2025/09/11
ASTRA .357 MAGNUM【今月の、どマイナーWORLD!7】

Gun Professionals 2014年11月号に掲載
アストラといえば、コンスタブルとかカブ、あるいはチューブラーピストルを思い浮かべるが、こんなリボルバーも作っていた。例によってS&Wともコルトとも言えない、中途半端な雰囲気の製品だ。この“ラテンっぽさ” 全開の姿に、思わずゾクゾクしてしまう。
このコーナーにも、遂にマグナムが登場する運びとなった。
スペインはアストラ社の中型DAリボルバー、その名も“357マグナム”だ。口径は無論、357マグナムである。アストラと言えば一番にオートを思い浮かべるが、こーゆーのもせっせと造っていたのだ。
まあ見てくれ、このコルトのようなS&Wのような、トルーパーみたいなモデル19みたいなどっちつかずの雄姿を!
6インチというバレル長が、まずは派手で嬉しいではないか。マグナムリボルバーとしての主張は充分。まるで三流のアクション映画をけだるい日曜の午後に眺めるようなゾクゾク感が全身に漂っているぞ。
ぶっちゃけ、サムラッチにリアサイト等の基本的な装備、そして内部メカに至るまでまんまS&Wのコピーであることは火を見るよりも明らか…でありながら、パーツ一個一個の造形はことごとく大味で、なぜかコルトにありがちなアクの強さみたいのが漏れ出ちゃってる様子がゾクゾクなのだ。思えば、ロッシーにしてもトーラスにしてもラーマにしても、S&Wのコピーのワリにはどれもアクの強さは飛びっ切りだけどね。
登場は72年と手元の資料にある。そして、87年には生産終了だ。初期はワシントンDCのGARCIA社が輸入元となっていたが、後半はバージニアのインターアームズに権利が移った。6インチの他に、4及び3インチ銃身も存在する。2.5インチじゃなくて3インチって部分は、昔にしては結構オシャレではと思う。
発見は行きつけのガンショップ、お値段は299ドルだった。箱等の付属品は一切なく、けれど本体は極上のコンディションなので一応納得。製造年は73年の模様だ。スペインの銃はシリアル番号のイニシャルから年代が分かる仕組みになっている。ちなみに、73年当時の価格は110ドル。モデル19が150ドル、トルーパーが149.95ドルの時代である。
フレームはモデル19よりも大柄で厚め。トルーパー並みのボリュームがある。握った感じもバランスも、モデル19よりはトルーパーに近い。重量を比較すると、コイツが1,189gで、モデル19の6インチが1,106g、トルーパーが1,217gだ。シリンダーの太さは、コイツが40mmで、モデル19が36.9mm、トルーパーが39.4mmという数字。コイツが一番頼もしい。また、カウンターボアードやらバレルピンといった、レトロ派好みの装備も充実だ。
肝心のトリガーアクションのほうは…ストロークがやや長く、モデル19というよりはLフレに近い感触。ガサツさは一切無く、ロックも確実で結構上々だ。なお、ハンマーにノーズは付かず、フレーム側にファイアリングピンを設置する方式を取っている。
それで、だ。自分的にこの銃で一番グッと来たのは、フレームのヨークが収まる辺りの妙なラウンド感である。実に特徴的で変な形。しかもコレ、ヨークとフレームが面一になるよう、ヨークを差し込んだ上からワザワザ念入りな磨きを施してあるのだ。
こーゆー、要らんところにコストを掛けているのである。本来コピー銃は、低コスト一辺倒で割り切るのが常套コンセプトのはずなのに、不必要な意地を張っちゃってるところが、三流企業の哀しいサガというか限界というか、世界をリードするプロダクツを生み出し切れない温床になってたのではと勘ぐられてならない。
まあ、そーゆー残念な製品を、お金も無いのに面白がって買ってる自分も自分だが。
コストの点ではもう一つ。コイツは、S&Wで言うところの5スクリューモデルだ。トリガーガードの前とサイドプレートの上部にもネジが見える。S&Wでは、コスト削減の目的で徐々にネジを減らして最終的には3つに落ち着いたワケだが、コストを下げたいはずのコピー銃で高コストな仕様を真似る必要はなかったろう。
ただ、アストラ社がS&Wリボルバーのコピーを作り始めたのは、手元の資料では1958年のCADIX(Jフレームのコピー)が最初だ。その時期、S&Wは5スクリューだったから、その流れのままバリエーション展開をした可能性は高いのだが…。
あと、少し残念なのはグリップか。S&WのKフレとの互換性が微妙にないのだ。微妙というのは、アウトラインは一緒なのに、グリップピンとグリップスクリューの位置が違うのである。S&W側のグリップピンさえ抜けば、アストラのグリップを付ける事は可能。が、その逆は、グリップスクリューがフレームに当たって無理なのである。誠に惜しい。余談ながらこの一挺、銃本体は程度極上なのに、グリップだけ擦れているのが謎といえばナゾで。
ざっとこんなところだ。
とどのつまり、S&Wの繊細さにコルトの野性味を混ぜて独自性を出したつもりが、結果的にS&Wのリボルバーから繊細さが抜け落ちた製品が完成してしまった具合か。まあそれでも、基本憎めない、愛すべきラテン系マグナムではあると自分は思う。
購入直後、リアサイトの動きをチェックしようとウインデージのネジを回した時、慎重にやったつもりなのに何となくネジを舐めてしまった。コレには超ガッカリだ。触りさえしなければ、ずっと新同を保てたのに…などと、くだらない後悔をウジウジ引き摺りながらこの原稿を書いている。
試しに、Gun Parts Coで部品をチェックしたら、在庫があるらしい。1個3ドル。オーダーする手かと考えたが、恐らく中古パーツだろうから既に舐めているかもしれない。だったら欲しくない。ああでも、どうしよう…まったく自分は、始末に終えないしみったれガンマニアのようだ。
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高級感はないけれど、そして繊細さには欠けるけれど、何と言うか、香料と香辛料が思いっ切り効いた、情熱だけは満載の銃には違いない。
アストラには44マグナム口径のリボルバーも存在し、そちらの名前はターミネーターという。80年に登場の超強力なマイナー銃だ。聞けば、映画にはチラホラ出ているらしい。
そっちもいつの日か…なんて、しょーもない野望を抱く自分である。
Photos & Caption by Toshi
Gun Professionals 2014年11月号に掲載
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