2025/10/21
FNH SCAR S-C サブコンパクトアサルトライフル【動画あり】

Gun Professionals 2018年7月号に掲載
開発から半世紀を経たMP5の後継として、近年各社がサブマシンガンの開発を進めてきた。しかし、現在サブマシンガンの市場は小さくなっている。サブマシンガン並みのサイズに切り詰めたサブコンパクトアサルトライフルが登場してきたからだ。その中でもFNハースタルが市場に投入したSCAR S-Cは、単なる切り詰めモデルではない。SCARを発展改良したものなのだ。

このSCAR S-Cを実際に目にしたのは3月のドイツEnforce Tacの会場での事だった。製品の発表は昨年11月のMiliPol(ミリポール)2017で行なわれた。ミリポールはフランス国内では大きなイベントではあるが、新作の小火器が発表されることは珍しい。こういうときに限ってミリポールの取材には行けなかった。以前お伝えしたメキシコ出張と被ったため、ミリポールの取材をやめることにして準備が整ったところにFNHからのSCAR S-Cのプレスリリースが届いた。なんというタイミングだ!
そんな経緯もあり、SCAR S-Cの現物をやっと手にできた。コンパクト好きな筆者としてはスタイル的にもSCARの中で一番しっくりくると感じる。そしてFNHの担当者に話を聞くと、このS-Cはショートバレル化しただけのバリエーションでなく、アッパーレシーバーはほぼ新設計だという。射撃時にチャージングハンドルは動かず、固定されており、SCARの唯一の欠点を改良している。単なるバリエーションであればEnforce Tacのレポートで完結してしまうのだが、この改良はちょっと気になる。会場で「フランスへは納入されているのか?」と聞くと、すでに数挺納入しているという。ならばフランス国内で射撃ができるかもしれない。この実射のためにまたベルギーに行くというのもちょっと荷が重い。
FNHブースを離れて少し歩くとタイミング良くフランスのディストリビューターであるTR Equipement(TR エクイップメント:“Equipement”であって“Equipment”ではない)の社長テリー・ロジェを発見。挨拶もそこそこにSCAR S-Cを撃たして欲しいと伝えると笑顔でOKしてくれた。テリーはすでに数挺を、モナコ大公を直接警護する部隊に納品したという。一般の衛兵と差別化したいということらしい。大公の警護なので目立たないSMGサイズとしながら、より強力なライフル弾を発射できる銃を必要とし、このSCAR S-Cに飛びついたと言う。納品したモデルはフラッシュハイダーをAR-15でスタンダードなA2フラッシュハイダーに変更している。これはB&Tのサプレッサーと共に納品するためで、TR Equipementによる改造が施されたモナコ公国大公親衛隊モデルと言っていいだろう。
口径:5.56×45mm(.223Rem)
オペレーションシステム:ガスピストン
全長:ストックを伸ばした状態:653mm
ストック収納状態:536mm
バレル長:190.5mm(7.5")
装弾数:30+1発
重量:3,150g
発射サイクル:550~650発/分
フラッシュハイダーもSCAR S-C専用で切り欠きが短い。フラッシュハイダーとしての役目を果たしているかは後の実射シーンで確認していただこう。チャージングハンドルがやや垂れ下がって見えるのが、デザイン的には美しさに欠けている。初めて見たとき取り付けを間違えているのかと思ったほどだ。但し、この角度の理由は使ってみるとすぐに判る。左手でチャージングハンドルを掴むとき、その手首の角度が自然で、実に操作し易い。セレクターの操作角度は45°で、M4(90°)と比べて素早く操作できる。アッパーレシーバーには“FN SCAR S-C MALTI CALIBER”の文字が見られる事から今後の展開に期待が高まる。
準備が整った4月中旬パリから300kmほど離れたアンジェにあるTR Equipementのヘッドクォーターに向かった。同社はオフィス、ショールーム、そしてなによりフルオートが(法的に)可能な射撃場を持つフランスでは珍しい規模の大きな組織である。このSCAR S-Cと同時にヨーロッパで発表されたストライカーピストルFN 509も同時に撮影させてもらうことが可能となり、今回と次号にわたりお伝えすることにする。
テリー曰く、このSCARのショートモデルは8年ほど前にアメリカで射撃した経験がある。その時にすぐさまフランスに戻ってFNHに発注するも「存在しない」と言い続けられた。おそらくバリエーションとしてショートバーションも作られてはいたが、何らかのトラブルがあったのか(バレルが短いとガスピストンの場合そのままでは誤作動を起こすことがある)、または別の理由で正式発表はこのときまで待たなければならなかったというわけだ。
FNHは半国営企業と言う事もあり製品展開に関しては非常に慎重だ。流行などに瞬時に飛びついて矢継ぎ早に新製品を出すというよりは深く吟味し、製品を熟成させてから市場に送り出す感じだ。そのためFNの製品はトラブルが少なくMINIMIのように世界標準ともいえる製品を出してくる。時にはF2000のような斬新なモデルを出す。F2000は成功しているとは言い難いが、ライフルとしての信頼性は高い。
そうやって生まれてきたSCAR S-C。ボルトとチャージングハンドルを独立させたノンレシプロケイトタイプにすると、心配になるのはボルトが閉鎖不良を起こした場合の対処だ。AR-15はご存じの通り、ボルトを強制的に閉鎖させるためのボルトフォワードアシストが追加されている。初めてS-Cを手にしたEnforce Tacの会場で、FNHの担当者にその疑問を投げかけるとボルトとチャージングハンドルが離れた状態でボルトが閉鎖不良を起こした場合、ボルトがどの位置にあってもチャージングハンドルがボルトとのコネクションを復活させ、ボルトを閉じることも開けることもできる対策が施されているというという回答を得た。この機能を持ったライフルは他にもあるが、さすがはFNH、隙はない。
バレルがショート化されたことで、ピストンにも変更が加えられている。ピストン径が拡大されて短時間に多くのガスを得られる配慮がなされているのだ。
ストックは折り畳み式からテレスコピックタイプとなったことで、レシーバー側面にストック収納用のレイルがある。しかし、エジェクションポートの後方にはディフレクターがあるため、そのストック収納用のレイルは長さが制限されてしまう。そこでストック後端のラバーパットを厚くして対処している。厚みのあるパットにはショックアブソーバー効果があり、リコイルを軽減して射撃時の操作性を向上させている。

このSCAR S-Cのアッパーレシーバーの刻印には”マルチキャリバー”の文字がある。フルサイズのSCARには、SCAR-LとSCAR-Hがあり、それぞれ.223Remと.308Win.に対応するのだが、このS-Cに.308Winはあまり実用的ではないので、今ヨーロッパでも注目されている.300BLKあたりが用意されているのだろうとミリポールの時に報道されていた。FNHはまず最初に300Whisper対応モデルをこの夏にリリースするという話をテリーから聞いた。FNHからのアナウンスはまだ無い。この.300BLKと.300Whisperは似ているものの、微妙にサイズが違うので厳密に互換性はないとしているようだ。FNHは300Wisperを選んだのだ。
射撃場に持ち込んだのはTR Equipementのデモ用のSCAR S-Cで、ダットサイトなども搭載済み、すでに何百発も実射されているモデルだ。この訪問の直前にTR Equipementはかなりまとまった数のアモを受注し、倉庫のアモはすべて出荷済み。しかし、今回のデモ用にフルに装填されたマガジンが4本だけ用意された。すなわちアモは本日120発しかない。それでも撮影とその実射感覚を把握するのには十分だ。
そこで射撃を開始したのだが、排莢はするものの、次弾がチェンバーに装填されない。ボルトがマガジンのアモを拾わないのだ。何度か試すが同じ症状だ。FNの製品に関してこんな事が起こるはずがない!?マガジンにトラブルがあるのではないかと考え、マガジンからいったん弾を抜いて5発だけ装填してみた。そして改めて撃ってみた。しかし、まったく改善しない。シューターとしてこの取材に対応してくれていたクリストフと頭を抱えてしまったが、ふたり同時に答えが閃いた。ガスアジャスタブルを確認する。やはり、サプレッサー使用時のセッティングになっていた。射撃に先立って銃の細部を撮影しようと分解したのだが、組み立て時にアジャスターを正しい位置にしなかったのだ。
これは完全に人為的ミスだ。指定の位置にアジャスターを切り替えれば、問題なく射撃ができた。まずはセミオートで射撃、その後、フルオートに切り替える。今、数多く出回っているアサルトライフルより少し遅いサイクルのフルオートだ。これはSCARの特徴でもある。サブコンパクトになってもこれは変わらない。”なるほど!これは確かにSCARファミリーだ”と感じる。
右:ストックの伸縮はレバーを右側から押し込む事でロックが解除される。完全に閉じた状態からストックを引き出した最初のポジションがここ。ボディーアーマーやタクティカルベストなどを着ているときはこの位置が良いだろう。そしてさらに引き出すことで、フルエクステンションとなる3段ストックだ。


