピッタリだった。
ところが六研/ CMC初のプラスチックモデルガンは不良品が多く発生し、大変歩留まりが悪かった。そのためCMCが手を引いてしまい、余剰品が出た。それらはPBSS製として流通に流されたらしい。短期間作られたプラスチックのブラックホークとスーパーブラックホークに関してはコクサイのものに大変良く似ており、ほとんどのブラックホーク同様、WAカスタムをベースにした六人部さんの原型製作なので、今後コクサイに聞いてみなければわからないが、似たような事情だったのではないかと思われる。
1981年12月、ガバメントM1911A1のミリタリー・モデルを、PBSS製ではなく鈴木製作所製として発売する。原型製作はもちろん六人部さん。製造、組み立て、パッケージングが鈴木製作所だ。この企画を六人部さんがマルシンに持ち込んだらしい。そしてマルシンの直営店であるレプリカを総発売元として販売することになった。だからマルシンのPFCブローバックシステムが使えたわけだ。しかもマルシンが最初に導入した疑似ショートリコイルも取り入れていた。
これらの仕様は、明らかに1981年5月に発表されたMGCニューモデル5の1つ、ショートリコイルガバメント(GM5)を意識したものだろう。スズキがミリタリーモデルで、MGCがコマーシャルモデルといった違いはあるが、ほとんど同じ仕様だ。小林太三さんに対する六人部さんのライバル心が働いたに違いない。
六人部さんは何回もガバメントを作っており、データはあったはずだ。たぶんスピードを優先してM1911A1のミリタリーにしたのだろう。一方MGCは完全新規となる最新のMK IVシリーズ'70だったので、発売は1982年の5月になった。発表からほぼ1年後。一方スズキは1981年年末。たぶん12月のクリスマス&ボーナス期にあわせて発売したはず。フレームにあるダミーのシリアルナンバーが1091891になっており、これは逆読みで1981年9月1日(設計終了)のことかもしれない。とすれば、MGCの発表を見てから設計(原型製作)を始めた可能性は高い。しかも、わずか3カ月ほどで発売にこぎ着けたことになる。金型用の図面を起こして、金型を作り、テストショットから細部チェック、ブローバックテストなど経て修正、そして量産となるわけだが、それを3カ月ほどでやるとは。
ただ、PFCの原型は9mmサイズで、本作は初の.45口径。カートリッジも相当重い。製作精度の問題もあったのかもしれないが、作動はあまり快調とは言えなかった。そこでもまもなく、ガス漏れ防止と、発火ガス拡張スペースを小さくするインテンス・シートという円形のゴムシートが付属するようになった。しかし、それでも快調作動とはいかなかった記憶がある。
翌1982年、ちょうどMGCがショートリコイルガバメントを発売したころ、スズキはガバメントベースのコンバットコマンダーを発売する。ガバを加工してコマンダーにしたため手間がかかり、定価は500円高かった。
MGCのガバは定価が9,500円と高かったものの、ブローバックが非常に快調で、また実銃界でも人気のシリーズ'70だったこともあり大ヒットとなった。スズキのガバは影がかすんでしまった。
その後スズキは、やはり六人部さん原型のワルサーPPK/S、PP、PPスポーツなどを手掛け一定の評価を得るものの、当時最新モデルだったベレッタM92SBを最後にモデルガンの世界から手を引いてしまう。その後を期待していた人も多かっただけに、ショックは大きかった。
理由は、下請けの優秀な加工・組み立て会社が倒産し、モデルガンの製造を続けられなくなったからだと見られている。
スズキが手掛けた金型はすべてマルシンに引き取られたという。そして一部がセンター化されたりして改良版が発売されたりもしたが、時代はエアーソフトガンの方へ大きく動き出しており、それらが再びスポットライトを浴びることはなかった。
しかしスズキは確実に足跡を残した。本作もショートリコイルガバメントの第1号として忘れることができない。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:池谷立美
Gun Professionals 2014年3月号に掲載
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