2025/08/02
【NEW】Time Warp 2004 Tanio Koba VP-70M タニコバさんの再挑戦
池上ヒロシ あきゅらぼ www.accu-labo.com
MGCが1982年にモデルガンVP-70を製品化した際、完全に機能する3ショットバーストを組み込むことはできなかった。設計者である小林太三さんは、22年後、これをガスブローバックで実現させている。VP-70Mの製品化は、3ショットバーストに対する小林さんの再挑戦だったのだ。
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全長:210mm(ストック装着時:545mm)
重量:842g(ストック装着時:1,374g)
装弾数:27発
発売当時の価格:フルセット¥28,350
単体価格 本体\17,800、ストック¥12,600、ハーネスプレート ¥1,680
(すべて税込:当時の消費税は5%)
スチールプレス製スライドと、グリップのフロントストラップに控えめなフィンガーチャンネルと左側面にサムレストのあるポリマー樹脂製グリップフレームを組み合わせたモデルがVP70初期型だ。1982年に製品化されたMGC VP-70は、これを再現したものだ。
その後、VP70はスライドのデザインをシンプルな縦セレーションとし、グリップもフィンガーチャンネルとサムレストを排した握りやすい新型に変更している。
しかし、ごく少数のみ、旧型スライドと新型グリップフレームを合体させたトランジションモデルが存在する。タニオ・コバではVP-70のガスブローバックを製品化する際、このトランジションモデルのデザインを採用した。
製品名のVP-70M、このMはMilitär(英語ではMilitary)を意味する。
小林太三さん、通称タニコバさん。言わずと知れた日本トイガン界におけるレジェンド設計者だ。MGCから独立して立ち上げたタニオ・コバから、エアガンメーカーとして自社ブランドのエアガン第一弾として発売されたUSP、第二弾の10/22、そしてこのVP70は第3弾の製品ということになる。

3機種目といっても途中にブローバック裁判があるため、長期間の空白がある。ただその空白期間、何もしていなかったわけではない。裁判中であっても莫大な供託金(裁判に勝てば返ってくるお金)を払うことで製品を作り続けることができた唯一のメーカーである東京マルイのガスブローバック設計に大きく関わっていた。この事は、タニコバさんから直接お話をお聞きしている。
その時、設計者であるタニコバさん自身が「アレは時代の流れを変えた傑作だった」と述べていたのが、東京マルイの初期ガスブロ製品の一つであるG26だ。マガジンを亜鉛ダイキャストのカタマリで作ることによって、熱容量が多い、つまり連射してもガスが冷えにくいという特徴を持っている。その結果、「小さいのにスゲーやつ」と当時、評判になった。
この、マガジンの材質についても、トイガン界に長く関わり続けてきた設計者という立場の人でもなければ出てこない話をたくさん伺うことができた。MGC時代のエキスパートピストルやタニオ・コバUSPを作っていたころは「マガジンの外観は、実銃が鉄板プレスであるなら同じようにプレス外板で覆われているべきだし、実銃マガジンが樹脂製ならば同じように外観は樹脂製でなければだめだ」というような風潮がまだ多く、ガスガンとして作る上では明らかに性能的に優れているハズの亜鉛ダイキャスト製マガジンに対する忌避感が強かったのだという。
しかし作る側としては、明らかに性能が良くなる亜鉛ダイキャストのカタマリでマガジンを作りたいというのが本音だ。どうやってユーザーの意識を変えるか? 誰が撃っても納得できるだけの圧倒的な性能差で納得させるしかない。G26はその難しい役目を果たしてくれた。エアガンユーザーの“こだわり”、言い換えると“マニアの思い込み”を正攻法で真正面からぶち抜いてひっくり返してくれた切り込み隊長みたいな存在だったのである。
今では、リキッドチャージ式のガスブローバックに使われるマガジンであるならダイキャストむき出しになっているのが当たり前だが、これはG26の成功があってこそのものなのだ。
VP70は、G26のおよそ4年後に発売された製品だ。エアガンメーカーとしては休止していた時期に、他社製エアガンの設計を請け負うことで積み重ねてきたノウハウをこれでもかと注ぎ込んだ意欲作になっている。
もちろんマガジンは亜鉛ダイキャスト製で、冷えに強く連射にも耐える。実銃はストライカー式のDAオンリーであるところを、グリップ後部にある小さな隙間にハンマーを隠すように配置しているのも、グロックから継承されている仕組みだ。

ブローバックエンジンも最新型のものが搭載されている。スライドを後退させる力を生み出すのはピストンにかかるガス圧であり、使用するガスが同じでガス圧(P)が一定である以上は、後退力(F)を増やそうとするならピストン内径(A)を増やすしかない(はるか昔に習ったはずの「P=F/A」という公式を思い出してほしい)、ということでスライド内に収まる範囲でほぼ限界まで内径を大きくしたピストンを埋め込んだハイスピードブローバックエンジンは、現代の目で見ても「ほぼ完成形」と呼べるものだ。


そして忘れてはならないのが、VP70ならではの独自メカニズム、つまりストックを取り付けることで3ショットバースト射撃を可能にするシステムの再現だ。
こちらのメカニズムについては他に真似できるものも参考にできるものもない、あえていうなら大昔に設計したMGCのモデルガンが先達ということになるが、これについてはご存知の方も多いと思うが、結局のところ、VP-70の3ショットバーストは“モデルガンでは再現することは不可能”として諦めるしかなかった。当時はモデルガン規制の変革時期で、自粛要請が極めて厳しかったこともあり、使える素材や構造などには大きな制約があって、十分に作動要求を満たせる信頼性は得られなかったのだ。結局、3ショットバースト機能を組み込んだVP-70専用ストックは、“完全に作動はしない未完成品”であることを前提として、ごく少数のみ販売された、今となっては激レア品となってしまっている。
目指す性能を満たす製品を完成させることができなかった――タニコバさんには長年、その悔いがあったという。
「このVP70は、MGC時代に作ったVP70モデルガンのリベンジです」
このタニコバさんの言葉は、当時の記事などには何度も出てきた有名なフレーズだ。



