2025/09/27
タナカ SIG P229 エボリューション2 オールヘビーウェイト

モデルガンで唯一357 SIGカートリッジ仕様で作られているのがタナカのP229。そのボトルネック形状がなんとも新鮮だ。また現行のSIG SAUER P229とは大きく異なる“レガシースライド”デザインも、この製品の魅力となっている。
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40 S&W弾がS&Wとウィンチェスターアムニッションから発表されたのが1990年だ。9×19mm(9mmパラベラム)では犯罪者を確実に無力化することができず、反撃される恐れがあると考えられていた当時、銃自体のサイズは既存の9mmオートのままで大口径化、高威力化が図れる40 S&Wは、法執行機関関係者の間で大いに注目を集めた。
実銃の場合、短い357 SIGが長い357 Magnumに匹敵するパワーを持っている。これは19世紀後期からの段階的進化流れで.38口径リボルバーカートリッジは、その全長を長くしていかざるを得なかったということだ。
これを受けて各銃器メーカーは、既存の9mmオートのバリエーションとして、40 S&W仕様を発売し、この需要に素早く対応している。SIG SAUERもそのトレンドに乗り遅れまいとP226やP228の40 S&W仕様を製品化するべく動き出したが、これらのモデルは40 S&Wに対応させると耐久性が不十分であることが判明した。
P220以降、SIG SAUERとして開発したセミオートピストルは、そのスライドカバーの製造にヘビーゲージのシートメタルをプレス加工して“コ”の字型に曲げて、そこにブリーチブロックを組み込むという画期的な手法を採用していた。これはStamped Steel Slideと呼ばれる。9×19mmや45ACPであれば問題はないものの、新しい40 S&Wを使用すると、発生する高圧によって“コ”の字型に曲げて作ったスタンプドスチールスライドが、やがて“ハ”の字型に広がってしまうという問題だ。
これに対処するべく、SIG SAUERは40 S&W対応モデルはスチールブロックから削り出しでスライドを製造する昔ながらの手法に回帰することにした。削り出しとはいっても従来の切削工法とは異なり、CNCマシンを駆使することで、高精度のスライドを容易に作り出すことができるし、コストもそれほどアップしない。
こうして1992年に作られたのがP229だ。ステンレスビレットから削り出したスライドを黒く塗装し、40 S&W対応モデルとしている。1992年におけるスタンプドスチールスライドP228の価格が$805であったのに対し、新しい削り出しスライドのP229は$875と少しだけ価格アップとなったが、強化型スライドだと思えば、納得できるレベルだろう。ちなみにS&Wの40 S&Wモデルである4054は$629なので、SIG SAUERはやはり割高ではあった。
これを製品化する過程で、SIG SAUERはフェデラルアムニッションと共同で新しい弾薬を開発していた。40 S&W弾をネックダウンし、9mmの弾頭を装着した357 SIG弾だ。小口径化することで弾速が上り、威力も増す。125grの弾頭を1,475fpsまで加速するとそのエナジーは604ft.lbsに達する。これは357マグナムの125gr、1,450fps、583ft.lbsを凌駕するパワーだ。

SIG SAUERは1994年に357 SIGを発表、まずはP229に採用したが、これを普及させるべく、P226等にも展開していった。この時期、SIG SAUERは既存のモデルもスタンプドスチールスライドから切削加工スライドに切り替えを進めており、P226でも357 SIGや40 S&Wに対応できた。
9×19mmをパワー不足だと感じ、40 S&Wに切り替えていた法執行機関が、今度は357 SIGへの雪崩のように移行する…とSIG SAUERは目論んでいたのかもしれないが、現実は違った。シークレットサービスは357 SIGのP229 DAK、フェデラルエアマーシャルも357 SIGのP229を採用したのをはじめとして、複数のポリスデパートメントでの採用を勝ち取ったものの、その動きはそれほど大きな広がりにはならなかった。グロックはG31, 32, 33と357 SIG対応モデルを発表したが、他のメーカーで目立った動きはないままとなっている。
新しい弾薬が普及するかどうかは、その弾薬を採用するガンメーカーが増えることが大きなカギだ。そうなることで弾薬の需要が増え、コストダウンが図れる。消耗品である弾薬は価格が安いことが重要だ。40 S&Wと比較して、約14%のパワーアップが期待できる357 SIGは新たなトレンドになり得るものであったが、少しだけ市場のニーズを読み違えていたように思える。
9×19mmのパワー不足に対し、40 S&Wが登場普及したことで、当面の問題はクリアしてしまったのだろう。4年遅れで“さらにパワーアップしました”といわれても、多くのユーザーは既に空腹を満たしていたのだ。
自分は1990年代半ば、アメリカに出張するたびにいろいろなモデルを撃っていた。当然、P229の357 SIGも試している。単なる的撃ちであり、パワーの違いなどをテストしたわけではないので、特別感銘を受けることはなかった。それより9mmに比べて弾薬が割高であることの方が気になった。結局のところ、357 SIGは思ったほど普及せず、その結果、弾薬価格が下がらないまま一部のパワー志向のユーザーにのみ愛好されただけだったということだ。
タナカがP229のガスブローバックエアソフトガンを発売したのは1996年後半のことだ。エアソフトガンなので、口径の違いは機能的にあまり意味を成さないということもあり、製品化されたP229は9mm仕様とされていた。
それから四半世紀近くが経過した2021年3月、P229がモデルガンとして、再びその姿を現す。それもなんと357 SIG仕様での登場だ。実銃の357 SIGは思ったほど普及しっていないが、モデルガンにおいては全く別の話っであり、なんといっても新鮮に感じる。タナカとしては、一連のP226、228をモデルガン化してきた流れの中で、229も加えようというとき、同じ9mmでは面白くないと思ったのだろう。そこでわざわざ357 SIGカートリッジを開発したのだと推測する。
実銃のP229は、2009年頃にモデルチェンジがおこなわれ、P228と同じデザインのスライドが導入されると同時にワイドマガジン化されている。これをモデルガン化するのは大変な事なので、それ以前のP229の製品化は正しい判断だろう。タナカは357 SIG仕様最初期の1994年モデルを再現した。
2021年モデルはフレームHWで、その他の主要パーツは特殊強化ABSとした。一方、今回発売のP229はオールHW(バレルのみ特殊強化ABS)となっている。旧タイプのマッシブなスライドデザインはP226やP228とは違ってなんとも新鮮だ。作動性能や耐久性はP226, 228で実証済み、このP229も撃って遊べるモデルガンに仕上がっている。

タナカ
SIG P229 エボリューション2 オールヘビーウェイト
全長:178mm
重量:約696g(カートリッジ別)
マガジン装弾数:10発
主要材質:HW樹脂+亜鉛ダイキャスト
付属品:357 SIG 快音Evolution 2カートリッジ 5発
仕様:5mmキャップ火薬使用ブローバックモデルガン
価格:\43,780(税込) 2025年10月中旬発売予定
お問い合わせ先:タナカ
Gun Pro Web 2025年11月号
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