2025/09/12
トランプ関税が銃器市場へ与える影響予測 2025年9月12日時点

ドナルド・トランプ大統領は2025年4月2日、輸入品に対し、“相互関税”を適用することを発表した。これはすべての国からの輸入品に一律10%のベースライン関税を課すことに加え、アメリカが貿易赤字となっている約60の国と地域に対して、異なる税率を上乗せするというものだ。上乗せ税率は、EU20%、中国34%、日本24%(その後に25%に変更)と極めて高率であり、これを貿易戦争と捉えた各国で株価が急落するなど、アメリカを含む世界中の金融市場が大混乱に陥った。
この事態が想定外だったのかはわからないが、トランプ大統領は相互関税を4月10日から90日間、中国を除く56の国と地域に対して停止し、ベースライン関税の10%のみを適用すると発表した。この停止期間に相互関税の対象とされた各国は、個別にアメリカと交渉をおこなった。その後、停止期間はさらに1ヵ月延長されている。
これは第二次大戦以降、アメリカが主導してきた自由貿易体制が揺らぎ、世界経済は大きな転機を迎えたことを意味する。IMF国際通貨基金はこのトランプ関税に対し、「世界経済の見通しにとって重大なリスクである」と警鐘を鳴らした。
このトランプ大統領の関税政策は、彼自身が38年前から主張してきた“日本やヨーロッパからの輸入品の拡大がアメリカの産業を衰退、空洞化させており、関税こそがその状況を逆転させる手段”という論理に基づくものだ。そして、アメリカ製品が諸外国で売れないのは、“それぞれの国が不当な貿易障壁を設けているため”としている。
その障壁のひとつが付加価値税(VAT:Value Added Tax)で、これは世界175ヵ国が採用しており、日本の消費税もこれに相当する。アメリカにも一見するとよく似た売上税(Sales Tax)があるが、これは商品を購入した消費者だけが支払うものであり、VATのように輸入時にも課税されるものではない。トランプ政権は、諸外国のVATや輸出業者への補助金、そして各国の安全基準などをすべてアメリカ製品に対する非関税障壁と見做し、これに対抗するべく“相互関税”の適用を主張してきた。
世界経済が大混乱に陥った4月から約4ヵ月、各国はトランプ政権との個別交渉をおこない、紆余曲折の末、多くの国が4月2日の発表より低い関税率で合意に至っている。そして7月31日、トランプ大統領は新たに設定した相互関税に対する大統領令に署名、これにより7日後の8月7日から新たな関税率の適用が始まった。
EU諸国は関税率30%から15%に半減、日本も当初の24%から15%とした。しかし、それはアメリカへ多額の投資やアメリカ製品の輸入拡大を約束するなど、様々な取引が成された結果だ。日本は5,500億ドルもの対米投資を約束されられている。一方で、スイスは31%から39%へ、ブラジルは10%から50%へと税率を引き上げられた。
但し、このトランプ関税が今後、そのまま継続されるかどうか不透明な状況だと言わざるを得ない。今回の全世界に対する関税措置は国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動されたものだ。IEEPAは国家安全保障、外交政策、経済に対して“異常かつ特別な脅威”が生じた場合に、大統領が緊急事態を宣言し、通商や金融取引を規制する権限を持つというものではある。しかし、アメリカの国際通商裁判所 (Court of International Trade:CIT:国際通商裁判所)は、5月28日にこの追加関税を違憲と判断、連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit:CAFC)も8月29日、一連の関税措置の大半を違憲とした。これは簡単に言ってしまえば“関税の発令は連邦議会にその権限があり、大統領の判断でおこなえるものではない”というものだ。
これを不服としたトランプ大統領は9月3日、最高裁に上告した。最終的な結論がでるまで関税は継続されるが、もし最高裁がこれを違憲と判断して結審した場合、徴収した関税は払い戻しになると同時に、一連の相互関税のほとんどは無効となる。各国が時間を掛けて交渉したことのほとんどすべてが無駄になるのだ。
既にアメリカは今回の相互関税適用前の駆け込み輸入などで輸入量が拡大、4月以降、8月初旬までの関税収入は約960億ドル(約14兆1千億円)に達している。これがs最高裁の判決が出るまで膨らみ続け、最終的にそれが全額払い戻しとなればその額は膨大なものとなって国家財政に壊滅的な影響を及ぼす恐れがある。
いずれにしても9月10日、最高裁はトランプ大統領の上告を受理し、迅速に審議することを決めた。11月には口頭弁論がおこなわれる予定だ。
私は経済の専門家ではないどころか、この分野への知識が全くない者であり、とてもこのトランプ関税について論ずることはできない。しかし、銃器市場が今後、どのように推移していくかには注視している。市場の活性化は魅力的な銃器を生み出し得る一方、市場の衰退は新たな製品開発を阻むものだからだ。
このトランプ関税がどのような影響を銃器市場にもたらすかについて、ネットを検索してもそれについて語っているものがほとんど見つからなかった。となれば自分で書くしかない。とはいえ、自分はあくまでも単なる“銃器愛好者”であり、銃の来歴や性能、機能について論ずることができても、市場動向予測について語ることは難しい。それでも2025年9月上旬における、推測される銃器市場の今後について語ってみようと思う。銃器専門Webマガジンとして、このことを静観しておくべきではないと感じるからだ。しかしながら、今回書いた内容が大外れとなる可能性があることは、予めお断りしておきたい。
尚、Gun Proは政治的な内容には触れないことを原則としている。よって今回のトランプ関税に対する批判、あるいは肯定をここに書くつもりはない。あくまでも客観的な事実を述べるに留める。部分的には私見も含まれるが、それは必要最小限としている。
トランプ関税に対するアメリカ銃砲業界の反応
2025年4月号のSHOT SHOW 2025の記事冒頭でも書いた通り、アメリカの銃砲業界は基本的にトランプ大統領を支持している。それはバイデン前政権が銃規制推進という姿勢を貫いてきたのに対し、トランプ大統領は、銃規制強化をおこなわないことを明言している、というシンプルな理由に基づくものだ。だからといって、トランプ政権のおこなう施策すべてを盲目的に支持するということではない。
4月2日に相互関税の発表がおこなわれた時、世界中が驚愕し、経済の先行きに猛烈な不安を覚えた人は多かった。それは世界中で株価が急落したことからも明らかだ。そしてU.S. Chamber of Commerce(全米商工会議所)やConsumer Technology Association(消費者技術協会)、National Association of Manufacturers(全米製造業者協会)などが、“この相互関税は経済の発展に有害だ”という趣旨の反対意見を発表している。
アメリカの銃器業界も公式発表ではないが、The Firearm Industry Trade Association(銃器産業貿易協会:別名NSSF:SHOT SHOWの主催団体)が、“関税と貿易戦争の脅威の高まりが製造コストの上昇を招き、業界の経済成長を阻害する。これは消費者需要の減少につながり、既に低迷している市場をさらに悪化させる”という懸念を4月の段階で会員向けに述べている。これはトランプ大統領の政策への批判であり、これは極めて異例のことだろう。
その後に相互関税の適用が一時停止され、7月末に一部の国を除けば4月2日の発表と比べて大幅に関税率は低下、世界経済は最悪の状況から少しだけ抜け出しつつあるといえるかもしれない。
NSSFからはその後、この関税に関する公式なコメントはでていない。また全米ライフル協会(NRA)も沈黙を守っている。
本件とは全く関係はないが、NRAはトランプ政権の“トランスジェンダー銃器保有禁止案”に9月5日反対声明を発表した。
“The NRA supports the Second Amendment rights of all law-abiding Americans to purchase, possess and use firearms,”(NRAは法を遵守するすべてのアメリカ人が銃器を購入、所持、使用する憲法修正第二条に基づく権利を支持する)
これはNRAにとって極めて異例のことだ。トランプ政権の強力な支持母体として知られているNRAも、トランプ政権のおこなうことに常に追従するわけではないということを意味している。


