2025/10/18
WALTHER TPH .22

Gun Professionals 2020年1月号に掲載

ワルサーの宝石
ワルサーのTPHをとうとう手に入れた。手頃な個体に長年出会えず、買い逃してきたモデルだ。極小のマウスガンではあるが、ワルサー製だけあって値段が安くなく、躊躇するうちに時間が過ぎていた。
地元のJacksonvilleにあるGuerrilla Armament(グゥリラ アーマメント:日本語でいえば“ゲリラ”)というショップを偵察中に遭遇だ。この店では以前、COLTの珍品、ボーダーパトロール(19年6月号参照)を掘り出している。
口径は.22LR。個人的には.25ACPモデルを狙っていたが、それほど強くこだわっていたわけでもない。箱も予備マグもなく、辛うじて取説だけは付く状態。税込みで470ドルくれという。程度は先ず先ず。この辺が落としどころかと決心した。
購入に際し、ハンガリーの軍用拳銃APK(19年2月号で紹介)を下取りに出した。それを200ドルで取ってもらい、残金270ドルを支払って手打ち。この店は、商品の値付けも下取り価格も至って良心的である。
自宅へ持ち帰り、手のひらへ載せて眺めるにつけ、ジワジワ喜びが湧いてきた。
非常に小型で薄い銃だ。各所のエッジがスパッと立っており、クールでシャープで凛々しい印象。数ある小型銃の中でもずば抜けて魅力があり、まるで宝石のように輝いて見える。SEECAMP 32と同等くらいに自分は好きだ。
が、嬉しさ余ってよくよく観察すると、フロントサイトに僅かなくぼみを発見。何処かにぶつけたか。それと、細かい擦り傷があちこちに…う〜ん、気にしない気にしない。中古なんだから多少のことには目をつぶろう。
TPH
TPHが誕生したのは1968年だ。結構に昔の銃だ。名称のTPHは“Taschen Pistole,Hahn” (Pocket Pistol, Hammer)の頭文字を取ったもの。
このモデルの以前に、ワルサーはTPという小型オートを出しており(1961〜71年に製造。口径は.22LRと.25ACPの二種)、TPHはそのインプルーブ版という位置付けで開発された。
ところが、せっかく誕生したTPHに暗雲がさす。68年の米GCA法の輸入銃規制により、米国市場への道が閉ざされてしまったのだ。大口の得意先を突然失ったワルサーは、さぞや無念で悔しかったろう。
その後、78年からインターアームズ社が米国におけるPPK/Sのライセンス生産を開始。暗雲のTPHも87年にようやく米国内での製造が始まって日の目を見た…というのが、この銃の大雑把なバックグラウンドだ。
本国ドイツ製はスライドがスティール、フレームがアルミ合金のブルー仕上げだったのに対し、インターアームズ製はご覧の通りオールステンレスの出で立ちだ。登場時の価格は350ドル。PPK/Sのステンレス版が499ドルの時代である。
ちなみにネットオークション等において、ブルーのドイツ版をたまに見掛けることがある。実は米GCA法が施行される直前(施行は68年の10月22日)、少数が滑り込みで米国へ入っているのだ。それらは正規輸入品であり、インターアームズの刻印が打たれている。聞けばクオリティは米国製より高かったらし
く、レア度も相まって現在の相場は軽く1,000ドルを超す。自分は現物を手にしたことは一度もない。基本、ずっとステンレス製しか眼中になかったから、見過ごした可能性は十分あるが。
TPH 22
何度でも繰り返そう。可愛い過ぎてたまらない銃だ。仕上げも上々。ドイツ製には敵わないにしても、十二分に美しい。もう、幾らでも誉め言葉を並べられる。
パッと見、明らかにPPKの小型版である。前章で書いた、モデルTPのインプルーブ版という表現はあくまでも手元の資料からの受け売り。TPはオープントップスライドの古風なストライカー式ピストルであり、自分の印象では完全に別物だ。やはりコイツは、PPKからスピンアウトしたミニチュア銃と見るべきだろう。
作動はシンプルなストレートブローバック。トリガーメカはトラディショナルなダブルアクションで、露出ハンマーをしっかり備える部分がまたたまらない。リムファイアの.22口径は一般に不発が多い。DAならそのままトリガーを引けば再トライが可能だし、ハンマーをコックして仕切り直すこともできる。
サムセイフティは無論、デコッキングを兼ねる。セイフティオンのポジションでファイアリングピンはセイフティレバーによって覆い被さるようにロックされ、同時にハンマーにはシアががっちり絡むため、例えハンマーに衝撃を与えたとしても発火することはない。コレはPPシリーズと同様の安全メカ。ワルサーが1930年に取ったパテントである。ただし、さすがにここまで銃が小型だと、セイフティレバーも必然的に小さく薄くなり、操作性が落ちるのはやむを得ない。実際、デコッキングはまだ良いのだが、ハンマーダウンでセイフティをオンする場合は鬼のように固くて往生する。なお、DAメカはPPシリーズとは微妙に異なり、コッキングピースは介さないダイレクトな方式になっている。特徴として、セイフティオンでもトリガーはPPのようには固まらず、スカスカな空引き状態となる。コレはセイフティレバーがリリースレバーを押し下げることで、シアとトリガーバーの連動が絶たれるからだ。
ワルサー名物のトリガーガードが分解ラッチを兼ねる構造も健在なら、リコイルスプリングのバレル被せもしっかりと踏襲。
マグキャッチに関してはPPシリーズとは異なり、ボトム式とした。コレだけ小型になるとサイドのボタン式はかえって使いにくい。加えて、常時携帯する護身銃として不用意なマガジン脱落を避ける意味合いもあっての仕様だろう。
そして、PPKよりも少しだけ優れた点もあったりする。それはトリガーガードだ。コレが分解ラッチを兼ねるのは既に述べたが、TPHの場合は根元の内側に突起が付いており、マガジンが挿入された状態ではその突起が邪魔をしてトリガーガードは外れないようになっている。発射の衝撃でコレが外れてスライドがすっ飛ぶなんて取り越し苦労は要らないわけだ。なお、初期のモデルはこの限りではなく、86年以降からの改良とのこと。なので米国製はすべてこの仕様のはずだ。
巷を眺めると、過去にはコピー品もまま出たようである。Steel City ArmsのDouble Dueceなどがその例だ。コイツはインターアームズの米国製よりも2年ほど先に登場。それも、ステンレスでだ。恐らく、幻のドイツ製TPHに惚れ込んだ設計者がいたのだろう。実物は見た事が無いが、それはそれで楽しく、欲しい気がする。
右:ハンマーは、セミ、ハーフそしてフルの三段階コック。チビ拳のクセに細か過ぎる造りが泣ける。幅は6.9mm。軽量化の穴がかなり大きく、ハンマー打撃面の肉厚が薄いのだが、無論、計算済みの処理だろう。


